A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第36話
「空き家を含めた全ての家や店、それから鉱山の中もくまなく探すんだ!! この町に絶対居る筈だからな!!」
ライマンドの大声による指示と共に、鉱山の町で王国騎士団と魔術師部隊による一斉捜索が開始された。
エヴェデスがその町を出発して1日後の話である。
あの村から馬を全速力で駆けさせて来たは良いものの、やはり馬も人間と同じく活動出来る
エネルギーには限度がある。動けば当然腹だって減るし、眠るのだって人間と一緒だ。
本音を言えばもっと早くこの鉱山の町に辿り着きたかったが、馬を途中で休ませなければいけなかったので
結局丸1日掛かってしまった。
それでも少しはこれであの魔力を持たない人間に追い付けたかと思い、こうして一斉捜索に乗り出しているのである。
(今頃は既にあっちのゴリソニーの捜索も終わってる頃かな……?)
ゴリソニーに向かった、と言うあの村人の男の証言を聞いて、それがもしかしたら魔力を持たないあの男が
その村人の男についた嘘である可能性もあるのでは? とドミンゴがライマンドに進言した。
それならば……と少数精鋭の40人のチームを結成したライマンドはその40人全てをこっちの鉱石の町である
サーヴォスに派遣する事にしたのだ。
当然リーダーはライマンドである。
もう一方のゴリソニーの町の方にはドミンゴが配下の魔術師達30人を引き連れて向かった。
せっかく人数が居るんだから役割分担して捜索に乗り出した方が効率も良い。
それに魔術師達は馬に乗れない人間が多いのだが、騎士団院であれば入団試験に乗馬試験もあるので
その点も考慮し、遠い方のサーヴォスに対して馬で移動出来る騎士団員達を向かわせて近い方の
ゴリソニーの町には徒歩で移動出来る魔術師達がドミンゴをリーダーとして向かったのだった。
ちなみに「ここに絶対居る筈だ」と言うのはあくまで自分の推測にしか過ぎないライマンドだったが、もしその推測が
当たっていたとしたらそれほど嬉しい事は無いだろう。
騎士団員の士気を高める為の嘘も時には重要な事である。
勿論ライマンド自身も町中を捜索しに掛かっているが、時間を掛けても掛けてもなかなかあの魔力を持たない男の姿が
見つからない事に気が付き始めた。
(……こっちじゃ無い……のか?)
まだ捜索は終わっていないので見つかる可能性はゼロじゃ無い。
木の根草の根を掻き分けてでも捜し出す様に部下に命じてあるからこそ、ライマンドの冷や汗が多くなって行く。
このまま見つからなかったらまずいな……と思っていた矢先、ライマンドに1人の騎士団員が声を掛けて来た。
「団長、魔力を持たない人間と思わしき男の目撃情報がありました!!」
「何っ、本当か!?」
突然の目撃情報の伝令に、一瞬にしてライマンドの顔色が変わった。
「何処で誰がその目撃情報を?」
「ここから程近い場所にある料理屋です。その料理屋で店のマスターと一緒に何やら話し込んでいた男が居たのですが、
その男の近くを通った時に魔力を感じる事が出来なかった……と証言している獣人からの情報になります!!」
「分かった、それじゃその料理屋に案内しろ!」
「はっ!!」
ライマンドはその騎士団員と一緒に料理屋に急行し、マスターに詰め寄る。
「さぁ全て話して貰おうか。貴様と話していたその魔力を持たない男の事をな。目撃者も居るんだ。
言い逃れは出来ないぞ?」
カウンター越しに身を乗り出して思いっ切り詰め寄るライマンドだが、そんなライマンドにもマスターは動じない。
「……確かにその男ならここに来た。そして俺と話して行ったよ」
「その男は何処に行った? そして何を話した?」
更に身を乗り出して鼻と鼻がくっつきそうな位まで迫るライマンドに、マスターは落ち着いた口調で答える。
「さぁねぇ。旅人みたいだったけど別に何処に行くとまでは聞いてないよ、こっちも。ただ単にこの国の景気は
どうだとか、この店始めてどれ位経つんだとかそう言う世間話だよ」
全く動じる様子も無く淡々とした口調で話を続けるそのマスターに、ライマンドは顔を離してカウンターからも身を引く。
「ふぅん、ああそう……。だったらその男の行方を絞り込むしか無さそうだな。この町の騎士団の奴等はそんなに
居なかった筈だから期待出来ないとして、自警団の連中も俺達に協力しないって言う方向性だと……やっぱ
俺達だけで何とかするしかねえな」
鉱山の町として栄えているサーヴォスでは騎士団も駐屯しているのだが、それよりもこの町の治安を守る身分として
権力を持っているのが自警団の存在だった。
町の自警団の方が騎士団よりも数が多く、騎士団員と違って王に仕えていない為この町ではその騎士団員よりも
発言力があるのだ。自警団はこの町を守る事にプライドを持っている人間の集まりなので、目撃情報なら
手に入るだろうが追跡には加わってくれないだろう。
(全く、厄介な事になって来やがったぜ……)
騎士団長自らここまでやって来た分、何としてもあの魔力を持っていない男をこの先で捕まえたい騎士団は
その自警団への聞き込みを始めるのだった。
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