A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第35話


「それじゃあ俺はエスヴァリーク帝国へ向かうよ。色々と世話になったな」

そう言って料理の代金を払ってから席を立ったエヴェデスだが、そのエヴェデスの背中にマスターから声が掛けられる。

「ああちょっと待て待て。忘れ物があるぞ」

「え?」

「せっかく書き込んだんだからこれ、持ってけよ」

カウンターの上に広がっていたままの世界地図をガサガサと折り畳み、エヴェデスに差し出す料理屋のマスター。

「え……くれるのか?」

エヴェデスにとっては思い掛けないプレゼントであった。

「良いよ。世界地図もそれからこの国の地図もやる。どうせ俺は年齢的にも立場的にもこの町から離れられない

人間だから必要無いしな。騎士団に目を付けられる前にさっさと逃げるんだな」

「おお、そりゃありがたい!!」

再びさっきのドアの向こうへと消えたマスターは、今折り畳んで渡してくれた世界地図と同じ位に古ぼけた状態の

地図……このカシュラーゼ全体の地図もくれた。


これでようやく地図もゲット出来たので、何とかこの先の予定も立てられそうだとエヴェデスは胸を撫で下ろした。

その王国全体版の地図を見て、ガラデンの町の表記を探してみる。

(ここが俺の今居る町で……で、ガラデンはこっちか)

地図上で見るだけならそんなに遠くは無さそうだが、縮尺がどうなっているかまでは分からないので意外と

時間が掛かるのかも知れない。

(歩いて5時間って言ってたけど、道に迷う事も考えて……)

最悪の場合は野宿かな、と思いつつエヴェデスは料理屋を出た。かなりの大収穫だ。

結局料理屋で大体の情報収集は済んでしまったので、宿屋を含めた他の場所に行くのはとりあえず後回しにして

クリーニング屋へと先に向かう。

宿屋でも何か情報を仕入れる事が出来ないかと考えたのだが、料理屋で既に色々な情報を仕入れた後だったので

別に行く必要が無いんじゃないかと考えたからだった。

(クリーニングして貰って……それから少しこの町を見て回ってみるか)

色々慌ただしかったから少しゆっくりしたい。


そう思って教えて貰ったクリーニング屋に向かったエヴェデスだったが、そのクリーニング屋に入るのは無理だと言う事が分かった。

「……!!」

この町にも騎士団員が居ない訳では無かった。

何と、クリーニング屋の中で騎士団員が装備と服のクリーニングを頼んでいたが店の外から見えたのだ。

(げぇ、あれじゃあ中に入れねえ!!)

せっかく教えて貰ったのに、このまま入ったら間違い無く修羅場を迎えてしまう。

ここはもうクリーニングを諦め、自分の姿が見つかる前にエヴェデスは退散する事にした。

(くっそ、参ったな……)

血の匂いにつられて野生動物が寄って来るかも知れない。

でもそれ以上にやって来て欲しく無いのは間違い無く騎士団員であった。


だからこそエヴェデスはすぐに退散し、さっきの料理屋にもう1度向かった。

「……あれ、どうした? クリーニング屋の道が分からないのか?」

さっき出て行った筈なのに店に戻って来たエヴェデスを見て、マスターはぽかんとした顔を見せる。

エヴェデスは動揺を何とか抑え込みつつ、マスターに別の目的地を訪ねる。

「ちょっと予定が変わってね……。先にこの先の旅で必要な食料品を買い込みたいんだ。干し肉とかそう言うのさ。

肉屋とかに行けば売ってるかな?」

予定が変わったと言うドイツ陸軍の将校の言葉に一瞬考えこむマスターだが、すぐにエヴェデスの方に向き直って頷く。

「分かった。何かがあったんだろうけど俺は聞かない。食料品店なら肉屋とか魚屋が密集してるよ。保存の利く食べ物が

欲しいなら一声掛けてみろ。場所はこの店を出て左に行き、その先の交差点を右に曲がれば食料品店のある通りに出るから」

「重ね重ね感謝する。それじゃ今度こそ、ありがとうな」


マスターには本当に感謝してもし切れないエヴェデスは、言われた通りの道順で通りを歩いて食料品の店が

立ち並ぶ通りに辿り着いた。

そこでさっさと食料品を買い込んだエヴェデスは、もうこのままそのワイバーンがあると言う町に向かう事にする。

(考えてみりゃあそれが正しいのかも知れねぇな。モタモタしてたらそれこそ騎士団の連中に追い付かれる可能性が高い。

だったらここからもう逃げておこう)

今の時間はまだ日没まで余裕がある。

ここから5時間だったら、丁度日没頃にその町に辿り着けるかも知れない。

だったらそこで宿を取ろうと考えたエヴェデスはすぐに歩き出した。


「はぁ……はぁ……」

それでも、流石に5時間も歩くのはエヴェデスの体力が持ちそうに無かった。

2日間のほとんどを歩きっ放しだった上に、鉱山の町でも食事にありつけはしたものの大して休む事は出来なかった。

(あー、野宿じゃ無くてちゃんとしたベッドで寝たいもんだぜ)

だけど寝たら騎士団に追い付かれる可能性がある。

でも人間の性質上、寝なければ体力が持たない。

こうなりゃまた野宿するしか無さそうだと考えるエヴェデスの足は、それでも1歩1歩確実に次の町に向かって進んで行くのだった。


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