A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第34話


「トラブルねぇ……。カシュラーゼだけを省いているのは、それこそ騎士団とか魔術師部隊が

その男を捕まえようとするからか?」

「ああ。戦争を起こした過去があり、それから今でも戦争を起こそうとしているって噂されてる国だからな。

そんな行動的な国に逃げたその男の事を話したら、何としても騎士団も魔術師部隊もその男を

捕まえに来るだろう。あんたと同じく、な」

「お、おう……そうだな」

実際に自分は今の状況で追われているので、苦笑いを漏らすしかリアクション出来ないエヴェデス。

「それじゃあ男はまだ行方不明のままなんだ?」

「そうだな。それで結局他国への捜索願いも出される予定……らしいんだがな」

何だか歯切れの悪いマスター。

その様子を訝しんだエヴェデスが器用に片眉を上げれば、マスターはカウンターの上に置かれている

自分のお茶が入ったコップを手に取って一気に飲み干した。

喋り続けて乾いた口の中をお茶で潤し、その歯切れの悪いセリフの続きを喋り出す。


だがその瞬間、エヴェデスに大きな衝撃がやって来るのだった。

「それと……魔力を持っていない人間が現れたのはエスヴァリーク帝国だけじゃ無い。この王国と海を挟んだ

ソルイール帝国と言う所にも前に現れたそうだからな」

「え、え……え?」

まさかの事実がここに来て明かされた。

てっきりエスヴァリークだけの話だと思っていたのに、まさか他の国にも魔力を持っていない人間の存在があっただなんて。

勿論これも聞き出しておかなければいけないと悟り、エヴェデスはさっそく質問する。

「ちなみに、それは一体どれ位前の話になる?」

「そっちの人間に関しては確か……9〜10ヶ月位前かな?」

「あれ、随分前の話になるんだな?」

これもまたてっきりで、そのエスヴァリーク帝国が捜し回っている以前の話であればソルイール帝国でも魔力を

持たない人間を探し回っていてもおかしく無い筈だと思ってしまう。


エスヴァリークの時期から6か月以上も前の話であれば尚更であるので、その疑問に思った部分をマスターに問い掛けてみた。

「そっちの人間は今どうなってるんだ?」

「それがそっちも行方不明らしいんだ。この王国にはやって来て無いみたいだけど、実際の話はどうなのか俺も分からん」

「そうなのか? その帝国にも現れて、しかもそんなに時間が経ってるんだったらそれこそその帝国だけじゃ無く他の国に

通達があっても良い筈なのに。まぁ……俺と同じく魔力を持たない人間の話を、その帝国もこの王国にしたく

無いんじゃないかって気持ちもあるんじゃ無いかとは思うけどな」

その秋の武術大会に出た人間の話ならともかく、かなり時間が経っているのに未だに見つかっていないって言うのも不思議な話だ。

でも、地球でも凶悪犯罪を犯した人間が何年にも渡って逃げ続けていると言う事もあり得る話なので、その辺りを

考慮すれば別に変な話では無いかも知れない、と考えるエヴェデス。


しかし、その後にもたらされたマスターの話に再びエヴェデスはびっくり……いや、それを通り越して表情が凍り付くのが

自分でも分かってしまった。

「あ……いや、それとは別の理由だと思うぞ」

「はっ?」

「……これはもうこの王国でも有名になっているんだが、ソルイール帝国の騎士団長と、その騎士団長に目を掛けられていて

「ソルイール帝国の英雄」とまで呼ばれていた男が魔力を持たない人間に殺されたんじゃ無いかって話があるんだ。

「え?」

エヴェデスは自分の耳を疑ってみたが、どうやら正常らしい。

「殺された……? しかも騎士団長が?」

「あくまでも憶測にしか過ぎないのだが、その時の状況からしてほぼ魔力を持たない人間の仕業と言う事で間違い無いらしい。

ただ、どうやって殺されたかやどんな経緯でそんな結末を迎える事になったのかまでは俺も知らんぞ」

色々と予想の斜め上を行く話が出て来て、エヴェデスは自分の首筋に冷や汗が流れるのが分かった。

「プライドって言うのもあるんだろうな。エスヴァリークは武術大会で騎士団長が負けただけ。だがソルイール帝国では自国の

騎士団長と、それからギルドのトップクラスに位置するだけの功績を持っていた帝国の英雄が殺されたんだから、

そんな事が他国に知られればソルイール帝国が攻め込まれてもおかしく無いだろうし。……1つだけ確かなのは、

この国と一緒であんたがソルイール帝国に行けば間違い無く追い掛け回されるだろうな」


マスターの言う事も最もだろう。

自分と同じ境遇の人間かも知れない人物がその帝国に居るのだとしたら行ってみたい気持ちで一杯なのだが、

そうした境遇があって魔力を持たない人間に敵意が殺到している状況ならば自分が行けば間違いなく殺されても

おかしくないだろうと思ってしまったドイツ人。

殺人を犯したかも知れない人間が、まだこの世界に居るかも知れない。

しかも騎士団長と帝国の英雄と言うのであればそれなりの実績を残している筈だから、その2人を殺したとなれば

その上を行く実力の持ち主かも知れないし、毒殺やら暗殺やらを成功させたのでかなり頭が切れる人物かも知れない。

いずれにせよそのソルイール帝国に行くのは止め、この先はエスヴァリーク帝国を目指す事にこの時点でエヴェデスは決めた。


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