A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第33話


この飲食店に入ってから1番最初にエヴェデスがびっくりした事……つまり、自分と同じく魔力を

持っていない人間がこの世界に現れたと言う話だった。

その時はびっくりし過ぎている間に話が色々な方向に移り変わってしまい、今の今まですっかり忘れていたのだが

ここに来てようやく思い出したのでその事についてもう1度聞いてみる。

「ああ、それについては確かにまだ話が途中だったな。あんたの知り合いかも知れない、魔力を持たない人間が

現れたのはその時言った様にエスヴァリーク帝国だ」

マスターはそう言いながら、さっきと同じ様に右手の人差し指で世界地図の右下に存在している国の名前をトントンとつつく。

「ここがそうだな。ワイバーンでひとっ飛びでもして貰えば良いだろう」

「ん? ワイバーン……?」

地球に居た時、何だか聞いた事がある様な無い様な名前がマスターの口から出て来たので

それについてエヴェデスは聞いてみる。

「ワイバーンって……そんな移動手段があるのか?」

「この世界じゃ一般的だぞ? あんた本当に何処から来たんだ?」

「いや、あー……ほら、俺の故郷は凄い田舎だったから、馬とか歩きでしか移動手段が無くてよぉ」


またマスターにキョトンとされてしまったので、エヴェデスは咄嗟にごまかした。

「……そうか。だったらワイバーンでの移動手段についてだけど、ワイバーンはこの町にも無いんだ。あるとしたら

ここからもう少し南の方に向かって歩いた場所にあるガラデンの町って所に行けば良い」

「ガラデンだな。歩いて向かおうと思うけどどれ位時間が掛かる?」

「ここからだとそんなに遠くは無い。歩けば5時間位かな」

何とか次の行き先も決まった。

だとしたら次に聞くのは、そのエスヴァリーク帝国と言う隣国に現れたとされる魔力を持たない人間についてだ。

「そのエスヴァリークって国に現れた、魔力を持たない人間ってどんな人だったとかそう言う情報は無いのか?」

「そうだな……エスヴァリークはその人間についてはなかなか情報を漏らさない様にしてるみたいだけど、

人の噂なんてあっと言う間に広がるからな。当然こっちにも入って来てるよ。断片的なのでも構わないなら、

その人間は……エスヴァリークの武術大会に参加したって話がある」

「武術大会……」


人間が戦うのは地球でも異世界でも変わらないんだな……と妙な気持ちになったエヴェデスに、更にマスターは話を続ける。

「そうさ。しかもその人間……噂によれば男だったらしいんだが、その男は武術大会だってのに武器も防具も装備していない

丸腰の状態にも関わらず、何と優勝しちまったらしいんだよ」

「優勝って……それって相当有名になりそうだな」

ただでさえ武器を持っている相手に丸腰で立ち向かうのはきついのだが、そのハンデを乗り越えて優勝とは……とエヴェデスも

だんだんその優勝した男に興味が湧いて来た。

「それって何時の話だ?」

「2ヶ月程前かな。エスヴァリークでは1年に4回、季節の変わり目辺りにそれぞれ武術大会が行われるんだ。確かそれは

秋の武術大会だったから……あ、1か月と半分位前かな。とにかく秋の武術大会にいきなり参加して来て、いきなり優勝して。

そしてその決勝戦の後に行われた帝国騎士団の団長との勝負でもその男は勝ってしまったらしい」

「帝国騎士団長に……か」


その騎士団長がどれ程の実力を持ち、そしてどう戦ったかまではマスターも分からないと言う。

だが騎士団長と言えば、地球で言えば将軍と言う立場になるだろうからそれ相応の実力を持っていなければ話にならないだろう。

勿論騎士団長の年齢等が分からない以上一概には言えないのだが、武術大会の特別戦に参加して来る位なのだから

やはりそれ相応の実力が無ければ参加を認められてはいないだろうし、その騎士団長を倒してしまう位なのだから魔力を

持たないその男はかなりの実力者であると言える。

「その男の容姿とかの情報は?」

「んー……ちょっとしか分からないな。茶髪の男で年齢も良く分からない。名前は……聞いた事の無い響きだったな。

何て言ったか……すまん、そこは覚えて無いんだ」

「そうか。だったらその男の戦い方は噂になっていたか?」

「戦い方は素手って事と、武器を持っている相手にも全く怯む事無く、攻めの姿勢で立ち向かっていたと言う事しか……」


この状況では手掛かりはゼロに等しい事が分かる。

茶髪の男なんて地球にはそれこそ星の数程居るし、素手で戦う人間だって星の数程居る上に、そもそも自分と同じく地球から

この世界にやって来た人間かどうかも分からないからだ、とエヴェデスは考えた。

「うーん、それじゃあ手掛かりにならねーな。それ以上の情報は無いままなのか? その男は騎士団長に勝った後どうなったんだ?」

「それが、その男は知らない間に姿を消してしまったそうでな。噂じゃあ騎士団とトラブルを起こしたとかで逃げたらしい。

だからエスヴァリーク帝国騎士団がその男の行方を未だに追っているんだが、近々カシュラーゼ以外の他国への

捜索要請も出すらしいんだ」


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