A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第32話
「……い、おい? どうした?」
エヴェデスが地図を見つめたまま固まってしまっている事に気が付いた酒場のマスターがそう声を掛けつつ
彼の身体をグイグイと揺さぶってみると、ハッとした表情でエヴェデスは「現実」に戻って来た。
「え、ああ、あーすまんすまん。えーっと何処まで話したんだっけ?」
「この地図で戦争の事を説明しようとした所までだ」
「あっそうだったか。って事はまだこの地図で説明はしていないって訳だな」
「そうだ。それじゃあ続けるぞ」
大きなショックから立ち直り切れないまま、エヴェデスはこの世界で起こったと言う大きな戦争の
全容についてマスターから聞き始めた。
「こっち側にある、商工に秀でているイーディクト帝国がカシュラーゼに軍事関係で武器や物資の支援をしていた」
マスターのゴツゴツした骨太の右手の人差し指の先端が、トントンと地図の一角を指し示す。
「それから南国のアイクアル王国は農耕に秀でた国なんだが、そこからは連合軍の兵士達の食事バックアップをしていた。
だけどヴァーンイレス王国は地の利を活かしてしぶとく抵抗を続けたんだ」
「……でも、それだけ多くの国が連合軍として攻め込んで来たら一たまりも無いと思うんだがな」
マスターの指が地図の上を滑って行くその光景を見ていたエヴェデスは、そのしぶとかったと言うヴァーンイレス王国の
話を聞いて1人の軍人としての観点で答える。
「そうだな。余りにもしぶとくてなかなか戦争に決着がつかず、連合軍側はついに強行作戦に出た。このカシュラーゼの西にある
ソルイール帝国がヴァーンイレス王国に止めを刺す為に騎士団を大量に送り込み、しぶとく持ちこたえていたヴァーンイレス王国は
とうとう壊滅してしまった」
これが戦争の全容だとマスターから教えられたが、良く考えてみればその荒くれ者達との話と余り接点が無い気がした。
「ああ、とても良く分かった。だけど……荒くれ者の奴等と騎士団が繋がりを持っているかも知れないって言う話に
そこからどう繋がって行くんだ?」
その質問に、マスターは恐ろしい話を切り出して来た。
「……実は、また戦争がこの国が切っ掛けで起こるかも知れないんだ」
「はぁ?」
また戦争を引き起こすつもりとは一体どう言う事なのだろうか。
今度は何処と戦争を起こすつもりなのだろうか?
何が目的なのだろうか?
勝ち目がある戦いなのだろうか?
ここでも軍人としての考え方で一気にそんな疑問が押し寄せたエヴェデスは、マスターに対してガンガンその疑問をぶつけてみる。
「そこでさっきの荒くれ者の話と繋がるんだ」
「ああ、騎士団との繋がりがあるんじゃ無いかって話か?」
金属パーツばかりを集め、そしてそれを騎士団に流している事を考えれば、やはり……と言う感情が真っ先に浮かんで来たエヴェデス。
気が付いた時には既に口が開いていた。
「まさかと思うが、その騎士団は金属パーツを集めて何かを作るつもりなのか?」
マスターはその問い掛けに腕を組んで考え込む。
「……この料理屋にはそれこそ色々な人間がやって来るんだが、やっぱり良く無い噂も飛び込んで来るんだ。
そして2ヶ月程前、俺はこんな事を聞いてしまった」
マスターはエヴェデスに思いっ切り顔を近づけて話す。
「騎士団と魔術師部隊が配下に荒くれ者達を当てがって、そして国民の金属パーツばかりを集め、
あんたの言う通り何かを開発してるんじゃ無いかってな……」
「そう言う展開になるか……」
ただ自分は地球に帰りたいだけなのに、何かとんでもない事に巻き込まれているらしい。
「とにかくお客さんも気をつける事だな。後、この事は誰にも話すなよ?」
「言わない言わない。ってか、言えない」
俺の持っている袋の中にあるあの資料の事も言えないからな、と心の中でエヴェデスは呟きながら、ここでふと思い出した事を聞いてみる。
「……そうだ、今このマントの下に着ている俺の服がもう汗でドロドロなんだけど洗いたいんだ。クリーニング出来る場所って何処かに無いかな?」
汗もそうだが、返り血や土でそれこそドロドロに汚れてしまっているのでエヴェデスとしては一刻も早く洗いたい状況だった。
それを聞き、マスターはああ……と頷いてこんな情報をくれた。
「それだったらこの町にある、装備の汚れ落としが得意なクリーニング屋に行けば良い。ここは鉱山の町だから汚れとは切っても切れないしな。
装備も服も泥汚れとか位だったら半日もあればしっかりやってくれる筈さ」
「ほう、そんな良い所があるのか」
確かにこの町では泥汚れは付き物だとイメージ出来るので、そう言う商売が成り立つのも違和感は無かった。
「それじゃそこに行ってみるけど、ここから何処にあるのかな?」
「この店を出て右に行き、まっすぐ歩いて行けばクリーニング屋の看板がじきに見えて来るよ」
「感謝する」
だが、まだエヴェデスには聞いておかなければならない事があった。
それを聞き始めたエヴェデスだったのだが、その事に関する新たな事実がマスターの証言でこの後判明する事になる。
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