A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第31話
「ああ。その荒くれ者達も街道を歩いて来る人間達や商隊の馬車を見境無く襲っては金属製品を奪って行く
変わった荒くれ者なんだが、その金属製品を運んで行く途中の奴等を見つけた連中が居てな。
荒くれ者達の後を追い掛けたが途中で見失っちまったらしい。だが……」
そこで一旦言葉を切って、再度マスターは続ける。
「見失った場所の近くが、とある町の騎士団の詰め所だったんだ」
「ん、あれ? それって……」
まさか騎士団がその荒くれ者達と繋がってるのか? と予想するエヴェデスだが、マスターは首を横に振った。
「それだけじゃ騎士団と荒くれ者どもが繋がっているとは断定出来ないだろう」
「そりゃそうだな。騎士団の詰め所の近くで見失ったってだけだから、全然証拠にもなりゃしねえし」
「ああそうだ。しかし、この国は重大な事を昔隠蔽しやがったんだ」
「えっ、重大な事って?」
次から次へと出て来るこの国の怪しい動きを暴露して行くマスターに、何時しかエヴェデスも聞き入っていた。
「昔、この世界では大規模な戦争があった。それは知っているな?」
「えっそうなの?」
そんなの初耳、と言うリアクションのエヴェデスに対して、マスターも同じ様にポカーンとしてしまう。
「そうなのって……一体何処の田舎から出て来たんだ、あんたは?」
「凄く遠い田舎だよ。知らない事だって沢山あるから俺はこうして世界を見て回ってるんだ。で、戦争があったのは
今の話で聞いたけど具体的にどんな戦争だったんだよ? それで、その戦争でこの王国が何かやらかしたのか?」
深く突っ込まれない内にさっさと話題を進めて貰うべく一気に畳み掛けるエヴェデス。
その畳み掛けにマスターは1つ頷き、しょうがないと言った表情にちょっと変化した顔でエヴェデスに戦争の内容を説明し始めた。
「4か国が1つの国に対して一気に攻め入った。その戦争の発端となったのが、領土拡大の為に隣国への戦争を
提言したこのカシュラーゼだったんだ」
「あ、ここが最初にやったんだな」
エヴェデスには、その戦争の発端云々の話が全然他人事には思えなかった。
何故なら今の自分の恰好……つまりヒトラー率いるナチスドイツ軍が、1939年にポーランドに軍事侵攻をした事から
全てが始まったのが第2次世界大戦だったからである。
その軍事侵攻に対してポーランドの同盟国だったイギリスとフランスがドイツに宣戦布告し、それが世界中に拡散して行ったのだから。
戦争のきっかけを作った国の人間が、戦争のきっかけになった時代の軍服を着込んで、そして今聞いた戦争のきっかけらしい
この国にこうして飛ばされてしまうなんて笑えないジョークも良い所である。
思わず苦笑いを浮かべるエヴェデスの前で更にマスターの話は続く。
「最初に攻め込んだのはこの魔術王国カシュラーゼ。この国に色々な国が支援をしたんだ」
「そりゃあ武器とか食糧とかか?」
「なかなか察しが良いな。それじゃあちょっと待ってろ」
そう言ってカウンターの奥にある扉に引っ込んでいったマスターは、2〜3分ですぐに何かを持って戻って来た。
それは何と……。
「あっ、これは!?」
「この地図を使って今から説明するよ。言葉だけじゃ俺も説明し難いからな」
地図を持って来て説明してくれるのはありがたかったが、エヴェデスはそれよりも別の事でショックを受けていた。
(な、何だこの地図は……)
マスターが世界地図だと言って持って来た「それ」は、エヴェデスの知っている地球の世界地図とはまるで似ても
似つかないデザインだったからである。
まず島みたいなのが沢山あり、それが全て繋がっている。
厳密に言えば細かい島は沢山浮いているのだが、メインとなっている大陸は1つしか無い上にその大陸の中に
色々な国がひしめき合っているらしい。
領土はそれぞれ色で区切られており、灰色で区切られている部分が今の自分が居る魔法王国カシュラーゼだと
その世界地図でやっと判明した。
それにこの世界地図の古ぼけ方からしても、明らかに最近急ごしらえで作りました……と言うレベルで破けていたり
日に焼けていたりしている訳では無い。
(じゃ、じゃあまさか俺が居るこの魔術王国カシュラーゼって……)
うすうす感づいてはいた。だけど本能がそれを認める事を拒否した。
うすうす気が付いてはいた。それでも地球だと思いたかった。
うすうす分かっていた。だがこれは夢なんじゃ無いかって頭の何処かで思っていた。
そんな考えは、この世界地図を見て一気にエヴェデスの中から吹っ飛んで行った。
(この世界の名前は……エンヴィルーク・アンフェレイアって言うのか)
世界地図の上の空白部分に書いてあるその「エンヴィルーク・アンフェレイア」の表記が、この世界が地球では
無い事の証明となってしまった。
(この展開ってまさか、本当に俺は異世界って奴に来てしまったんじゃ……?)
だとしたらやっぱりジョークじゃ済まされない。
ドッキリ企画でも無ければ何処かのテーマパークに迷い込んだ訳でも無い。
れっきとした現実で、認めたくは無いが認めざるを得なければいけないと言う考えがエヴェデスの頭の中を駆け巡っていた。
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