A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第30話


「俺は騎士団の連中が嫌いでね。それから魔術師連中もだ。魔法王国だからって全員が全員魔術に

感謝している訳じゃ無いからな」

「……もしかして、騎士団とか魔術師連中って横暴だったりするのか? その言い方だと」

他の客で色々と盛り上がっている店内の状況に構わず、エヴェデスとマスターの会話は続く。

「ああ。俺はこの場所で親父からこの店を受け継いだから離れるに離れなくなっちまったけど、離れられるもんなら

さっさと離れてこの国から出て行きたいね。こんな国、俺は大嫌いだからな」

「そこまでか?」

「ああ。もし俺が他の国の人間だったらあんたの事は通報したと思うけど、騎士団の連中の顔なんて

見たくもねえから通報しない。それだけだ」


理由はどうであれ見逃してくれるのならエヴェデスにはありがたい事だが、かなり複雑な事情がどうやらこの国の

騎士団と魔術師達にはある様だった。

「そ、それは良いんだけど……何かあったのか、騎士団の連中と魔術師の連中とは? 俺も騎士団の連中は

色々纏わり付いてくるから嫌いだ。だから大体分かるんだけど、そんなに酷いのか、騎士団と魔術師の連中は?」

騎士団と魔術師を強調する為に2回言ってみたのが功を奏したのか、マスターはその理由をポツポツと話し始める。

「一言で言えば、とにかくやりたい放題やってる横暴でわがままな連中って感じだな。まぁでもそれも無理は無いかも知れない。

何せ、王国騎士団の連中は魔術師部隊と組んでいるから、武器と魔術がレベルの高い領域で両方使える人間しか入れないんだ。

だからプライドも高い。それでも俺達の国を守ってくれる存在だから国民は何も言えないんだ」

「そ、それなら王様に頼めば良いんじゃねえのか?」


騎士団と魔術師部隊はその国王に仕えている筈だから、幾ら横暴な騎士団と魔術師部隊の連中と言っても自分よりも

上の立場ならば命令を素直に聞く筈じゃあ……とエヴェデスは思ったのだが、どうやらそう簡単にはいかないらしい。

「それが出来てるなら俺だってこんなに騎士団と魔術師部隊を嫌う事は無かったさ。でも出来ないんだ」

「だから何でだよ?」

「国王はその2つの集団に頭が上がらないんだ。言うなれば言いなりって奴だろう。そもそも今の国王なんてただ「王国」って

名前を保つ為だけに居る様なもんだしな。実質的に権力を握ってるのはその騎士団の団長のライマンドって奴と、

魔術師達のトップで筆頭魔術師の役職をしてるドミンゴって奴だよ」

「そうなのか……。もしそいつ等に俺が目をつけられたらどうなるのかな?」

分かり切った答えだが一応聞いてみるエヴェデス。

だがこの質問を切っ掛けにして、この王国にまつわる驚愕の事実が発覚する。


「魔力が無い人間なんてこの世界じゃ珍しいだろうから、絶対に捕まらない方が良い。捕まったら魔術の施設みたいな所に

放り込まれて、死ぬよりも辛い苦しみを味わう事になるんじゃ無いかな」

「そ、そうか……やっぱりそれって魔術の研究とかそう言う話か?」

「まぁそう考えるのが自然な流れだろうよ。この王国は何と言っても魔法王国なんだから、魔術に関する事ならそれこそ

目の色を変えて血眼になってお客さんを探しに来てもおかしく無さそうだしな。あいつ等のやる事はそれだけ過激さ」

でも言葉で言われてもいまいちその過激さが分かり難い。

確かに追い掛け回されはしたものの、あれはいきなり自分が抵抗したから追い掛けられたと言う見方も出来るので、

出来れば自分以外のエピソードを聞かせて貰いたいのがエヴェデスの本音だった。


「ちなみにその騎士団と魔術師部隊に関しての過激なエピソードって何か無いのか?」

「色々あるさ。例えば魔術師部隊に所属していないとある魔術師がひそかに新しい特効薬を開発してるって魔術師部隊が知ったら、

その魔術師を城まで連行して研究に無理やり自分達も参加させ、そして特効薬が完成したら全て手柄はその魔術師部隊の物として

扱われたり。それから騎士団の方は視察と称して各国を回り、ギルドに所属している腕利きの傭兵を本人の意思とは関係無しに

騎士団に入団する様に迫り、断ったらその傭兵の家族を拉致して騎士団に入団せざるを得ない様にしたりとかな」

「それ犯罪じゃねーか」

国民を守る立場の筈の騎士団員が拉致をしたり、他人の手柄を横取りする魔術師部隊等のエピソードは聞いていて気分が悪くなる。

聞かなきゃ良かったかな……と思ってしまったエヴェデスだが、次のマスターの話でその顔色が変わる。

「他にも数えたらキリが無い位やってるんだが、最近また妙な事をやり始めたらしいんだよな」

「何それ?」

「ほら、最近話題になって無いか? 金属が奪われる事件……」

「え?」

金属、金属……と言うと一体何があったっけ?

腕を組んでそう考え込むエヴェデスだったが、ある話を思い出してバッと顔を上げた。

「そうだ、前にこんな話を聞いた事がある。この辺りには荒くれ者が出るらしいな?」

あの大きな村で出発する前に男から聞いた、その荒くれ者達の話はエヴェデスも良く覚えていた。


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