A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第45話


ヒュンと風を切る音がリオスの耳に届いたかと思えば、次の瞬間にはカッと言う音と共にリオスの

すぐそばの木の幹に矢が突き刺さる。

「……な!?」

咄嗟にリオスとホルガーは身を屈めて、矢が突き刺さった木とはまた別の木の幹にそれぞれ身を隠す。

夕暮れ時のこの滝つぼの周りに、バラバラと何人もの人影が現れた。

そしてその人影達の中には、ここに居る筈の無い……リオスにとっては因縁とも言うべき相手が何人か存在していた。

(あ、あいつ等は!?)

あの町で騎士団に連行されて行った筈の茶髪の男にスキンヘッドの男、赤髪の女に紫髪の女の姿が

夕暮れ時のこの夕日に照らされている場面でもはっきり分かった。

髪の色だけじゃなくて、体格や顔つきでも判別出来る位にリオスのイメージに残っている何故あいつ等がこんな所に居るのか?

いや、今はそれよりも自分の身を守る事の方が重要だとリオスは息を吐いた。


しかし山の上の方へ続く登山道も下に続く登山道も、どちらもすでに何人もの襲撃者達によって行く手を阻まれてしまっている。

(こいつ等は一体何なんだ……山賊の類か?)

自分が隠れているこの木の位置からは、ホルガーの姿はあいにく見えないのだがとにかく無事である事をリオスは願うばかりだ。

あの最初の町の民家の時と同じ様に、手に色々な武器を持って襲い掛かって来る。

(く……)

リオスも当然応戦。視界の隅に同じくこの集団にハンマーで対抗するホルガーの姿が映った。

向こうが頑張っている分、自分も倒れる訳にはいかない。

「あいつは妙な体術を使うぞ、気をつけろ!!」

スキンヘッドの男の注意を促す大声が響き渡る。


その声を聞きながら、まずはロングソードを振り被って来た男がロングソードを振り被るのに合わせて自分も回転し、そのまま

斜め下から振り上げて半月状のアーチを描く強烈なキックを頭にお見舞い。

次にナイフを振り上げながら走ってこちらに向かって来る女に対しては、身体屈ませつつ手を支点にしてするっとターンし、

自分のボディで相手をつまずかせて転ばせる。

他にも左の回し蹴りをして来た女の股間に上手く下段斜め振り上げキックを合わせてから、激痛にたたらを踏んだ女の足を

掴んで転ばせたりするテクニックや、槍使いの男が足目掛けて槍を振り回して来たのでリオスはジャンプしてそのまま男の胸に

強烈なドロップキックでカウンターヒットを食らわせる等、カポエイラ独特のテクニックを遺憾無くこの狭く足元の状況も良くない場所で発揮する。


「はぁ、はぁ……く……っ!」

しかし、あの民家でのバトルの時とは状況が違う。

場所的な面や人数差の違いもあるのだが、それ以上にリオスの体力を消耗させた原因があった。

(くそ……山を登って来てそうそうこれはきつい……!!)

今まで小休止を挟んで来たとは言えども1時間近くも歩きっぱなしと言って良かったこの登山。

その登山での疲れはまず真っ先に足に来ていた。

他の格闘技でもそうなのだが、カポエリスタ(カポエイラ使い)の命とも言って良い足が使えなくなるのは何よりも致命的。敵もまだまだ居る。

(まずい……!!)

その人数差への焦り、そして足の疲れがリオスの心にもネガティブな感情を生み出す原因になってしまう。


そして、気が付けばリオスの背中に水の流れる音が段々と迫って来ていた。

「くぅ……!」

どうやら滝つぼに落としてしまおうと言う算段らしいのだが、リオスだって簡単に負ける訳にもいかなかった。

「ぬあああああ!!」

助走をつけて向かって来たあのスキンヘッドの男を視界に捉え、リオスはそのスキンヘッドの男が繰り出して来た前蹴りを屈んで

避けつつ男の股間から手を回し、そのまま一気に持ち上げて滝つぼ目掛けて投げ落とす。

「う……うおああああああああーーーっ!!」

スキンヘッドの男はそのまま滝つぼに消えて行ったのだが、その男の姿を視界に捉えたままのその一瞬。



ド ン ッ 。



「うぐぉ!?」

そんな衝撃が、男を滝つぼに落としたばかりのリオスの背中にあった。

どうやら両手で誰かがリオスを突き落としたらしい。

「……う、うわあああああああっーーー!!」

リオスも今しがた突き落とした男と同じ様に、夕暮れ時でキラキラと水面が光っている滝つぼに真っ逆さまに落ちて行く。

しかも、自分が滝つぼに落ちて行く事が分かったその一瞬で見えたもの。

さっき突き落とした筈のスキンヘッドの男は、上手い事出来ていた滝つぼの出っ張りに着地していた為に落下を免れたその姿。

そして……。

「り、リオスー!!」

大声で叫んで、届く筈も無いのに滝つぼを取り囲む地面のふちから必死に手を伸ばしてリオスを助けようとするホルガーの

黒い手袋と必死な形相だった。

(ぐぅ……!)

そしてリオスもまた、届く筈の無いその白い手袋に包まれた手を必死に伸ばしながら背中から滝つぼに落ちて行く。

(それは無理だ……すまない、ホルガー……!!)

ホルガーにはその落ちて行くリオスの姿がまるで、「バイバイ」と手を振って最後の別れをしている様に見えたのであった。


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