A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第46話


滝つぼの濁流に飲み込まれ、あちこちに身体をぶつけ、気が付いた時には川の流れに沿って

ぷかぷかと身体を水面に浮かせながらリオスは川の流れに身を任せて山を下りる。

「うぐぅ……っ!!」

色々ぶつけまくったせいなのか、水に流されながらでも身体の所々から激痛が襲って来る。

とりあえずはこのまま川の終わりまで流された方が良いんじゃないかと思い、リオスは川の流れに

身を任せて全身の力を抜いた。

(ホルガー……無事かな……)

あいつは一体どんな事になってしまったのだろうか。あのまま人数差に負けて殺されてしまったかも知れないし、

それとも体(てい)の良い奴隷としてその身体を売り飛ばされる準備をされているのだろうか。


それと同時に、このまま流されてしまった自分がどうなるのかを考えていた。

このまま麓まで流されて行くとして、この身体の状態では満足に動けないかも知れない。

さっきのギローヴァスがまた襲ってくるかも知れない。

そうなってしまったら今度こそ確実に待ち受けているのは……。

(こんな世界で……俺は死ぬのか……?)

あの滝つぼから落ちて、どうやら滝の流れと水がクッションになって水深もあった為に何とかかすり傷程度で

生きているのだけでも結構な儲けものだと思うのだが、自分は運を使い果たしてしまったかも知れない。

(地球に帰りたい……)

その思考を最後に、リオスの意識はゆっくりブラックアウトして行った。



「総員下がれ!!」

「無理です少尉!! もう持ちません!!」

「くっ……!!」

それは遠い過去の記憶。リオスが士官学校を卒業してすぐ……その時から2年後の軍の大学への進学を

決めた矢先の23歳の時だった。

リオスが所属する国では士官を目指す者はまず2年制の士官学校を受験して合格し、そこを卒業後に少尉となる。

そして少尉として部隊に配属されて2年が経てば、軍の大学受験の資格が得られるシステムになっている。

戦闘では小隊長として小隊を率いなければいけなかったのだが、ある時国内で紛争が勃発。丁度近くに居たリオスの

小隊も向かったのだが、その時に敵の特攻作戦によって自分の率いる小隊が壊滅寸前にまで追い込まれている状況だった。


「うあ!!」

「お、おいしっかりしろ!!」

部下の1人が足に銃撃を食らってしまう。そしてその部下に駆け寄った、少尉時代のリオスに更なる悲劇が。

「ぬおっ!?」

敵が用意した罠にはまってしまい、文字通り更なる落とし穴が待ち受けていたのである。落とし穴に落ちてしまったリオスは

その後身動きが取れなくなって敵の捕虜になってしまったのだが、本国からの増援が敵の本拠地に駆けつけて来てくれた事に

よって一気に形勢逆転して紛争は幕を閉じた。



「……んん?」

再び意識が現実に戻って来た時には、リオスの視界一杯には木の天井が広がっていた。

(……嫌な夢を見たな)

まさかそんな苦い記憶が今更になってフラッシュバックして来るとは。

あの滝つぼに落ちてしまった事が、紛争の戦闘中に落とし穴に落ちた事と重ね合わさって脳が処理してしまったからだったのだろうか?

いずれにせよ、リオスにとっては思い出したく無い体験の1つである事に間違いは無かった。

「目が覚めたか」

その時、部屋のドアが開いて1人の男が入って来た。

「……あんたは?」

「俺はここの住人だよ。あんたはあの山の麓に倒れていたんだ。丁度湧き水が出ているポイントにな」

「そう、か……」

どうやら、あの湧き水を汲んで来る為のポイントまで自分は流されて来てしまったらしかった。

「そこに倒れてたのを、俺達が見つけてこの村まで運んで来たんだよ。でも驚いたぜ。まさか魔力が感じられない人間が居るなんてな」

「世話になった。感謝す……ぐぅ!!」


左足と右腕に激痛が走り、思わずリオスは顔を歪めた。

それを見て部屋に入って来た男も駆け寄る。

「おーいおい、無茶するなよ。あんたは左足にかなり深い切り傷負ってた訳だし、右腕だって骨まで折れちゃいないけど酷い打撲だったんだよ」

「う、ああ……」

リオスは自分が簡素な部屋着に着替えさせられ、身体のあちこちに包帯が巻かれている事にようやく気が付いた。

「3日位は痛みが引かないと思うから、しばらくゆっくりすると良い。あんたがあの落石の撤去作業を手伝ってくれた事は俺も知ってるからさ」

「え?」

と言う事はここはまさか。

そんなリオスの疑問を見透かしたかの様に男は続ける。

「落石の連絡を受けて、この村から有志の人間と騎士団員達が駆けつけたんだよ。あんたは運が良いな。落石がまた起こっていないか

朝にこの村の騎士団員が見に行かなかったら、あのままあそこで倒れっ放しだったんだから」

「あの山……」

そう呟いたリオスだったが、次の瞬間ある事を思い出して男に大声で尋ねた。

「そ、そうだ。俺と一緒に落石の撤去作業を手伝っていたあの黒髪の男を知らないか!?」

もしかしたら同じこの村に来ているかも知れない。

凄く低い確率ではあるが、リオスはあの滝壺の周りで因縁の集団と一緒に戦ったあの黒髪の便利屋が居ないかどうかを男に聞いてみた。


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