A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第22話


結局世界地図は手に入れられそうで手に入れられ無かった上に、共通の通貨を持っていない事で

明らかに怪しい者を見る目付きで雑貨屋の店主から見られたエヴェデスは、その場は「それじゃもう良いや」と

足早に出て来たものの内心ではかなりのパニック状態に陥っていた。

(やべえ、これじゃ俺……確実に怪しまれた!!)

全世界で共通の通貨を持っていないと言う事、そしてそれを明らかに知らないリアクションをしただけでも

騎士団が聞き込みに来た時にその事を通報されるのは間違い無いだろうと予想出来る。

ならばさっさとこの村から出なければいけない。しかし何処へ?

せめて地図があれば行き先もある程度決める事が出来るのだが、今のエヴェデスには全くそれが出来ない。

行き先を決める事は出来ず、しかし戻る事も出来ず。

これでは完全に全方位を塞がれてしまった状況だ。


とりあえず雑貨屋から離れて歩き出したエヴェデスは、こうなったら行き先が騎士団にバレるのを覚悟で

誰かに別の町への行き先を聞いてみるか、もしくは当ても無く歩いてみるかと言う事位しか考え付かなかった。

(くっそ、俺1人じゃ限界があるぜ!)

それこそバディ・ムービーの様に相棒でも居れば……と思うが今の状況が現実の状況なのだから仕方が無い。

無条件で自分に協力してくれる人物も居そうに無かった。

1つ目の選択肢だと騎士団に行き先を知られて全力で追いかけ回され、それと同時に行き先に別の

騎士団の部隊で待ち伏せされるのは目に見えている。

かと言って2番目だと当ても無く歩いて時間を無駄にし、食料も底をついて餓死するルートだろう。

つまりどっちも逃げ切れる可能性はかなり低い。やっぱりどうにもならなさそうである。

幾ら軍の少佐だからと言って出来る事と出来ない事がある。


それでもここで立ち止まっている訳にはいかないので、何か移動手段でも見つけられないか……と

怪しまれない程度の最小限の動きでキョロキョロと視線を巡らせるエヴェデスの目にある物が飛び込む。

(ん……あれは!?)

思わず身構えてしまったのは、それがさっきまで自分を知らず知らずの内に運んでくれていた3台の馬車だったからである。

勿論自分が運ばれていた事は、エヴェデスは自分の事なので知っているが馬車の御者や関係者は

知らないままなので、面が割れている心配も無いだろうと思い再びその馬車の周りに警戒しながら近づいてみる。

また何処かに行くのであれば乗せて貰おうと思ったのだが、どうやら今回はそうも行かないらしい。

(……あれっ、荷物が無くなってる?)

何と積んでいた大量の荷物が馬車の荷台から全て下ろされている。他の2台の馬車の荷台まではあの町を

出る時に見ていないので分からないが、恐らく同じ様に荷物を積み下ろししたのだろうと言う予想はつけられる。


これではまた荷台に潜り込む事も出来ない。

それなら馬を奪って走らせる……のはエヴェデスには無理だった。

趣味ですら乗馬の経験がゼロなので、いきなり乗り慣れない乗り物に乗って逃げようとしても暴走して最終的には

命の危険に晒されるのがオチなのは明白だった。

そもそもそれ以前の問題で地図を持っていないとなれば、やっぱり行き先も決められないので馬に乗れた所で意味が無い。

(ちきしょう、こーなったらもうあの手しかねーだろうがよ!!)

このままじゃ何時まで経っても埒が明かないと判断したエヴェデスは、さっき考えたこれからの行動の中でなるべく

リスクが少ない方を選ぶ事にした。

どっちに転んでもリスクがあるのなら、なるべくリスクが少ない方に賭けるのが普通の人間の考え方だろう。

(さっきはリスクが高い方に賭けちまったからな……)

ギャンブルで大負けして荒れる人間の気持ちが嫌と言う程分かってしまったドイツ陸軍の少佐は、そのリスクが少ない方の

行動を取る為に馬車から離れて近くに居る村人の元へと向かった。


「あー、ちょっと良いかな? この村から他の町までどうやって行けば良い?」

分からないのなら素直に分かる人間に聞いて、別の町や村までどれ位の時間が掛かるのかを確かめるのだ。

確かに魔力が無いと1発で見抜かれて怪しまれる可能性がある。それはエヴェデスも分かる。

だけどその怪しまれたなら怪しまれたなりに、この道を尋ねた村人が後でエヴェデスの事を騎士団員から事情聴取された時に、

自分の足取りを掴みにくくする為の方法をエヴェデスは考え付いた。

「近くの町とか村か?」

「ああ。俺は今旅をしていてな。色々とこの国を回ってるんだけど……その色々な町とか村に行ってみたいから

出来ればなるべく沢山の町や村を教えてくれないか?」

エヴェデスにそう聞かれた村人の男は、やはりエヴェデスに魔力を感じない事に内心疑問を覚えながらもとりあえず

今の所は害は無いと判断して教える事にした。

「ええっと……何処でも良いのか?」

「この出口を出た先から行ける町とか村なら何処でも」

この様に少しでも多くの町の情報を聞いておく事で、自分が何処へ行ったかを簡単に特定出来ない様にすれば

少しは時間が稼げるだろうと言う考えだった。


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