A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第44話


何とかギローヴァスと言うさっきの魔獣の脅威からは逃れる事は出来たものの、結局予想外のハプニングによって

登山をする破目になってしまった様だった。

「夕暮れ時の山は危険だろう。俺はここで夜を明かして、下山してから再度下の道を通って行くべきだと思うが」

しかし、ホルガーの意見の方が今回は正しそうであった。

「でもここにとどまるのはもっと危険だぜ。それにあの魔獣がこっちに来ないとも限らねぇからこのままここに

居ると危ない。登れる所まで登るぞ!」

「……ふむ」

確かに今さっきの街道に戻ってしまったら、またあのギローヴァスに出会わないとも限らない。

と言う事は完全に夜になる前にこのまま進み続けるしか選択肢は無さそうであった。

「リミットは……約2時間と言った所かな」

山の中へと続く、それなりに切り開かれている土の地面の登山道の先を見上げてリオスは予測を立てる。

片道で3時間なら大分進めると思うが、ここは異世界。魔獣が待ち受けていないとも限らない。

それでも今は行くしか無いと信じて、ホルガーと共にリオスは山の中へと足を進ませ始めた。


「ホルガーはこの山の事は知っているのか?」

何だか歩き慣れている様な感じの足取りを後ろから見ながら、そんなホルガーにリオスが聞いてみる。

「何回か来た事はあるよ。でも最後に来たのが半年位前だから変わっている場所もあるかも知れないし、新しく道が出来てるかも

知れないから用心しようぜ」

そう言いながらホルガーはリオスの先導者として険しい山道を進んで行く。

時折り何処からか獣の鳴き声が聞こえて来たりするので、その度に警戒心をリオスは強めたり弱めたりで忙しかった。

「この世界でも夜は獣の動きが活発になるのは地球と変わらない様だな」

「あ、そうなんだ。確かに夕方から翌朝……特に夜は野生の動物が活発になるな。でも好き好んで夜に山を登る様な奴なんて

いねーし、何処かでキャンプを張って火を焚いておけばそれだけで魔獣や魔物避けになるから夜になるまでに何処かキャンプを

張れそうな丁度良い所まで進もう」

流石にこう言った大自然の中での行動に関しては、この山の事も知っている部分があるだけあってここはホルガーにリオスは任せる事にする。


そうしてそのまま歩き続ける事、約1時間。

「あー疲れた……もう足が限界だぜ……」

「ふぅ……確かにな」

足の苦痛に明らかに顔を歪めるホルガーに対し、リオスはまだ少しだけ余裕を残していたがやはり辛そうな事に変わりは無かった。

「あんた、その格好で良く俺に着いて来られたなー。やっぱりそっちの軍人さんもこっちの騎士団の人間みたいに色々と野外訓練とかしたりするのか?」

足をさすって疲労を少しでも和らげようとしながらそう聞くホルガーに、岩の壁に寄り掛かったリオスも同じ様に足をぐいぐいとほぐしながら答えた。

「ああ。俺の国では部隊の種類にもよるけど、基本的には前線に立つ職種でも後方支援の職種でもトレーニングの一環として登山をする事がある。

最も、俺の部隊は前線に立つ様な部隊だから後方支援職よりは何倍もハードだ」

「はー、良くやるねー。でもやっぱり人間なんだな」


その発言にリオスは「ん?」と訝しげな視線を送る。

「どう言う意味だ?」

「そのままさ。あんたみたいな軍人でもこれだけ歩けば疲れるって事は、やっぱり人間だからなんだろうなって」

「そうだな。君も俺も、魔力とか地球人とか異世界人とか関係無しに同じ人間なんだな」

人間の限界がここにあるんだろう……とリオスが言うと、ホルガーが足をほぐす手を止めた。

「だったらその限界をもう少し先延ばしに出来るか?」

「え?」

「もうそろそろでこの山の名物が見えて来る」

「名物? この山の目印みたいな物か?」

この山の中にそんなポイントがあるのだろうか、とホルガーの答えをリオスは待つ。


そんなリオスに、ホルガーは登山道の上を見上げて言った。

「確かここから後5分位歩いた所に、大きな滝つぼがあるんだよ。その辺りは少し切り開かれた部分が広くなっている筈だから、

キャンプを張るにはうってつけの筈だぜ」

実際、ここの登山をする人間の多くはそこを1つの休憩ポイントにしているからなとホルガーが言うのでリオスもそれに賛同する。

「ならば、まだ2時間は経っていない筈だけど今日はそこで進軍を止めにしよう」

「そうだな、無理は禁物だしな」

重たくなった足を再び動かし始めて、2人の男は登山を再開した。

「……あれか?」

「そうだ、あれだよ」

ごうごうと水が流れる音が、日が沈みかけて闇に包まれ始めた登山道の辺り一面に響き渡る。

アメリカのナイアガラフォールズの一部分を切り取った様な滝つぼが、確かにそこに存在していた。

「凄い滝だな」

「ああ。柵とか無いから、落ちない様に少し滝から離れた場所で寝ようぜ」

「……そうだな。しかし……魔術って言うのも中途半端な物だな」

こう言う場所にこそ落下防止用の魔術の結界を張るべきなんじゃないのか、とリオスがぼやきつつホルガーと共に

キャンプの準備を始めた……その時だった!!


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