A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第18話
もしそうだったとしたら、ここであの現象を起こした場合この茂みから馬車までは余り距離が無いので
自分の存在がばれてしまう可能性がかなり高い。
となればここでジュースを飲むのは一旦諦め、袋の中に全てしまい込む。
(……あれ?)
ふとエヴェデスのその手に当たった物は、さっき馬車の中で見つけた紙の束。
自分は確かに箱のフタを閉めた筈。それなのに何故ここに?
そう思う彼だったが今はとにかくここを離れるべきだと思い直し、周りの状況に細心の注意を払いながら動き出した。
その移動途中に、紙の束が何故自分の手元にあるのかと言う事に1つの予想がついた。
(もしかして俺、フタ閉めるのに気を取られ過ぎて紙を戻すの忘れてた?)
やらかしてしまったうっかりミスはこれで2つ目。
今更気が付いた所で、再び馬車に戻ろうとしてももう遅い。
馬車に戻ってそこにタイミング悪く馬車の関係者が来たりしたら……。
(しょうがない、このまま逃げるぞ!!)
そう考えたエヴェデスは紙の束含めて持ち物を入れた麻袋を背負い、茂みの先にある道に向かって足音を
なるべく立てない様に進み出した。
そっちに行けば馬車から少しでも離れて少しばかり休息が取れると思ったのと、短剣を触っても本当に大丈夫なのかと
言う事を確かめる為だった。
短剣がもし使えるのであれば、それをギコギコとコルクの部分に突き刺して栓抜き代わりに使う事が可能だからだ。
(よっし、この辺りまで来れば良いだろ)
道自体は1本道なので迷う事は無い。
それよりも馬車が見えない位置まできたかどうかの方がエヴェデスに取っては重要だった。
目で見えなくなってから更にもう少し奥へと進み、安全を確認してからドサっと重そうな音をさせて袋を地面に下ろす。
その中から先程諦めた、短剣が装着されている黒服のジャケットをトランクから再び取り出した。
(さぁ、どうだ……!?)
恐る恐る、あの時のフラッシュバックと戦いながらエヴェデスのその短剣へと右手を伸ばす。
思わず息まで止めてしまいながらも、ここは覚悟を決めて……とギュッと目をつぶりながら短剣の柄を右手で掴んだ。
「……?」
何も起こらない。
あれ? と思ってもう1度今度はもっと強く握ってみるが、それでもあの謎の現象は起こらない。
「あれ、これって大丈夫なのか?」
そもそもこれって本物なのかと疑問が生まれたエヴェデスは、その短剣を鞘から引き抜いてみる。
(見た目は綺麗だが……どうだ!?)
思いっ切りそれを地面の土の部分に突き立ててみれば、見事にそれは地面に突き刺さって土の中に潜り込んだ。
「……本物だ」
2つの意味でその時エヴェデスはショックを受けた。
まずはこの短剣が無事に握れて使えると言う事。
そしてもう1つは、この短剣が「本物」だと言う事だ。
ナチスのグッズで売られるのであれば、それはきっちりと刃を潰してあるレプリカが当たり前である。
少なくともドイツ国内でナチスはタブーなので、何処か他の国でレプリカを買って来た……と言うのが当たり前なのだが、
そうでは無くてこの短剣が本物だと言う事は……。
(……やっぱ、俺のじいちゃんは……)
その疑念がますます強くなっているのがエヴェデスにとっては強いショックの方になる。
自分の祖父がナチスドイツの、しかも親衛隊の隊員だったと言うのであれば自分もその血を引いている事になる。
更に自分の職業は現ドイツ軍の軍人。
(これって何の巡り会わせだ?)
エヴェデスは自分のこんな考えを頭を振って打ち消そうとしたが、打ち消そうとすればする程しっくり来てしまうのが非常にストレスだ。
とりあえずナチスの事は一旦置いといて、短剣が使えると言う事が分かっただけでも良かったと思い直したエヴェデスは
その短剣の先を先程のビンのコルクに突き刺した。
そしてグリグリと捻ってどうにかコルクを抜く事に成功する。
「……あ、やっぱこれ酒だな」
別に酒が飲めない訳では無く、むしろビールとソーセージの国で育っただけの事はあるので割とジャンルを問わずに
エヴェデスも酒は好きである。
だがただでさえ馬車の荒っぽいコントロールで酔ってしまった為、これ以上酒を飲むと言うのは正直きつかった。
(他に何か無かったっけ?)
昔のヨーロッパも今のヨーロッパも水の質は良くないので、ビールの廉価版であるエールと言うものをそれこそ子供から
大人まで飲んでいたのだが、例えそれがあったとしても正直きつそうな事に変わりは無さそうだった。
だから何か別の飲み物があれば……とエヴェデスはガサガサと袋の中を探ってみる。
すると……。
「あれっ?」
次に取り出したビンのラベルには「水」と描いてあった。
結局酒を開けてしまったのは無駄な労力で終わってしまった。
これでエヴェデスのうっかりミスは3回にカウントされる。
何だか立て続けにやらかすなーと自分自身にうんざりするエヴェデスだったが、考え方を変えてみると予防策で使えるかも知れない。
(これが敵地でのうっかりミスじゃ無くて良かったじゃねえかよ……)
そうだ、このうっかりミスを経験にして次の機会に活かせば良いじゃないかと思いながらエヴェデスはその水でうがいを始めるのだった。
A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第19話へ