A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第19話


「ふ~」

うがいをして少しは気分が良くなったので、これから先の事を考える。

とは言うものの世界地図も無ければ行く当ても無いので、今の所すぐ近くにある町と言えば……。

(やっぱさっきの町しか無さそうだな)

瓶の中の水は半分位飲んだ所でフタを閉めて保存しておく。

しかし早めに使い切ってしまわなければ腐ってしまい、それで腹を始めとして身体を壊した……なんて事に

なったらジョークなんかじゃ済まされない。

(それから金を稼ぐ手段も必要だよな)

今は自分のこの荷物だけが命綱。しかも追われている状況なので派手に動く事も無理そうだ。


だが、そこでエヴェデスはふと気が付いた。

(……あれ? そう言えば俺って世界が違う筈なのに言葉が通じるのか? それからこの中に入っている資料も

そうだけどこのビンの文字も読めるのか?)

今更ながら疑問に思ったその2つのポイントにエヴェデスは首をかしげる。

もう1度、今度は別のビンを取り出してそのラベルを読んでみようとした所……。

(やっぱりそうだ!!)

最初は自分の見慣れない文字。だけどそれがスーッと徐々に形が変化して行き、数秒で自分の

慣れ親しんでいるドイツ語に変わる。

最初にあのボートの上で紙の資料を見た時の現象を、今エヴェデスは再度自分のその目で確認したのである。


それからこの世界の言語形態はまるで分からない。

何故なら、聞こえて来る言語の全てがエヴェデスの地元であるドイツ語に聞こえて来るからだ。

だからあの商店の男との会話が成り立っていた訳だし、今の段階ではこの国で文字が読めて言葉が通じると言うだけでも

かなり大きなアドバンテージなのだが、他の国がもしあるとすればまた違う言語に聞こえて来るのだろうか?

漠然としたそんなイメージがエヴェデスの中に出来上がったが、今はまだそれを考える時では無い。

今はこれから先の事を考えるのだ。

(まずは地図だよ地図。この世界の地図を手に入れなけりゃあ俺がどうやって何処に向かえば良いのか分からねーしな)

この近辺で手っ取り早く地図を手に入れられそうな場所と言えば、やはり先程の町しか行き先は無い。

川を下りて来て最初の町に辿り着き、そこで騎士団に見つかってしまっているだけあって緩慢な行動は命取りになるだろうと

考えたエヴェデスは袋に荷物を纏めて足早にさっきの町に向かって戻り出した。


町の近くまでやって来たエヴェデスは、あの最初に馬車から脱出して逃げ込んだ茂みの陰から町の様子を窺う。

(あれ、城壁がねーんだな)

中世ヨーロッパ時代の都市の多くは城塞に囲まれた都市だった。

城を中心としたその周りに人々が住む家があり、それから買い物が出来る店が存在し、そしてその外側を城壁が

囲む形で成り立っていたのが城塞都市の在り方である。

今でもドイツのノイシュヴァンシュタイン城を始めとして、大小さまざまな城がヨーロッパの各地にそびえたっている。

それこそがヨーロッパの各地で城塞都市が成り立っていた証拠だと、時代の移り変わりを静かに佇んで見守って来た城が

語って証拠になる。


しかし、例外もあるのは地球でもこの世界でも変わらないらしい。

さっきの町は町の入り口で検問こそ行われているものの、そのヨーロッパで良く見られた様な城塞都市では無いのだ。

これはある意味でチャンスかも知れない。

茂みの先に向かってからそんなに時間が経っていなかったせいか、あの町に入って行った馬車の3台目、つまりエヴェデスが

乗っていた馬車が町の入り口で丁度検問を受けている。

会話の内容はここからでは聞こえないが、武装した騎士団員が見ているのは何を積んでいるのか、とか何処へ運ぶのかと

言う内容だろう。

(俺がフタ開けたのばれてねーかな?)

ばれてもばれなくてもヤバイものを見てしまった事に変わりは無いので、今は緊張しながらその様子を見守るしか無いエヴェデス。


……が。

(あれ? 結構すんなり通ったぞ?)

幌の中に潜り込んで行った兵士が、それこそ1分経つか経たないかの時間で幌の中から出て来た。

騎士団員のチェックがもう終わったらしく、馬車の御者と何かを話してそのまま町の中に誘導して行く。

(何か、検問とは言え手を抜き過ぎじゃねえのかな)

そんなに慌ただしく検問をやっているのか、それともこの検問自体に余り意味は無いのか、もしくは……。

(検問をするのに値しない様な、それこそイギリスとアイルランドみたいなシェンゲン非加盟国でも無い限りフリーパスで

国と国の移動が出来る俺達EU圏の人間みたいな……?)

いずれにせよ、馬車の検問が早めに終わってくれたので次の順番を待っていた人間達が検問を受け始めている。

これはチャンスだと思い、エヴェデスは大きく検問地帯から外れてその検問に集中している騎士団員達の視界に入らない様に

足音を忍ばせつつ町の側面に近づいて行く。

とは言っても地面が草と土なので、上手くその地面がブーツの足音を消してくれていたのは助かった。

そしていよいよこの町への侵入を決意したエヴェデスは行動に出る!!


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