A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第17話


外の様子を窺い、人の気配がする前にさっさと降りよう……と思ったエヴェデスの肘にガツン、と何かがぶつかる。

「うがっ!?」

思いっ切り何かにぶつけてしまった様で、予期せぬ衝撃にちょっとだけ悶絶するエヴェデス。

そんなに痛みが来る様な物がこの馬車に積み込まれているのか? とぶつけた場所を手でさすって痛みを

逃がしながら、思わずぶつけてしまった物の方へと目を向ける。

そこには一見何の変哲も無い、ロープでしっかり縛られた木箱が。

(ったく、一体何が入ってんだよ?)

この時、エヴェデスは痛がりつつも外にそのまま出ていればまだそこまで事を荒立てずに逃げる事が

出来ていたのかも知れない。

しかしその痛みの原因を作ったものの正体が気になってしまい、そして木箱の中身をロープをほどいてまで

見てしまった事が彼の運命を大きく変えるのだった。


外に出る事も忘れ、ロープをほどいてみるエヴェデス。

そしてその木箱の中身を見た瞬間、彼の表情がキョトンとなる。

(んん……、何だこりゃ?)

ファンタジーなこの世界観には似つかわしくない金属製の何かのパーツが入っている。

それもかなり大きな部類に属する物だった。

(同じ形の物が沢山入ってる……まさか他のもそうなのか?)

その箱のフタを閉じてロープを縛り、別の箱を開けてみれば今度はまた金属製のパーツ……しかもさっきよりも

小さな物が大量に入っている。

(こっちもそうだ。って事は何かを組み立てる為に運んでるって事なのか?)

急いでたと言う事は余程作業の工程が遅れているか、移動の時間を出来るだけ削ってでも早く作り上げたい物なのか。


いずれにせよ今の俺には関係無いしな……と思いつつ、3つ目の箱を開ける。

これで最後にしようと思った。

2つ目の箱で止めておけば、エヴェデスの心がざわつく事も無かったかも知れない。

(これには……あれ?)

その箱には、何時か何処かで見た様な紙の束が。

デジャヴを感じつつエヴェデスがその紙の束を取り出してみると、そこには驚愕の内容が書かれていた。

(えーと何々? 他国へのウイルス散布についての実験結果……はぁ!?)


一体自分は何を見ているのだろうか。

他国へのウイルス散布と言う一文だけで考えてみれば、明らかにそれは確実なテロ行為じゃないかと思うエヴェデス。

こんな金属製のパーツ、それからウイルス散布……もしかしたら、自分はかなりやばい物を見てしまったのでは

無いだろうかと不安になる。

(俺の身体を使って実験するって言ってたし、もしかしたらかなりやばい事をこの国は仕出かそうとしてるんじゃねーのか?)

一体それは何だろうか、と吐き気すら忘れる程のショックを受けながらそれを考えていたエヴェデスだが、外から聞こえる

足音にハッと我に返ってこのままここに居てはまずいと急いでフタを閉めてロープも適当に結び、荷物を持って幌の外を確認する。

(だ、大丈夫だよな……良し!)

馬車の裏に回って来た訳では無く、幸いにもまだ前の馬車の人間達が何かを待っている様だった。


幌の外へと出たエヴェデスは、周りへの注意を怠らないまま近くの茂みへと身を隠した。

「うっ、うおぇえええっ……」

さっきから我慢していた胃の中のものが一気に外へと吐き出される。

やっぱりここまでのレベルの身体の不調には逆らえないらしかった。

「あー気持ち悪……」

吐くものも吐いて幾ばくか楽になったエヴェデスは、あの倉庫からくすねて来た物品の中からオレンジジュースのビンを

取り出して飲もうとしたが……。

(あっ、栓抜きが無え!!)

ワインの様にコルクで栓がされているので、もしかしたらこれはジュースでは無く酒のジャンルじゃねーのかなと思う以前の

問題がエヴェデスにのし掛かって来た。


飲み物があっても開かなければ飲めない。馬鹿と言うよりも気が回らない迂闊な自分にエヴェデスは腹が立った。

だけど胃の中の物を吐き出して水分が奪われた為、何か飲みたいのが今の状況だった。

だけど周りを見渡してみても川や海は無さそうだ。

そもそも馬車が何故止まったのかと言うと、この場所が別の町への出入り口であり検問の順番待ちだったからである。

やっぱり馬車から降りて良かった……とエヴェデスは自分の行動を振り返って安堵の息を吐く。

この茂みに隠れていれば見つからなさそうなので、コルクの栓を開けるにはどうすれば良いのかと再び考え始めた。

(文明の利器……文明の利器……あっ、そう言えば!!)

ふと思い出した物がある。

エヴェデスは袋の中からナチスのトランクを取り出して、その中に入っている黒服のジャケットに手を掛ける。

そのジャケットには変装する時に確認した、親衛隊に支給される儀礼用の短剣が括り付けられていた事を思い出したのだ。

それを見て触りかけたエヴェデスだが、またある事を思い出してその手が止まる。

(あーっと待て、もしかしたらこの短剣もまたあの時と同じ様にヤバい事になるかも知れねーな!?)

そう、あの路地裏に騎士団員を引き込んでトランクでノックアウトし、その騎士団員の甲冑を奪って変装しようとした時の

あの文字通りショッキングな出来事がエヴェデスの頭にフラッシュバックして来た。


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