A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第10話


当然、エヴェデスはそんな話なんて何も聞かされていない。

あくまでこれは自分の勝手な憶測にしか過ぎないので、もしかしたらまた違う真相がある可能性だって考えられる。

と言うよりも、祖父の家に戻ったら直ちにあのナチスの地下室を一掃しなければめんどくさい事になるのは目に見えている。

(また面倒事が増えたぜ……)

目の前がぐにゃっと歪む様な感覚を覚えながらも一旦気持ちを切り替えて、この川は

まだまだ続きそうなのでこれからの事について考える。

(あいつ等も振り切ったし、何処かの町に出てから色々と考えよう)

本当はこのトランクごと川にSSの制服を投げ捨てたかったが、そうなれば何処で誰に拾われるか

分からないし中の資料を手に持ち歩けないので、今はとりあえずこの資料を入れるケースとして

制服ごと持ち歩く事に決めた。

しっかりと自分の手で燃やして処分するのを自分の目で見届けなければ安心出来ないからだった。

(出来れば、あそこの地下室の他のグッズごと一気に処分しちまえればそれが1番良いんだけどよ)

うん、それが良いだろうと頷いてエヴェデスは再びオールを漕ぎ始めた。

早く川の下流まで下って、祖父の家の地下室にナチスのグッズを処分しに向かう為に。


「見つからないだとぉっ!?」

「はっ……くまなく探しているのですが何処にも見当たりません!!」

「俺は向こうを探す。そっちももっと良く調べろ!!」

王国騎士団の団長ライマンドは舌打ちをしながら駆け出す。

手の空いているだけ、ありったけの騎士団員や魔術師を全てあの魔力を持っていない男を探すのに

動員しているにも関わらず、この城の敷地内には見つからないと言う。

あの男があの時隣の建物に飛び移ってからすぐに通信魔術を駆使して城内に総動員を掛け、更に城壁に対して

人間を始めとするありとあらゆる生物の身体を通さない様にする為の最上級の魔術防壁まで展開して完全に

封鎖状態にしてしまっている筈なのに。

まさかそれを掻い潜られたとでも言うのか?

筆頭魔術師のドミンゴも捜索に加わってあの男を探し回ったが、やっぱり見つからない。


となれば既に外に逃げた可能性が高くなって来た。

そしてそれを裏付けるかの様に、魔術防壁を解除して捜索範囲を広げた結果が1人の騎士団員からライマンドにもたらされた。

「団長、舟が1隻無くなっています!!」

「何ぃ!?」

慌てて船着き場へと向かったライマンドが見たものは、確かに舟が1隻無くなっている船着き場の現状だった。

「あいつは舟を使って逃げたな……おい、こうなれば王国中の騎士団員を総動員するぞ」

ライマンドと一緒にその結果を見たドミンゴは、すぐにあの男を捕獲する為の包囲網を敷く事にする。

大きな城が持っているこの広々とした敷地が裏目に出た。

広い敷地で総動員を掛けたが故に、捜索人員が城の敷地全域に動員されるまでに時間が掛かった。

それに捜索範囲が広すぎて探すのが手間取ったのに加えて防壁魔術をドミンゴ率いる魔術師部隊が展開していた為、

まだあの男がこの城壁の内側にいるものだと思い込んでなかなか船着き場まで目が届かなかったのもある。


つまり完全に油断していた。

何故魔術防壁を潜り抜けられたかと言う事まではドミンゴにすら分からないが、それでもあの男が舟で逃げたと言う

可能性でもう間違い無いだろうとの結論に達していた。

事実、魔法王国カシュラーゼとしては今まで人間も魔獣も問わず自分達の利益になりそうなカシュラーゼ中の生物を利用して

実験を繰り返した歴史を持っている。

そうやってこの魔法王国カシュラーゼが成長して来たのだ。

だが、今回このクルシーズ城の敷地内で気を失って倒れていたあの男には魔力を一切感知出来なかった。

こんな人間は今まで見た事も聞いた事も無い。

この世界に生きている生物は、その辺りの草1本や石ころ1つにだって絶対に魔力がある。勿論人間も例外では無い。


その例外では無い筈の人間で、魔力を感知出来ないと言う前代未聞の事例が現れたとなれば当然魔法王国と

しては研究対象にするしか無いのだ。

その無い無い尽くしのあの男を逃がしてしまった以上、魔法王国のメンツにかけて絶対に探し出さなければ

ドミンゴは気が済まなかった。それからライマンドも。

この国では国民全員が大なり小なり必ず魔術を使える。

そもそもそれが義務教育として決められており、魔術が使えない人間は国が拉致して国外に

追放すると言う政策があったりもするのだ。個人のセンスの問題も含めて魔術を使えない人間は国民扱いを

されないと言うのがこの魔法王国のモットーであり、当然それは個人の人権を侵害しているとして周辺諸国から

バッシングを受ける事もあったのだが、カシュラーゼとしては何処吹く風である。

何しろこの世界の魔術で出来ているテクノロジーの95パーセントはこのカシュラーゼが生み出したものなのだから、

それを盾にしてテクノロジーの提供を止めると脅してやればそんなバッシングすら黙らせる事が可能だったからだ。


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