A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第11話


そんな人権侵害とも言うべき事を平気で行っている国に突然やって来てしまったドイツ軍の少佐は、

川の流れに乗ってようやく下流へと辿り着いていた。

川のほとりには町があったのでそれを見てエヴェデスはそこに向かったのだが、舟を漕いでいた時から

覚えていた違和感がここに来てピークに達しようとしていた。

(何だ、この町は……)

町並みに関しては地元ドイツを始めとして、ヨーロッパ各地……特にイタリアのローマで見かける様な

古めかしい建物が並んでいたのでそれだけ見ると違和感は余り無い。

エヴェデスが違和感を覚えるのは、その町の中を行き交う人間達の服装や生活スタイルであった。

現代の地球で見られる様な自動車や自転車の類は一切見られないどころか、学生の頃にヨーロッパの歴史の

勉強をする中で教科書に載っていたイラストでしか見かけた事が無い様な、中世の時代に人々が

身に着けていたシャツやズボンを道行く人間達の誰もが当たり前の雰囲気で同じく身に着けているのだ。


それを見たエヴェデスは、逆に今の自分が着ているドイツ軍の制服の方が浮いてしまっていると思ってしまった。

ワイシャツにネクタイと言うその格好は、中世の時代ではネクタイがスカーフに置き換わって貴族の人間が身に着けていたらしい。

でも実の所で言えば、元々中世の時代にはまだズボンそのものが出来ていなかったとされている。

なのでその代わりにシャツの裾が長く、それで前を覆い隠しつつタイツを履くのが一般的な中世ヨーロッパの男の

ファッションだったと学んだ事がある。

そしてそのスタイルは男も女も大して違いは無かったらしい。

最もそれは一般市民だけの話で、貴族の人間は普通にズボンを履いていたと言う説もあるので

何だかややこしいなーとエヴェデスは思っている。


(じゃあ、やっぱここはドイツのどっかなのか?)

現代のドイツだけでは無く、ズボンを履かないで生活しているのは文明社会に馴染んでいない何処かの奥地に

住んでいる部族、もしくは露出狂、またはスカートが好きな女……位しかエヴェデスには思いつかなかった。

そう言う人間達は例外で、普通に暮らしていればズボンは絶対に履いている物だ。

それが現代のファッションだからだ。

今目の前を行き来している人間達もズボンを履いている人間が大多数なので、中世ヨーロッパみたいな町並みの何処かの

巨大なアトラクションに迷い込んでしまったのだろうとエヴェデスは考える。

それが最も自然な結論だった。

(だったら役作りの為にスマートフォンとか持ってないだろうし、車がねーのも分かるな)

さっきのGPS電波まで届かないと言う事はそれだけこだわっているのだろうと思うし、あんな大きな川があってそのほとりに

町まで造ってしまうのだからかなり気合いが入っていると感心してしまったエヴェデスは、ここからどうやってドイツまで戻れば

良いのかを近くの商店の人間に聞いてみる事にする。


「あー、ちょっと良いかな。ここからデュッセルドルフまでは一体どうやって戻れば良いんだ? 道に迷ったみたいでな。

教えてくれると助かる」

しかし、その商店のオーナーはキョトンとした顔つきでエヴェデスにこう答えた。

「ドイツ……何だそれは? 何処の地名だ?」

「え? いやここの話だろ。この何とかかんとか王国って言う所じゃ無くて、俺達の住んでる国だろ?」

実際あんたもドイツ語で喋ってるだろ? と言ってみるものの、オーナーの男の表情はキョトンとしたものから明らかに

訝しげなものに変わって行く。

「ここは1300年以上前から魔法王国カシュラーゼだが、そっちこそ一体何を言ってるんだ?」

「もー良いよそー言うのよぉ。頼むから真面目に教えてくれ。俺はデュッセルドルフに戻らなきゃならねーんだからよぉ」


役に入るのは仕事熱心ですげーなーとエヴェデスは思うのだが、真面目にこっちは聞いているのでそろそろ少しだけ

役から抜けて貰いたい。

オーナーの男はそんなエヴェデスに戸惑いを見せつつ、自分の思っている事を言ってみる。

「デュッセルドルフなんて地名は俺は聞いた事も無い。ここは魔法王国カシュラーゼの何処以外でも無いし、

そもそもその服装からしてこの辺りの人間では無いだろう?」

「……おい、ちょっと待ってくれよ。それ真面目に言ってるのか?」

「ああ大真面目だ。後さっきから気になってたんだが、そっちの身体から魔力が感じられないのは何でだ?」

「え?」


またその話か。

魔力が無いとか言われても、ずっとこうしてこの身体で38年間生きて来たのだから何でと聞かれたって逆に困ってしまう。

何かがおかしい。

そこまで演技をしなければいけないって言うのも分からなくは無い。何故ならアトラクションだから。

だが、その「アトラクション」にしては余りにも度が過ぎている。

と言うよりもむしろ「アトラクション」では無くて……。

(まさか……まさかっ!?)

自分の中で急に現われた不安な気持ちと、今までのあの城の敷地内からの出来事を思い返してみてエヴェデスの顔から

血の気が引いて行くのはすぐだった。


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