A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第9話
(ん……あれ……?)
得体の知れない文字が書かれていたかと思ったら、その文字がスーッと自分の見慣れているドイツ語に置き換わった。
何が起こったんだ? ともう1度エヴェデスは自分の目で見ているその資料を確かめてみるが、
そこに書かれているのは間違い無くドイツ語である。
(俺、疲れてんのかなぁ?)
いずれにしてもドイツ語で書かれていると言う事は、ここはドイツ国内の何処かである可能性が高い。
だったらこのまま川を下って行けば、最終的にこのボートは自分の知っている場所に出る可能性もあるよなと
思いつつ、その資料の内容に目を通し始める。
そこに書かれていたのは思わず鼻で笑ってしまう内容だった。
適当に掴んで来た割にはそれなりの厚みがある資料をペラペラとめくって行くエヴェデスだったが、
そのどれもが「魔獣に関しての考察」だの「キメラ生体の実験」やら「人間から得られる魔力」と言った
非現実的な無い様しか書かれていなかったのだから笑えてしまった。
(うっひゃー、こんなの良く考え付くもんだぜ。こんな事考えて実験ごっこなんてものをしてる様な暇があったら、
もっと世の中の役に立つ生産性のある事をすれば良いのによ)
思えばナチスの親衛隊だって昔は人体実験をしていた訳だから人の事は言えない。
でも、明らかに魔獣だの魔力だのと言う単語が出て来る辺りフィクションと現実の区別が
つかなくなってしまっているんだろうなぁ、と憐みの視線を思わずエヴェデスは資料に向けてしまった。
それについて考えてみると、何故自分の祖父の家にあんな地下室があったんだろうかとエヴェデスが
思ってしまうのはごく自然の流れであった。
(あんな地下室があって、そして俺があの地下室でいきなり気を失ったんだか何だか知らないけど
光に包まれた……のか? それであそこで捕らわれてて……って、ナチスとあんまり関係無いんじゃねえのか?)
祖父の家の地下室に、それも人目を避ける様に仕掛けを解除しなければならないあんな場所でナチスのグッズを
集めていたのは一体誰なのだろうか?
「……じいちゃん……?」
ドイツではナチスは最大のタブー。「絶対に」掘り起こされたくない闇の歴史だ。公の場でナチスの真似事をすれば
それだけで罰せられてしまうし、今エヴェデスが着ているドイツ軍の制服だって制帽がナチスドイツの様な帽子はタブーだと
言う事でベレー帽に変更された歴史がある。
他にもドイツ軍でナチスを連想させるものは色々禁止されている。
例えば銃剣も禁止だし、軍事パレードもナチスのパレードをイメージさせると言う理由で禁止。世界大戦前の軍人の
葬式に参列する事は勿論、褒め称える言動も一切NG。
更には上官への忠誠も「上官から命令されたので第2次世界大戦で残虐な事をした」と言う理由付けに
なっているので今のドイツ軍では「組織への忠誠」に変更された。
ちなみにパレード自体は行われてはいるものの、「国家行事」扱いなので軍事パレードでは無いとされている。
それでも反発の声はやはり大きいのが現状だ。
それだけナチスをイメージさせる様な言動や物品は一切禁止されている今のドイツ軍からも分かる通り、エヴェデスは
このままナチス親衛隊の制服が見つかってしまえばただでは済まされない。
彼自身がナチス親衛隊から生まれ変わった現ドイツ軍の軍人であるから尚更だ。
そんなナチスのグッズを、まさか自分の祖父がああして集めていただなんて。
いや、もしかしたら誰か他の人間が祖父の家に隠し部屋を造ってそこに隠していたのかも知れない。
しかし、それならば祖父が気が付かない訳は無い。小さいとは言えども地下室を造るのはそれなりの
工事が必要になる訳だし、本棚の裏に仕掛けまでしてあった。
更に地下室に繋がる書斎は祖父のプライベートルームで、他の人間を余り招き入れようとはしなかったらしい。
(プライベートルームで……それからあれだけの本に囲まれているその裏であの仕掛けがあって……そして多分
あの地下室の事は俺のお袋も気が付いてねえみたいだったな)
と言う事は、考えられる可能性で絞り込んで行くと最終的に1つの選択肢しか残らなかった。
「嘘、だろ……?」
エヴェデスに急激に襲い来る絶望感。
変な場所に飛ばされて今しがた逃げて来た事と同じ位、その可能性についてはエヴェデスが1番認めたくないものだった。
改めてトランクを開け、元々入っていたその親衛隊の制服を見てみる。
ずっと地下室に隠されていたのだからかび臭いのは当たり前だが、それだけでは無い……その使い込まれている
SSの黒服の状態から判断して、祖父の生きていた年代と照らし合わせてみるとやはりその可能性が1番しっくり来る。
せめてもの思い出に、あの隠し部屋を造って残しておきたかったのだろうか。
認めたくない。認める訳にはいかない。
でもやっぱりそれを認めなければ、考え付いた他の可能性では無理があり過ぎる。
(俺のじいちゃんがもしかして……ナチスの党員だったのか……?)
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