A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第8話
もう迷っている暇も無ければ、脱出ルートはここしか無いと判断してエヴェデスは船着き場にあった舟に乗り込み、
全力でオールを漕いで親衛隊の制服やあの資料が入ったトランクと共にエスケープ達成だ。
(危ねえ……もう少し遅かったら見つかって捕まってたぜ)
はーっと息を吐きつつも全力でオールを漕ぐ手は休めない。
文字通りバタバタと慌ただしいシチュエーションから開放されつつあって、エヴェデスは少しずつ落ち着きを取り戻していた。
小舟を拝借して川を進むのは良いが、一体これから自分はどうすれば良いのだろうか?
考える事も調べる事も山積みであるので、現時点でのそれ等をエヴェデスは頭の中で頑張って整理してみる。
(周りの風景からして、ここは何処かの山の上に建っている城みたいだな。って事は水は高い所から低い所に
流れるから、このまま川を下って行けばどっかに辿り着くだろうな)
城に造られた堀からこの川に続いている様なので、後は川の流れに任せて下れば何とかなりそうだと考える。
(その後はここが何処かを調べなきゃな。あの城はヨーロッパの城らしいから所在地が分かれば帰るルートも
自ずと見えて来るだろ)
そこまで考えて、ふと自分のポケットに入っている物の存在をエヴェデスは思い出した。
(あーいや待て待て、そーだ俺にはこれがあんじゃねえかよ)
ゴソゴソとズボンの後ろポケットから、現代人にとって欠かせないテクノロジーの結晶であるスマートフォンを取り出した
この中にインストールされているGPSシステムを使えば、それこそアマゾンの奥地の原住民が生息している様な場所でも
無い限りは今の自分が居る場所が大まかに特定出来る。
(本当、便利な世の中になったもんだよなー)
こう言うシステムを開発してくれた学者やエンジニア等に感謝しながら、エヴェデスはGPSアプリケーションを起動させる。
だが、そのGPSシステムの画面に表示されたのは思いもよらないメッセージだった。
『位置情報が取得出来ません』
そんなメッセージがドイツ語で虚しく表示されている画面を見て、オールを漕ぐ手も思わず止まってしまうエヴェデス。
「……え?」
位置情報が取得出来ない?
と言う事はここが何処だか分からないと言う事になる。これは非常に困った。
(まぁ、アンテナが立っていない場所なんだろうな)
それかもしくは電波の入りが良くない場所かも知れないので、またしばらく時間を置いてから位置情報を確認する事にした。
それでも電波が入らない事に関係して、あのドミンゴとか言う緑色の髪の毛をしていた大男の言っていた事が
エヴェデスの頭にフラッシュバックする。
(何とか王国の魔術研究所ってやっぱり何か引っかかるんだよな。新手の宗教の類か? それとも頭のおかしい奴等か?)
どっちにしても自分としてはこの先一生関わりたくない人間である。友達には到底になれそうに無いとエヴェデスは悟った。
魔術がどうのこうのなんて、少なくともテクノロジーが発達しているこんな時代に時代錯誤も良い所であるし、
あの連中の格好を見る限りはそれこそ中世の時代に逆戻りしてしまった様な雰囲気だった。
そこでエヴェデスの頭にふっ……と新たな考えが浮かぶ。
(ん、待てよ……何かのイタズラじゃ無いとすれば、これってもしかしてタイムスリップって奴か?)
悪い方にではあるが、そう考えてみれば何かつじつまが合いそうな気がして来た。
でもそんな事はエヴェデスは認めたくない。認めたらあのバカバカしい集団と同類になってしまうと考えたからである。
(いやいやいやいや、さっきのフィクションの話とそりゃー同じ事になっちまうよ。ありえねーよそんな事は。
だって良く考えてみろよ俺。自分がこうして40年近くの人生を今まで生きて来た中で、タイムスリップだの何処か
別の世界にいきなり飛ばされただの、そんな子供騙しみてーな話があったのか? 無かったよな? あれは
フィクションだからこそ成り立ってるんであって、所詮は人間が創り出した架空のストーリーの世界にしか
過ぎねーんだからよぉ?)
オールを漕ぎながらブンブン頭を横に振って、部分的にその考えを口に出しながら川を下るエヴェデス。
この時の彼は、今の自分に起きている事を認めたく無いが故の行動だと言う事を後に自分で気が付くとは思ってもいなかった。
やがて若干川の流れが速くなり自分でオールを漕ぐ必要も無くなったエヴェデスは、腕の疲労も結構
溜まっていたので後は自然の流れに身を任せる事にした。
まだスピードを気にする必要は無いので、あの親衛隊の制服が入っているトランクの中身の資料を読ませて貰う事にする。
あのドミンゴとか言う奴とその仲間達が一体何をしようとしているのかって事を少しでも知っておけば、この先で
あいつ等の仲間と思わしき奴に絡まれなくて済むかも知れない。
そう考えてトランクを開けて、資料だけを取り出し再びトランクを閉めるエヴェデスだったが、次の瞬間彼は自分の目を疑う事になる。
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