A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第7話
(こいつ等は一体何を研究してんだよ……)
薄気味悪い何かのホルマリン漬け、至る所に散乱している書類等が確かにあの男の言っていた通り
研究所と言う雰囲気をムンムンと感じさせてくれる。
大きなミーティングルームが2つ位入ってしまいそうな程にかなり広いこの部屋の奥に別の階段へと続くドアを
見つけたエヴェデスは、そこへ向かって歩き始める……前に机の上にある資料の幾つかに手を伸ばした。
(何かここについて分かるかも知れねえからな)
せっかくあのドミンゴから取り戻したナチスの制服が入っているトランクもあるので、そこにグイグイと資料を
押し込んでロックを掛ける。
中身は後でじっくり読ませて貰いたいので、何としてもここから脱出する事を今の目的にして階段に
向かって歩き出した。
結局その扉の奥で非常階段を見つけたので、そこを駆け下りる事で上手く脱出したエヴェデスは
その建物から離れようとした……が。
「な、何だよここは……」
建物を出たその目に映った光景に、思わず足が止まってしまったエヴェデス。
と言うのもさっきの屋上の時は逃げる事で必死だったので良く周りが見えていなかったのだが、今こうして
改めて見てみると自分の目の前にグレーの壁で統一された大きな城があるではないか。
それを見上げた彼の脳裏にフラッシュバックするのが、さっきの拘束されていた部屋でのセリフだった。
(何とか王国の何とかかんとか城がどうのって言ってたな。って事は、まさかこの状況って夢を見てる訳じゃ……)
そこまで考えてエヴェデスは首を横に振った。
(おいおい、まさかそんなミステリーな事が今のハイテク時代にあってたまるかっての)
喋るライオンが居る様な世界に子供だけで行くとか、船に乗ってたら嵐に巻き込まれて小人ばっかりの国に
行ってしまうとかならまだしも、今年で38歳の後2〜3年で中佐になる年齢の男がこうしてこんな場所に
やって来るなんて何かの間違いにしてはやり過ぎだろう、とエヴェデスは思ってしまう。
実際は中佐になるまではもう少し時間が掛かりそうなので、今の時点で断言は出来ないのだが。
でも、もしこれが仮に現実だとするのなら?
早くここから逃げなければいけないので再び走り出したエヴェデスだったが、頭の中に出来たその不安が
ジワジワと彼の思考を蝕んで行く。
こんなミステリー体験なんてフィクションの中だけで十分だ。
それに、リアル過ぎる夢を自分は見ていると言う可能性もエヴェデスはまだ否定出来ない。
と言うかそうであって欲しいと思いながら、城を真正面に見る出入口から出て来たので城の方に
向かうのは自殺行為であると判断。
ならば180度ターンして城に背を向けて逃げるだけだ。
(何か、俺の知ってる城とは結構違うんだなー)
地元ドイツを始めとして、何度か旅行でヨーロッパ各地の観光名所になっている城を見に行った事が学生時代にある
エヴェデスだが、彼の考えているヨーロッパの城の中庭と言えばもっと狭いイメージなのが一般的だった。
塔や城壁があって、堀があったり礼拝堂があったりして……と言うが、ヴァルトブルク城みたいな大きな城でも
無い限りは城の庭と言うものは実はそこまで大きくない。
だがこの自分が今走っている城の中庭はかなり大きい。
それからさっきの建物を振り返りながらチラリと見てみたが、それこそ小さな城1つ分位の大きさがある事が窺い知れる。
中庭にこれ程までの大きな建物を建築すると言う事は、もしかしたらさっきの建物は非常に重要な役割を
担っているのでは無いだろうか?
少なくとも今のエヴェデスには何だかそんな風に思えてしまう。
(とにかくここから逃げねえとな)
だけど一体何処から逃げよう?
このまま中庭を走り抜けていればすぐに目立ってしまうし、かと言って城壁は到底ジャンプで飛び越えられそうにも無ければ
よじ登っている間に追っ手に見つかってしまう可能性が高い。
じゃあ別のルートを探さなければならないのだが、ここに来たのなんて当然エヴェデスにとっては初めての事。
完全アウェイなこの環境でどうやって脱出ルートを見つけるかが問題だった。
現代の戦術は勉強しているが、それとこれとはまた話が別だ。
(どうすれば良い……どうすれば!?)
悩んでいる時間は無い。
近くの城壁のそばにある茂みに隠れて脱出ルートを考えていると、ふとエヴェデスの耳に水の流れる音が聞こえて来た。
(……噴水か?)
周りを見渡してみるがそれらしき物は見当たらない。だけど水の流れる音は確実に聞こえて来る。
耳を澄ませて水の流れる音の方向に近づいて行くと、そこには城壁にアーチ状の出入口が出来ている。
その先から水の流れる音が聞こえて来ているのを確認すると同時に中庭が騒がしくなって来た。追っ手達がエヴェデスを
探して手分けし始めたらしい。
(やべっ!!)
さっとアーチ状の出入り口から先に出てみれば、何とそこは船着き場になっている。
そこには何隻もの小舟が停泊しており、少し大きめの川が流れていたのだった。
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