A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第5話


身構えるエヴェデスに対し、何といきなりカチャカチャと両手両足のロックを解除し始める目の前の人間達。

更に身体をガッチリ固定しているロープまで外してくれたと言う事は、エヴェデスはほんの少しだけ自由になる。

その「ほんの少し」の自由な瞬間が、現役ドイツ軍の軍人にとって大きなチャンスになった。

それぞれギラリと光る武器の先端を魔力が無い人間に油断無く向けていた騎士団員達だが、魔術師達は

武器である杖を構えてもいなければ騎士団員が居るからか警戒してもいない。

その魔術師達のリーダーであるドミンゴに向かってエヴェデスは飛び付き、そのまま彼の肩を使ってジャンプ。

「なっ!?」

ドミンゴが飛び掛かられて驚きの声を上げつつ地面に倒れた時には、肩を使ってジャンプしたエヴェデスが

入り口のドアの前に着地する所だった。


エヴェデスはそんな彼等に目もくれず、ドミンゴの手から離れた親衛隊の制服が入っているトランクを素早く

回収しつつ目の前のドアを思いっ切り蹴り破って、その先の廊下へと飛び出てダッシュする。

「……って、おい!! あいつを追いかけろ!!」

魔力を持っていない男のいきなりの行動に唖然としていた一同だったが、ハッと我に返ってバタバタと

慌ただしくエヴェデスを追いかけ始めた。

我に返るまでのタイムラグがあった事でその分のアドバンテージが獲得出来たエヴェデスは、廊下に出て一目散にダッシュ。

この制服姿では走りにくい事この上無いが、今自分が着ている服はこれしか無いので文句も言えない。

壁は石造りで、最初に自分が縛り付けられていたあの部屋は廊下の突き当たりに存在していたと言う事までは

分かったが、それ以外の事についてはここが「魔法王国なんとか」の「魔術なんとか」であるあやふやな記憶しか

今のエヴェデスには分からなかった。

(な、何で俺はこんな所に居るんだよ!? それに俺は何であいつ等に追いかけられなきゃなんねーんだ!?)

それもこれも謎のままとにかく安全圏内まで逃げるしか無いが、果たしてその安全圏があるのだろうかと不安になる。

(そもそも俺、あの地下室でナチスのコレクションを発見して……そこからだぜ)


走りながら考え始めると、あのナチスのコレクションが置いてある部屋で壁に掛けられていた金のワシ章を見上げたら、

急にそのワシ章が光り出してその光に自分が呑み込まれて……と全てはナチスが原因じゃ無いのかとエヴェデスは怒りを覚えた。

(くそ、ドイツじゃナチスはタブーだけどそれに触れてしまった俺への罰なのか?)

自分でも何を考えているのか良く分からなくなって来ているエヴェデスは、逃げ切ったら情報収集を真っ先に

開始するべきだと考えた。

ここは一体地球の何処なのだろうか?

もしかしたら、自分は得体の知れないカルト集団に拉致されてしまったのかも知れない。

いや、あの光のせいで気を失ってしまいこんな得体の知れない夢を見ていると言う可能性もある。

とにかく、今この走っている感覚や後ろからバタバタと追いかけて来ている人間達の怒鳴り声や足音は紛れも無い

現実らしいと言う事だけは何となくだが理解出来た。


そのまま廊下を走って進むと、やがて突き当たりに階段が見えて来たのでそれを一気に駆け上がる。

階段の踊り場はコの字コーナーになっているので、一旦踊り場の壁に手を着いてその反動で次の階段へと

ダッシュする切っ掛けを作る。

ここはどうやら地下の様だと分かったのは、そのコの字型に曲がっている階段を駆け上がり切った先にあったドアを

思いっ切り手で押して開いた時だった。

(うお、まぶしっ!)

カァッといきなり太陽の光が照り付ける。

目の前に大きな窓があり、その窓の前に通路が通っている構造だ。

この階段は地下に向かうので、少しでも明かりをプラスさせようと言う設計者の意図だろうか。


いずれにせよ今の太陽の光が目くらましになってしまい、一瞬だがエヴェデスの足が止まる。

そこで後ろから追いついて来たのがあの銀髪の男だった。

「このっ……!!」

後ろから声が聞こえて来たので、エヴェデスは咄嗟に振り返りながらミドルキックを回し蹴りとして繰り出す。

そのミドルキックは丁度階段を上がって来ていた男の側頭部にクリーンヒット。

「ぐほ!?」

高低差を利用した頭へのキックで男が怯んだのを見て、エヴェデスは前蹴りを繰り出して男を階段の下へと蹴り落とした。

「うおああああっ!?」

男は絶叫と共に階段の下へと転げ落ちて行き、後ろから階段を駆け上がって来ていた他の追っ手達は男が

蹴り落とされて来たのを止める事が出来なかった

そもそも追っ手達もまたスピードが出ていたので急に止まれなかった。車も人間も急に止まる事はなかなか難しい様である。

そうなれば、男の身体は後ろの追っ手達をも巻き添えにして階段の踊り場まで落ちて行くしか無かった。

ドッタンバッタンと騒がしい音が階段の中に響き渡り、それを尻目に再びエヴェデスは走り出す。

(はぁ、何とかこれでまた距離を引き離せそうだぜ……!!)

だけど安心はまだ出来ないし油断も出来ないし緊張も解けない。

ここは何処なのかさっぱり見当もつかないが、今の彼はとにかく逃げるしか無かったのだから。


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