A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第3話


エヴェデスは本棚の中に溜まっているホコリを取っておこうと思いながら、タオルを持って拭き掃除を始める。

この本棚もどうせ処分するんだから……と思いながらタオルを持つ手を動かしていると、ふと何かが手にコツンと当たった。

「んっ?」

何かが引っかかったのでその場所に手を伸ばしてみると、薄暗くて良く分からなかったが何かの窪みを発見した。

とは言っても何かをはめ込んだりする様な窪みでは無く、ドアの取っ手の様に指を入れて引っ張るタイプの窪みらしい。

(何だなんだ?)

タオルを一旦床に置き、その窪みに右手の指を掛けてグイッと引っ張ってみる。

すると、いきなり書斎が振動し始めた!!

「うおうおっ!?」

反射的に本棚から離れて、素早く脱出出来る様にドアのそばで身構えるエヴェデスの視線の先で、

本棚がゴゴゴ……と唸りながらスライドし始めていた。


その本棚が横にずれて行くと、本棚があった場所の床の部分にスッポリと隠れる様に設置されていた

開閉式の床板が姿を見せたでは無いか。

「……何だこりゃ?」

恐る恐る床板の取っ手に手を掛けて引き上げてみると、ギィィ……と錆び付いた音を立てながらゆっくりと何かが現れた。

(階段だ……)

これはいわゆる地下の隠し部屋と言うものであろうか。

しかし、何故こんな階段がこんな場所から現れたのだろうか?

(隠し場所とそれからこの仕掛けからすると、プライベートルームってだけあって人には見られたく無い場所なのは分かったぜ)

もしかしたら何か凄い物があるかも知れないと思い、エヴェデスはスマートフォンの明かりを懐中電灯代わりに

階段を降りて地下に向かった。


その場所には確かに、「凄い物」がある事に変わりは無かった。

スマートフォンの明かりを頼りにして地下室の照明のスイッチを入れたエヴェデスだけでは無く、このドイツ全体に

とって「凄い物」と言っても過言では無いかも知れない。

いやもしかしたらヨーロッパ全体で「凄い物」かも知れないその部屋の中身は、エヴェデスの身体を硬直させて

口をあんぐりとさせるのには十分だった。

「な……んだ、これ……」

赤い旗の中央に白をバックに描かれた、卍形にクロスされたその黒いライン。

それは紛れも無く、エヴェデスの地元ドイツの昔の姿である第2次世界大戦の時の「ナチス・ドイツ」のエンブレムそのままだったのだ。

それが描かれた赤くて横長の旗が地下室の壁に飾られている。

それから突き当たりの壁には大きな金色のワシのエンブレムが掲げられており、横の壁には小さいながらも

タペストリーが掛けられている。

第2次世界大戦後のドイツでは、学問的な理由以外でハーケンクロイツを始めとするナチスのシンボルを公共の場で使うと

「民衆扇動罪」で処罰されてしまう。ただし私有地や個人での所持までは禁止されていない。

となれば自分の祖父はネオナチだったのか? と考えるエヴェデス。

しかし、それにしては何だかタペストリーにもワシのエンブレムにも使い込まれた様な劣化の痕跡があった。


そして何よりも気になったのは……。

(これ、親衛隊の制服か?)

突き当たりの大きな金色のワシのエンブレムが掛かっている壁の前にあるテーブルの上に、1つのトランクケースが置いてある。

そのトランクケースを開けてみると、中から出て来たのは今でも一部のミリタリーマニアには需要が高いナチス親衛隊の制服であった。

だがこの制服も何だか使われた形跡がたっぷりだ。所々ほつれているし、ジャケットもシャツもくたびれている。

それを見てエヴェデスは「まさか……」と一言呟いた。

もしかしたら自分の祖父は……と思ってすぐに首を横に振る。

(待て待て待て、俺そんな話一言も聞かされていないぞ!? ってか俺のじいちゃんはこの組織に居たって事になるのか?)

ただでさえドイツの中でナチスはタブー中のタブーだと言うのに、こんな物がここにあると知られたら自分の軍人としての立場や

地位がとんでもない事になるのは目に見えている。

とにかく自分の祖父がネオナチだろうが本物のナチス親衛隊の人間だったのはどちらにしても関係無いし気まずいし危ないので、

さっさとこの地下室も片付けてしまうべくトランクを閉めてここに後は何があるかを確認する。


だが、そんなエヴェデスに更なる驚愕の事態が襲い掛かって来る。

一通り地下室を確認して、このナチスの品々を地上へと運び出すべくまずはこの親衛隊の制服が入っているトランクケースから

持ち出そうと掴んで踵を返したその瞬間、突き当たりの壁に掲げられているあの大きな金色のワシのエンブレムがまばゆい光を発し始めた。

「うおっ!?」

思わずトランクケースを自分の目の前に掲げながら、そのまばゆい光のショックに耐える様にしつつ一体何が起こっているのかを

確かめようとするエヴェデス。

その光は瞬く間に強くなって行き、ついにはエヴェデスの身体までも呑み込む事態に発展する。

「な、んだ……これ……っ!?」

もはや悲鳴を上げる隙も無く、エヴェデスはドイツ連邦軍の軍服姿のまま親衛隊の制服が入ったトランクケースと共に

地下室から忽然と姿を消してしまった。


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