A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第1話
西暦2016年の11月16日から22日までのおよそ1週間。
この期間中にはヨーロッパのドイツにロシア、それからガラダイン王国にヴィサドール帝国と言う
4カ国の国軍による合同演習が行われていた。
しかし、スケジュールの都合で途中参加となってしまった軍人も存在していた。
それが今、自分の国であるドイツのデュッセルドルフ市内からとある場所へとタクシーで向かっている
エヴェデス・カースリッヒである。
ドイツ連邦共和国軍の陸軍軍人で少佐の地位にある39歳の彼は、別に自分のミスで合同訓練に遅れた訳では無い。
仕事が忙しくてようやく取得する事が出来た、前々から楽しみにしていた1週間のバカンスの真っ最中なのである。
そのバカンスが合同演習のスケジュールの前半に被ってしまい、彼は資料だけ事前に受け取って概要を
把握してから途中参加と言う事で軍の上層部からも許可を得ているので問題無いのである。
そんなエヴェデスが合同演習の前に一体何処に向かってタクシーに乗っているのかと言うと、彼にとっては合同演習よりも
大切で大事(おおごと)な用事があるからだった。
「……」
タクシーの窓から見える町の喧騒を眺めながら、黙ったまま何かを考え込むエヴェデス。
今の彼の頭の中にある事の発端は、実家の母親から3日前に妙な話を聞かされた事にさかのぼる。
母方の祖父の家が取り壊されると言う話からそれは始まったのだが、肝心の母親はすでにこの世を去っているので
親戚からその話をエヴェデスが聞き、休暇を取っていた為に時間の出来ていた彼が遺品整理の為に1人でそこへと
向かっていたのである。
デュッセルドルフ空港の近くからケルン中央駅までタクシーを走らせて貰い、45分程のなかなか長い時間タクシーに
乗っていた為に、110ユーロと料金もかさんでしまったが交通費位は後で出してやると親戚が言っていた為、
今の所は立て替えておいた。
祖父の家はケルンの郊外にあるアウグストゥスブルク城の近くだと言うので、今度はケルン中央駅から列車に乗って15分だ。
アウグストゥスブルク城は観光名所として知られている為に多くの観光客で賑わっている。
当然この日も多くの観光客でごった返していたものの、元々ドイツ人であるエヴェデスにとっては別に城を見に来た訳では
無いのでそのままスルー。
さっさと遺品整理に向かうべく、住所を記したメモを持って祖父の家に向かう。
(うわ……)
その辿り着いた祖父の家は、外観こそ最低限の手入れがされていたものの中は長い年月でホコリまみれ、
汚れだらけ、ゴミも散らかり放題と言う三重苦の有様だった。
確かに遺品整理と言う名目で自分はここにやって来たのだが、これじゃあ遺品整理じゃなくて体の良い
掃除屋じゃ無いかとエヴェデスはがっくりと肩を落とした。
それでもここまで来てしまったからには「整理」をしなければ合同演習に向かう事も出来なさそうなので、
エヴェデスは羽織って来たジャンパーを脱いでまずエントランスの掃除から始める事にした。
「あーくそっ、終わらねえ!!」
捨てても捨てても次から次へとゴミが出て来たり、捨てて良いのか悩む品物が出て来たりと言うのがストレスとして
エヴェデスに蓄積されて行く。
積もっているホコリを片付ければ片付けるだけ自分の中にストレスが積もって行くのを感じていたエヴェデスは、
ようやくエントランスの整理が終わった。
捨てて良いのか悩む品物についてはとりあえず玄関脇に袋に纏めて突っ込んでおき、次に客間や応接室の片付けに取り掛かる。
唯一救われたポイントとしては、この祖父の家が1階建ての平屋でそこまで広く無い事だろう。
これで2階まであったとしたら本気で業者を呼んでいた所である。
(くっそ、せっかくの俺の休暇がこれで台無しじゃねえかよ!!)
心の中で盛大に悪態をつきつつも、何だかんだで掃除をする辺り責任感はエヴェデスにもある様だ。
芸術に関してはまるで素人のエヴェデスから見た評価で、大して価値の無さそうな絵画や花瓶等も綺麗にクリーニングしておけば
売り捌けるかも知れないので、これもまた玄関脇に置いた袋に突っ込んでおく。
ソファーやテーブルセットは粗大ゴミに出す物とリサイクルショップに引き取って貰う物でこれも分けておく。
(後はええと……向こうの書斎か?)
祖父のプライベートルームでもあったと聞かされた事があるから、少なからずその部屋の中に何があるのかエヴェデスは気になる部屋でもあった。
「プライベートルームって結構憧れなんだよなー」
思わず口に出してしまう程だったエヴェデスは、子供の頃から親が「何故か」そばに居る時間が多かった為か「1人の部屋」を
軍に入るまで与えられた事が無かった。
しかも軍に入ってからも、少尉の地位を与えられるまでは同じ軍の人間と共同生活であり与えられていた部屋も2人部屋だったので、
こうした個人のプライベートルームには憧れがあったのだ。
だが、そのプライベートルームでこの後エヴェデスは恐ろしい物を発見してしまう事になる!
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