A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第55話


世の中金ばかりとは言い切れないが、やっぱり金が無ければ大抵の事は出来ない。

金でしか解決出来ない事だってこの世の中にあるのなら、金で何とか出来る事はもっと沢山ある筈だと

アルジェントは今の状況を見ながら思っていた。

それは世界が変わっても同じ事らしい。

何故なら今の状況は、彼が予想した以上の事になっていたのである。

「いやー、こんなに気前の良い人が居るなんてねー」

「これでしばらくは楽出来そうね」

「そうそう、僕達も儲かった」

「結構遠いけど、そこまでは責任持って私達が送り届けるからね」


最初に金を渡したあの若い男の剣士を始めとして、槍使いのロングヘア―の女に魔術師だと言う長髪の男、

そして短剣使いの小柄なショートヘアーの元気そうな女がアルジェントの護衛についてくれた。

この4人で旅をしている傭兵パーティらしく、一時的な護衛としてしっかりとアルジェントを開発施設近くの町まで

送り届けてくれると約束してくれた。

現在アルジェントはそのパーティのリーダー格である剣士の馬に乗せて貰っている。

さっきのラニサヴの息が掛かっていた馬車とは違って身軽な分スピードもかなり速いので、アルジェントは

振り落とされない様に剣士の身体にしっかりと抱きついたままであった。

「もっと遠くまで送ってやっても良いぜ?」

「あー、俺はその場所にちょっと用事があってな。人とそこで待ち合わせをしてるんだよ。だからそこまでで十分さ」

爽やかに決めてみたアルジェントだが、特にこのパーティからの反応は無かった。

ちょっと寂しい。

それでもその寂しさに構っている暇は無い。アルジェントはこれから、敵地に向かって自分を最大限に「アピール」しに向かうのだから。


「アピール」の為にメモに書かれている場所に向かうアルジェントの事を、正直に言ってこの傭兵4人組の男女パーティは怪しいと思っている。

この世界に生きている生物であれば、絶対に持っていなければいけない筈の魔力の力がこの男からは感じられない事。

待ち合わせにこれから向かうにしてはやけに荷物が少ない……と言うよりも外見上は何も持っていない手ぶらである事。

まるで貴族の人間が身に着ける様な、一目見た時のイメージは夜会用の礼服の様な黒の上下。

戦闘に適しているとはとても思えない。

あれだけの大金を気前良く全額渡してくれる事からも、やはり彼は何処かの良い家柄のお坊っちゃんか何かでは無いかと勘ぐる。

そして何より、この男の目的地が4人組にとっては非常に気になる。

リーダー格の剣士が受け取ったメモに書かれていた行き先は、公都から歩いて10時間、馬車を使っても5時間は

掛かると言われている辺鄙(へんぴ)な場所である。

確かに公都からそう離れてはいない場所ではあるが、ものは言い様で歩いて10時間となればかなり遠く感じるのもまた事実。


それに5時間もぶっ続けで馬を走らせ続けるのは無理なので、途中で何度か休憩を挟んだ上でその場所まで行く事を

男に言うと一瞬だけだが渋い表情をされた。

すぐに納得してくれた様で了承の返事を傭兵パーティは貰ったものの、渋い表情をしたと言う事はその休憩すらも

惜しい程急いでいると言う事であろうか?

色々とこの男の正体や言動には謎が多い。

ファーストコンタクトをしたばかりの人間は謎しか無いものであるが、その謎と言うものは自分達の様にパーティを組んで

少しずつ明らかにされて行くものなのが当然であると4人組は思っている。

正直気になる部分ではあるものの、謎の部分に関しては男の口からも「余り詮索しないで欲しい」とだけしか言われてないので

あえて聞かない事にした。

もしかしたら、最初に渡されたあの紙幣や硬貨問わず大量の金が入っている袋は口止め料も兼ねて……と

言う事なのかも知れないから。


その口止め料みたいな金額が入った袋を……と言ってもこの世界の貨幣価値に関してはまだ勉強していないアルジェントは

その事を知る由は無い。

地球に帰る為の情報が最優先だから、この世界の一般常識については何だかんだと後回しにしてしまっていたのである。

とにかく今の状況はこのパーティに護衛をして貰って開発施設へと向かうしか無い。

だけどこのパーティもあのラニサヴの息が掛かっていたら?

その場合はこのパーティを何とかして退けたのちに結局またあの公都で移動手段を探すか、自分の足で研究施設に向かって

およそ10時間の道のりを歩いて行くしか無い。

そしてその分だけ、ラニサヴの不穏な計画を阻止する事が出来る可能性がどんどん少なくなって行くのである。

(胃がムカムカして来たぜ……)

ストレスが原因かも知れない。これから先、自分1人であの研究施設へと乗り込んで行って無事にラニサヴの計画を

阻止する事が出来るのだろうかと言う不安。

ラニサヴの息が掛かっている人間は非常に多いので、もしかしたらこのパーティもそうかも知れないと言う疑心暗鬼。

その計画が成功してしまったら地球に帰る所の騒ぎでは無くなってしまうので、アルジェントは首を横に数度振って

自分に活を入れ、馬のスピードに耐えながら進んで行った。


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