A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第56話


結論から言えば、アルジェントの心配は杞憂に終わった。

何度か休憩を挟んで、結果的に予想の5時間よりも早く30分到着した一行。

その途中で何かされるんじゃないかと内心でアルジェントは気が気では無かったが、結果的にこうして

無事にその開発施設近くの町へと辿り着く事が出来た。

(あー、結構神経使ったぜ……)

後は休憩を挟んでいたとは言え、それ以外の時間はずっと馬に揺られっ放しの状態が続いていた為に腰と尻が痛い。

流石にこの状態で開発施設へと向かう訳にも行かないし、先程パーティメンバーに昼食を分けて貰ったが

また腹が減って来たので少し何か食べ物を口に入れてから開発施設に行こうと決意する。


アルジェントには、所属が違うものの仲の良い軍人であるリオスと言う男が居る。

そのリオスの副官である黒髪の男ともアルジェントは仲が良いのだが、その副官がこんな言葉を残していた。

『ハラガヘッテハイクサハデキヌ』と。

どうやら遠く離れたアジアの日本で生まれた言葉らしく、意味はそのままで「空腹の状態であれば満足に

戦う事は出来ない」と言うのだそうだ。

それはアルジェントも良く分かっているし、色々動き回るのであればそれなりのエネルギーを身体が欲する。

だが自分はこれから敵のアジトに乗り込む身分なので、食べた後に時間を置かずすぐに動き回っても問題無い様な

量の料理を探し回る事にした。

あの時に自分の事を騙して森の中で襲撃をして来た連中から奪い取った金はまだあるから、この世界の食べ物を

少しだけ楽しんでから開発施設に向かおうとアルジェントは歩き出す。


そこで見つけたのが屋台。

屋台は地球では世界中に存在しているが、この世界のエレデラム公国でも公都バルナルドを始めとして今のこの町にも存在していた。

ヨーロッパの屋台は国によって売られている物が結構違ったりする。例えばドイツではソーセージやホットワインだったり、

フランスでは甘い物の屋台が多くてクレープやワッフルやアイスクリームが売られている事が多い。

アルジェントの住んでいるヴィサドール帝国の屋台では割とこってりとした軽食が多いのが特徴で、串に刺して焼いた肉や

フライドポテト等がある。

もっともそう言う物を屋台で買って食べていたのはもう子供の頃までさかのぼる様な昔の話で、今では軍の食堂で

沢山のジャンルの料理が食べられるので屋台で買い物をする事自体が久々である。


ヴィサドール帝国の味付けが濃くて油も多いこってりフードが懐かしく思えて、自然とそのジャンルの料理を扱う屋台に向かって

ブーツをコツコツと鳴らしながら近付くアルジェント。

地球とは違う世界ではあるが、それでもなかなか美味そうな料理の屋台に思わず唾液が出て来る。

「なあなあ、これって何の料理だ?」

その一言からしばしの休息も兼ねて、アルジェントは自分が興味を惹かれた屋台で食べ物や飲み物を購入しては胃の中に収めて行く。

前線で戦う事を地球では希望していた男もやはり1人の人間なので、眠くなるし腹だって減る。

それにここはどうやらラニサヴの息は掛かっていないらしい。

流石に屋台と言う不特定多数の人間が集まる場所で毒入りの料理を出す……のはアルジェントが来た時だけやれば

良い話なのだが、アルジェントがどの料理の屋台に向かうかまでは分からないのでラニサヴも手を回せなかったのかも知れない。

何にせよ息が掛かっていないのなら今だけは戦う事を忘れて、腹の調子を壊さない程度に地球の名ばかり少佐は異世界の料理を楽しんだ。


「ふー、食った食った」

早く開発施設に向かわなければまずいと言うのは頭では分かっている。

だけど人間の本能的な欲求に、どうしてもアルジェントは負けてしまったのだ。

(ハラガヘッテハイクサハデキヌ……か)

リオスの副官が言っていたその言葉を思い出しつつ、アルジェントはポケットからガサゴソとメモを記した紙を取り出して最終チェック。

(俺が居るのが今ここで……で、この町から歩いて20分の森の中にその開発施設があるって話だけど……)

歩いて20分と言ったら距離はそこまで離れていない様に感じるので、秘密裏に開発されていると言うそのキメラ兵器が

この町に対して行き来する複数の人間に見つかったって不思議じゃ無いよな……とアルジェントは首を傾げた。

(まさか、また魔力がどうのこうのって言う隠し扉みたいな物があるんじゃ?)

あの洞窟の時の様に、自分に見えない様な扉の先にその開発施設を造ってその中で……と言う事になれば余りにも

行動がワンパターン過ぎるだろうと考える。

しかし、実際に現地に足を運んでみなければまた別の方法で開発施設を隠している可能性もある。

(キメラだか何だか知らねえけど、俺の地球に帰る道を塞がれる訳には行かねえんだよ)

とにかく今はそこに向かうべく、屋台の料理とこの町に別れを告げてアルジェントは歩き出す。

20分も歩けば丁度良い位に胃の中に収めた食べ物が消化されるだろうし、歩くのだってエネルギーが必要なので

きっとコンディションは万全だろうと思いつつ……。


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