A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第50話
アルジェントの姿が城の何処にも見えない。
先程昼食に毒を混ぜて自らが部屋に持って行ったのだが、その時は既に部屋に居なかったのである。
大公も知らない内に外に逃げられてしまった可能性が高い。
果たして何処に行ってしまったのだろうか?
しかし良く考えてみれば、自分が食事を持って行った時にアルジェントがあの部屋に居なくて好都合と
言えば好都合だったかも知れないとラニサヴは考えた。
何故ならその食事の毒でアルジェントが死んでしまえば、職を作った料理人だけでは無く自分まで疑われる可能性があったからだ。
それから大公があの男と数日前になにやら2人で話し込んでいたと言う情報もキャッチしているし、
さっき大公の執務室に自分が向かう前にあの男が執務室に向かったとの情報もある。
そう考えると、食事の件とは別の考えも同時にラニサヴの中に湧き上がる。
(ちっ、もうすでに俺の事はあの男にも大公にもばれている可能性が高いな)
あの部屋に置いてあった図書館の本、それから地下室から消え去った開発資料。
当然自分は地下室からあの開発資料を持ち出していない。
それに図書館で本を借りて来たのは、あの魔力を持たない男以外に考えられない。
だけど不思議なのは、魔力で封印をしている筈の自分のあの部屋のドアがどうしてあの男に見つかってしまったのだろうか?
歩きながら考えてみるラニサヴの脳裏に、前に起きた不思議な出来事のシーンがフラッシュバックして来た。
(……まさか)
あの魔石回収で危うく自分が守護者の石像に押し潰されそうになった、あの洞窟の話。
石像の事よりも前……必死の表情であの魔力を持たない人間が「ここに扉があるだろ」と言っていたあの時のシーンが
ラニサヴに1つの仮定を考えさせる。
(あれと同じ事が、もしかしたらここにも……いや、そうに違いない!!)
騎士団長だからこそ色々と魔術師達とのパイプもラニサヴは持っている。
打ち合わせの名目で城の中の自分の執務室に呼び寄せ、内密に階段とあの使われなくなった昔の通路を塞いで
作った小部屋を結ぶドアを作って貰うのはそう難しい事では無かった。
この国の大公は執務で忙しい為、なかなか騎士団の事にまで目を配っている余裕は無い。
だからこそ騎士団長である自分が全責任を負っているので、ある程度そこの融通は利かせられるのが救いだった。
魔力で封印をしている筈の自分のあの部屋のドアは、普通の人間であれば目に見えない様に不可視の魔術も掛けている。
階段側から自分の部屋に戻るだけなら普通にドアを開ければ済む事だが、自分の部屋から階段を下りる為には
封印解除用の呪文が刻み込まれている魔石をドアに向かってかざさなければ解除出来ない。
しかし、封印を解除した形跡も無しにあの男があそこに入り込めたのは何故かと言う事を考えてみると……。
(あの男は武器も防具も何故か使えない。それは俺も見たから分かるが……まさか、魔術の類は逆にあの男には一切通じないのでは?)
良く良く考えてみればあの洞窟の時からおかしかった。
魔力と魔術が関係していたあの洞窟のドアに対して、最初に反応したのがあの男だったのだから。
(……くそっ、こうなったら……)
ラニサヴは自分の部屋に向かい、あの男を捕まえる為の準備をし始めた。
その一方でラニサヴが大公の部屋に向かう10分前まで時間はさかのぼる。
敬礼をしてから大公の執務室を出て、アルジェントはすぐに行動するべく荷物を確認する。
(……って言っても、俺の持ち物なんてこのスマートフォン位しかねーんだけど)
この世界でスマートフォンを軍服のポケットに入れたまま手ぶらでやって来てしまった事は、どうやら悪い事ばかりでは無い様であった。
身軽に動けるのが分かった以上、そのフットワークを活かしてキメラの開発が行われているらしい場所へと向かう。
開発場所や開発内容等の大まかな情報はスマートフォンのカメラ機能を使って撮影済みである。
後はその情報を頼りにして向かうだけなので、アルジェントは意を決して1回の窓から外に向かって脱出しつつ公都の喧騒の中に消え去る。
だが、この世界の神と言う者はアルジェントに更なる試練を与えてしまう事になる。
あの地下の隠し部屋で転送陣が自分にも使えるんじゃないかと思っていたアルジェントだが、それを踏みしめて転送陣の
奥側にあるテーブルの資料を取りに行った時には何も反応しなかった。
(転送陣って一体何なんだ?)
名前からするとワープ装置らしいのだが、魔術があってこそ動くらしいので何か魔術のエネルギービーム等をぶつけないと
駄目なのかな……と考えながらアルジェントは小走りに近いスピードで公都の町中を歩く。
下手に走り回れば騎士団員が怪しむ可能性があるし、その騎士団員にラニサヴの息が掛かっていたらそれもまずい。
だからなるべく人込みの多い区画を通って人に紛れて目立たない様にしながら、アルジェントはキメラ開発の施設がある場所へと
確実に進むのだった。
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