A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第41話
「……まさか、こんな事が起こるなんてな」
「これも駄目ってなると……あんた、戦闘だと人間以外を相手にするのは厳しいだろうな」
試作品を作って貰ってはみたのだが、その試作品の指輪をリオスが手袋を外した指にはめてみた所、
あの武器屋での出来事と同じ様に強い光と少しの痛みと大きな音が現れたのである。
「何か特別な細工でもしたのか? あんた」
「いいや、私は別に何時も通り作っただけだ。しかし……その様子だと私は力になれそうに無いな」
今度はオーナーにホルガーが疑いの目を向ける事になったのだが、オーナーは何時も通りに作ったと反論する。
武器の時の原因は不明だったし、今回の指輪の時も原因が分からない。しかしこうして指輪がリオスを
拒絶しているのか、リオスが指輪を拒絶しているのか……どちらにせよ、リオスの顔にも諦めムードが漂っていた。
「仕方が無い、色々手間かけさせて申し訳無かった」
「気にするな。貴方は貴方なりに生きれば良いのだから」
そんなセリフを受けつつ、リオスとホルガーはそのショップを出る。
この町ではもうやる事がこれ以上無くなってしまった上に、この所立て続けに色々な町で殺人が起こっているとなれば
すぐにでも次の町へと向かう方が良いだろうと判断していたのを思い出して馬車の元へと向かった。
「次の町はもっと西の方なんだろう?」
「そうだ。山を迂回して馬車で向かうルートと、山を徒歩で移動するルートがあるんだけどどっちが良い?」
ホルガーから選択を迫られたリオスは、迷わずこう返答する。
「急ぎたいのは俺自身も思っているんだが、無用なトラブルは回避するに越した事は無い。ここは山を超えるルートは
俺は絶対に選ばないから、迂回するルートを選択させて貰う」
「冷静なあんたならそう言うと思ったよ」
何処か嬉しそうにそう言うホルガーは、馬車の御者に山を迂回するルートを選択して貰う。
3日はこのまま馬車と一緒に行動するので、その間は野宿になると言う事だった。
「野宿であれば野盗とか、それこそ魔獣にも注意が必要になって来そうだな」
が、そのリオスのセリフにホルガーは首を横に振る。
「いや、これから俺達が通るルートは街道になっているから定期的に騎士団やギルドの傭兵とかに魔獣や
野盗の駆除をして貰っている。そこまで心配する事も無いさ」
「と言う事は安全なルート、と見て良いのだな?」
「そうだ。さぁ、出発しよう」
「分かった……」
それでも、何処か不安なこの気持ちは一体何なのだろうか?
リオスはその気持ちを覚えつつ、今は馬車で進むしか無いと信じてその馬車に乗り込んだ。
「……」
「……」
「……なぁ」
「……何だ?」
「もし仮に、俺が山を進むルートを取っていたらどう行動する事になっていたんだ?」
せっかく異世界で生活しているのだから、別のルートを進んだ場合の行動についてリオスは聞いてみた。
「そうだなぁ、その場合はあんたの格好じゃあ動きにくそうだからまず足を痛める事になってたかも知れないぜ。
迂回する山はこの帝国で随一って言われる位の険しい山だからさ」
「ふむ……」
軍でもそう言う類の訓練をして来た事はリオスにはあった。30キロの装備を背負って2000mクラスの山を登山する訓練をしたり、
逆に2日間でそれこそ水しか飲んでいない条件で、空腹に耐えつつ真夜中の山道を麓まで下山させられたりと過酷な状況下での
パターンを想定して訓練カリキュラムが練られていたからである。
だが、その地獄の様な過酷なカリキュラムを乗り越えて来たからと言ってもやはりここは異世界。
その山がどんな地形なのか? どれ程の標高があるのか? 危険なポイントはどれ位あるのか? そして地球の山に居る野生の
動物と違ってこの世界特有の存在……リオスが以前あの集団と一緒に出会ってしまった様な魔獣が山に生息しているのでは
無いのか? 等の事前に知っておかなければならない情報が、幾つもリオスの頭の中に存在している。
山を甘く見ていると痛い目を見る、と言うのはこの異世界でも地球でも同じだと感じながら、その事について聞くべくリオスは口を開いた。
「もし、何らかのトラブルがあってその山を通るルートを選択しなければならなくなった場合の事を見越して、今からその山の事に
ついてもっと色々と聞きたいんだが構わんか?」
その質問に、ホルガーは腕を組んで何処か感心した様子でこう切り返した。
「凄く用心深いんだな、あんた。さっきの町で俺に疑いかけたり、俺を夜中に尾行して騎士団に捕まっちまった奴と同じ人間に思えねーよ」
あんたって人間が俺は良く分かんねー、とボヤきつつも、ホルガーはリオスの質問に律儀に1つずつ答えて行く。
「地形は普通の山と変わらない。ゴツゴツしてるし岩場もあるし。それから人がすれ違うのがやっとの道幅の部分もあったり、
断崖絶壁でロープが張られている道もある。標高はこの帝国でぶっちぎりに高い。普通に登山するとして片道3時間はかかるな。
で、そこから降りて向こうへ山を越えるから、何処かで1度野宿した方が良いだろう。
危険なポイントはやっぱり、その断崖絶壁のロープしか無い所だ。帝国もなかなか安全対策をしてくれねーんだよな」
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