A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第47話
大公の部屋へと向かおうとしたアルジェントだったが、夜も更けた時間帯だったので
騎士団員に見咎められてストップを食らってしまう。
それを切り抜けるべく、アルジェントは自分の飄々とした口調で嘘の理由を話し始めた。
「俺さぁ、大公さんに呼ばれてるんだ。もっと異世界の話を聞かせて欲しいって言われちゃったのよ。
それで今日の夜に約束してたんだけどねぇ……」
大公の寝室を警備していた騎士団員はそれを聞いて、確認の為に大公が居るその寝室の中に向かう。
(さてどう出るかな……)
あの大公の事だから事情を察して上手く口裏を合わせてくれるんじゃ無いかと思っていた
アルジェントの前に、騎士団員に連れられた大公が寝室から出て来た。
「そなたか……どうした、こんな夜遅くに……」
寝起きでやけに眠そうな大公。呼んで来る騎士団員もどうかと思うが、この時間にそんな大公を
起こしに来るアルジェントは世間一般の認識からしてみればもっとどうかしている。
本来であればここから追い出されるか、真面目に不敬罪でこのまま投獄されたっておかしくは無いのだから。
「ええ? いやいやほらほら、大公さん言ってたじゃないですか。俺の話をもっと聞きたいから
その機会が出来たら来てくれって。凄く面白い話があるんですよ」
「……え?」
寝ぼけ気味で頭が働いていないのか腑抜けた声を出す大公に対して、アルジェントは軍服の
内側にしまい込んである資料を少しだけ引っ張り出す。
「ほらこれですよ。これに地球の情報纏めて持って来てくれって。だから今こうして持って来たんですよ」
何とか状況を分かって貰おうとするアルジェントに対して、ようやく頭も覚醒して来たのか大公がゆっくり2回頷いた。
「……あ、そうか。そう言えばそんな約束をそなたとしていたな。少しだけなら構わん。良い夢が見られる様な話をしてくれ」
と言う訳で15分だけ時間を貰い、大公と2人きりにして貰ってから改めてラニサヴの部屋で
見つけた書類を差し出しつつ事のあらましを話し始めた。
「……これはまことか」
「俺、ここまでこんな精巧な書類作れないです。もし信じられないと言うのであれば、俺と一緒に
ラニサヴ団長の執務室まで見に行きませんか?」
大公は首を横に振る。
「いや、十分に分かった。あの男が何をしでかそうとしているのかがな。あの小部屋に繋がる階段と部屋は、
その昔王族の緊急脱出用に作られた階段を改装工事の為に壁を作って封じ込めたものだ」
「それじゃあラニサヴを捕まえて、さっさとこの計画を止めさせましょうよ!!」
普段は飄々としているものの、それ以前に熱血漢な性格のアルジェントは興奮気味に大公にそう進言した。
だが大公は渋い顔をする。
何でそんな顔を……と不安になるアルジェントに対して、思いがけない言葉が大公の口から出て来た!!
「それが……騎士団長が行方不明になってしまってな」
「はい?」
まさかの急展開がここでも待っていた。
「え……っと、それって何時からの話です?」
「今日の夕方からだ。騎士団長は必ずこの城に帰って来て寝泊まりする事になっているんだが、
今日はまだ外出したきり帰って来ておらん」
そんな話を聞かされたら、ますますまずい展開をアルジェントはイメージしてしまう。
「もしかして、この計画書に書かれている事を既に実行しに向かったんじゃあ……」
「その可能性が高いな。馬を使っていなくても、転送陣があるのだとしたらこの紙に書かれている場所への移動は
不可能と言う訳でもあるまい」
それがもし実現してしまったら計画の実現まで時間が無い。
アルジェントは座っていた椅子から立ち上がり、テーブルを挟んで向かい側に座る大公に力強い口調でこう言った。
「お、俺行きます!! 俺が地球に帰る前にこの計画をスタートさせられたら、地球に帰る為の情報収集どころか
このままでは大公の命もそれから公国民の命も、いや世界中の人間の命も俺の命も危ない! 騎士団の編成には
時間が掛かるでしょう。それに今の段階で身軽に動けるのは俺しか居ません!!」
「……危険だぞ。確かに頼んだのは私だが、調査をしてくれるだけで良かった。後の始末はこちらでさせて貰いたい。
それに命が危ないんだったら私に任せてくれないか。情報収集の前にそなたが死んでしまう様な事があれば、
そなたが元の世界に帰る事も出来なくなってしまうだろう」
調査をすると言うミッションは成し遂げたものの調査結果に対してヒートアップアルジェントに、
その頭を一旦冷やす様な口調で諭す大公。
それを聞き、ハッとした表情になったアルジェントは一旦口を閉じて椅子に座る。
「……すまなかったです。俺、ちょっと興奮してた……。考えればそうですよね。相手の規模が分からないのに、
無暗に突っ込んで行ったら俺が死ぬかも知れないんですから」
「逸(はや)る気持ちも分かるが少しは落ち着きたまえ。そなたは今日は良くやってくれたからもう部屋に戻って休め。
私だって何も考えていない訳では無い。騎士団の編成はこちらでしておく」
「分かりました。明日は時間取れそうですか?」
「何とかしよう」
「俺も色々考えてみます。寝ていたのに付き合ってくれてありがとうございました。お休みなさい」
「ああ、お休み」
落ち着きを取り戻したアルジェントはクールダウンの為に部屋に戻る。
しかしこの時、彼は重大なミスを犯していた事にまだ気づいていないのであった。
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