A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第48話
クールダウンさせる為にアルジェントは部屋に戻って睡眠を取っていたのだが、何だかスッキリしない目覚め方をしてしまった。
まさかの計画を見てしまって気持ちがまだ昂ぶっている状態なのか、それとも何か別の原因があるのか。
窓の外の天気は今のアルジェントの気持ちと同じく曇り空。
(この気持ちは一体何なんだよ……)
何故だかは分からないが胸騒ぎがする。
何かやってしまったかなと記憶をたぐっていると、コンコンと部屋のドアがノックされる。
(誰だ。こんな朝っぱらから……)
昨日の事があってから、冷静になって用心しておかなければならないと大公の一言で心に決めていたアルジェントは、
誰が来たのかを声を掛けて確認する事に。
「誰ですか?」
だがその声の主は、アルジェントが今1番会いたくない人物だった。
「俺だ。ラニサヴだ」
(えっ!?)
昨日から居ない筈なんじゃ無かったのか。
と言うよりも何故自分の部屋にやって来たんだ。
(いや待て待て待て、ここで変に取り乱したらかえって怪しまれる。ここは落ち着いて……)
ラニサヴが本当に部屋のドアの前に居るのなら、そのドアを開けた瞬間自分をサーベルやナイフでグッサリ、と
言う事も考えられたアルジェントはドアをそっと開ける。
「どうした?」
幸いにもドアを開けただけで刺される事は無かったが、その代わりにアルジェントの表情が凍り付く物を
ラニサヴが差し出して来た。
「俺の執務室に貴様が忘れ物をしたらしくて、それを届けに来たんだ」
「……あっ……!?」
あの執務室に入った時にその執務室のデスクの上に置きっ放しにしてしまっていた、図書館から借りた本。
怪しまれない様にする為の口実に使った本だったのに、その本が原因で怪しい行動をしていたとこれでラニサヴにばれてしまったらしい。
「俺の執務室で何かしていたのか?」
「え? いやいや別に何も……ただ、俺その本の事でちょっと分からない所があったからあんたに教えて貰おうと
思って行ったんだけど、居なかったから本だけ置いちまったんだ。もしかしたらあんたが気付くんじゃないかって……な?」
咄嗟にペラペラと嘘を並べ立ててみたものの、ラニサヴの表情はその顔に無い。
「……悪いが俺は忙しいんだ。別の奴に頼んでくれないか」
「あー……そう? 分かった。だったら別の奴に頼むわ。手間掛けさせちまって悪かったな」
「余り目立つ様な事はするなよ」
それだけを言い残してラニサヴは立ち去ってしまった。
(……あ、あれ? これだけか?)
最後の一言は一体どう言う意味で言ったのだろうか?
あの書類を持ち出した事がばれている……様な雰囲気にはアルジェントには見えなかったが、ばれていた上で忠告で
その一言を言ったのならこれから先で何が起こるか分からない。
しかし、そこまで考えてアルジェントは首を横に振る。
(いや待てよ。そうだとしたらあの計画を知ってしまった俺を消すつもりだろーが。俺がもしあいつの立場だったら
そうするね。それも今、ここでだ)
それをしないと言う事はやっぱりばれていないのでは無いか?
本当にもしかしたら、あのデスクに置きっ放しだった本を自分の元に届けようとしただけでは無いのか?
(やべぇ、俺あいつの考えてる事さっぱり読めねぇぜ!?)
元々そう言う考え事は苦手な為、ラニサヴの行動にアルジェントは不信感しか感じない。
ひとまず一旦ベッドに戻ってそのベッドのふちに腰掛け、ラニサヴの執務室から繋がるあの隠し部屋で見つけた書類の
内容を思い出すアルジェント。
(魔石を大量に集めて、それをエネルギーとして大型魔獣達と融合させてキメラを作り出す地下施設を極秘裏に
ラニサヴが公都から離れた場所で開発している……って話だったな)
内容だけ見るとシンプルなものだが、実際にこんな地下施設を開発するとなれば長い時間と金と人員が必要になるだろう。
(その為に盗賊と手を組んで、生み出したキメラを各国に売りさばいて……とかか?)
もはや何が何だか分からなくなって来ているが、危険な計画である事に変わりは無い。
その危険な計画を生み出した騎士団長ラニサヴは、自分の計画がアルジェントに感づかれた事に気が付いていた。
夕方にこの城を抜け出し、何時もの通りに路地裏の至る所に設置してある1回限りで消えてしまう転送陣を使って
開発施設へと向かい、開発の様子等を探ってからあの地下階段の奥にある小部屋に戻って来る予定だった。
しかし昨日の段階ではその開発施設で機械のトラブルが起きており、そのトラブル対応で時間が掛かり過ぎてしまったのだ。
当然大公からも怪しまれたが「眠れなかったので夜の見回りです」とサラリと受け流し、それで終わる筈だったのに。
(あの異世界人、俺の計画書を盗んだみたいだな)
幸いにもまだ誰にもばれていないらしいが、秘密を知られたからには生かしておく訳には行かない。
かと言って城の中で自分があの男を始末してしまえばそれで自分が疑われてしまう。
今まで極秘裏に進めて来た計画をここで終わらせない様にするには、あの男を怪しまれない様に始末するしか無かった。
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