A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第46話


もしそうだとしたら。

「それ」が原因で、今までラニサヴ以外の人間がこの事に気がついてなかったとしたら?

(そうだとしたらやっぱりつじつまが合うよな)

それに自分が今このドアと階段に気が付く前にこの執務室に入る機会があって、その時にラニサヴにその事を聞いてしまっていたら。

アルジェントは思わず身震いをしてしまった。

この執務室に足を踏み入れるのは実は今回が初めてなのだが、もし足を踏み入れていたら

間違い無くこのドアの事を聞いていたに違いない。

(どうする、今ならまだ引き返せるぞ?)

そんな声がアルジェントの脳裏に響くが、アルジェントは首を横に振ってその声を振り払う。

怪しい行動をしているのなら、それを確かめて欲しいと自分は大公直々に依頼を受けた。

そしてその見返りに関しても言えるだけの事を言ってしまって、更に許可まで下りてしまった以上はもう引き返す事なんて出来やしない。

だったら行くしか無いよな、と決心してアルジェントは階段をなるべく音を立てない様にして下り始めた。


階段はこの建物の寸法に合わせて無理矢理造ったせいか、やっぱりアルジェント自身が通るのが一杯一杯だ。

それでも通れない幅では無いので、さっさと下り切ってこの先に何があるかを見てみるべく足を進ませる。

何故こんな場所にこんな階段があるのかと言う事は、その階段を下りたアルジェントの目の前に物的証拠として現れた。

「小部屋……」

ボソッと呟くアルジェントの目の前には、一般家庭のトイレ程のスペースしか無い小部屋が鎮座している。

その小部屋の中には1つの小さなテーブルしか無かったが、それよりもアルジェントの目を引いたのはテーブルの

手前に描かれている妙な文様の陣だった。

それを見て、アルジェントの頭の中で大公の言っていた事が思い出される。

『転送陣と言う物がある。それを使えば、魔術の力で一瞬で別の場所に生き物の身体や物体を移動させる事が

出来るとだけ教えておこう』


きっとこれがそうに違い無い。

あの路地裏からここにワープして、ここでコソコソと作業をしてから階段伝いに自分の執務室に戻ればアリバイも作れる。

無理がありそうなアリバイ作りだが、それでも今までここがバレていないのだろうと言う事を考えればそれなりに

機能していたのだろうと思われる。

(ってか、良く誰にもばれずにこんな場所造れたよなー)

人の出入りが激しいであろう事を考えればこんな場所を増築するなんて、それこそ大掛かりな工事過ぎて無理な

気がするのはアルジェントにも分かる話だ。

となればここはやはり元からあった場所で、その元からあった場所を封じてこうして隠し部屋にした……と言うのが1番しっくり来る。

ドアの存在に特に誰も異を唱えなかったのは何故かは分からないが、あの洞窟の時の現象がさっきのドアにも

あるのだとしたらやっぱりつじつまが合う。


だけど今はそんな事を考えている場合では無い。

何時誰がここにやって来るかも分からないので、アルジェントは文様の奥にあるテーブルの上に置いてある

紙の資料を手に取って読み始める。

(えーっと何々……?)

スーッとこの世界の文字から見慣れた英語に切り替わって行くその文面を読み進めて行く内に、アルジェントの顔付きが

どんどん変わって目が見開かれる。

「な、んだこりゃ……」

その書類の束に書いてあった事は、騎士団長と言う立場の人間がまさかこんな事をしていたなんて……と誰でも思う様な内容である。

いや、逆に考えてみれば騎士団長だからこそこれだけの規模のやり方が出来るのかも知れないとアルジェントは考える。


とにかくこの計画を野放しにしておく訳には行かない。

この計画が成功してしまえばこの国からじわじわと犠牲者が出始めて、最終的にはこの世界全体にその犠牲が広がって行く未来が見える。

(それにあのラニサヴは多分コンプレックス抱えてるんじゃ無いかってあの大公さんは言ってたな。だったら、そのコンプレックスが

こんな事をしでかそうとしている原動力になったって不思議じゃねーぜ)

この内容をとにかく誰かに知らせなければならない。

真っ先に知らせなければならないのはこのミッションを依頼して来た大公だろうと考えたアルジェントは、その紙の束を引っ掴んで階段を駆け上がった。

騎士団員はこの城の中に沢山居る。

だけどアルジェントはこの城に来てまだ数日しか経っていない為、その騎士団員の中にラニサヴの息が掛かった者が居るかも

知れないと言う不安があったからこそ、騎士団員に無暗にこの資料を渡す訳には行かなかった。


それに人間的には余り良い性格では無い様だが、騎士団長と言う肩書きがある以上はそれなりに信頼もある筈なのでアルジェントが

この資料を渡した所でその内容を信じてくれるかどうかも怪しい。

(夜も遅いけど大公さん起きてるかな?)

起きてなかったらそれこそ投獄覚悟で叩き起こすつもりだ。

軍服の内側に紙の束を隠し終えたアルジェントは何食わぬ顔でラニサヴの執務室を出る。こう言う時に冷静さを保てなければ

絶対に怪しまれるからだ。


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