A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第45話
その夜までアルジェントは部屋の中でこの世界の勉強をして過ごし、昨日と同じく夜も更けた時間帯になってから行動スタート。
ラニサヴの執務室の場所はもうすでに分かっているので、片手に本を持ってその執務室へと向かう。
これで騎士団員に執務室へ向かうのを怪しまれて呼び止められたとしても、アルジェントにはきちんとした
理由をその頭で考えた物があった。
「ラニサヴが暇な時にこの本を図書館に返しに行ってくれるって言うから、今から執務室に届けに行くんだよ。遅くなったけどな」
多少無理があるかも知れないが、これでもアルジェント並みに精一杯考えた理由である。
このセリフも自分の部屋でなるべくスムーズに言える様にしてから執務室へとブーツの音を響かせて向かった
アルジェントだったが、どうやらその必要は無かった様である。
城のほとんどの部屋の前には2人の騎士団員がそれぞれ扉の両隣に立って警護に励んでいるが、騎士団長の
執務室ともなれば中に居るのがそれこそ名前通り騎士団長の為か警護はついていない。
何か詰めが甘いよなーと思いつつも一応ノックをしてみるが、中からラニサヴの返事は無かった。
(……居ないのか?)
そう言えば大公がサラッと言っていた。執務室とラニサヴの寝る場所は別だと。
だから調べやすいんじゃないかと。
(まぁあの時俺がラニサヴの執務室がどうのこうのって言えば、俺がこうして調べる気だろうと予想は簡単につくだろうよ)
ごく自然にと言う程のものでは無いにしろ、こうして情報提供をしてくれると言う事はどうやら本当に大公は
アルジェントの味方らしい。
同時にそれだけラニサヴに不信感を抱いていると言う証拠にもなるのかも知れない。
とにかくラニサヴが居ないのであれば好都合である。
中の様子を慎重に慎重に、どんな気配も見逃さない様に神経を極限まで集中させながらアルジェントは
室内へと素早く滑り込んだ。こうした軽快かつ身軽なフットワークが出来るのもシラットで身体を動かしていたからであろうか。
(とりあえず本はここに置いて……)
一旦執務室のデスクの上に本を置いてそこまでの広さでは無い執務室を見渡す。
特に室内に不審な点は……あった。
(あれっ、何でこんな所にドアがあるんだろ?)
入り口のドアを開けて真正面を見た時に、執務室のデスクに座っている人間と向かい合わせになるレイアウトの
その椅子の奥の壁には窓がある。ここまでは良い。
……のだが、そのデスクの横に何故か不自然に設置されている1枚のドア。
デスクの椅子に座って自分の右側、入り口のドアを開けて自分の左側の壁にドアが設置されている。
いや、設置されている事自体はおかしくない。
おかしいのはこの部屋の位置、そしてドアの設置されている「向き」なのだ。
(あれ、この部屋って「角部屋」だよなぁ。だったらこんな場所にドアがあるなんて変だぜ?)
逆側にドアが設置されているのなら隣の部屋に通じるドアだと言う事が分かるが、今のこのドアの位置だと
そのドアを開けたら間違い無く外へと飛び出してしまう。
明らかに設計ミスとしか言い様が無い設置場所のドアに、アルジェントが不信感を抱かない訳が無かった。
(緊急脱出用にここからロープを垂らして……いや、それだったら窓を開けるか割るかして外に逃げた方が
全然手間も時間も掛からねえよな)
もしくは設計の段階で「この先にまだ部屋を造る」予定があったのだろうか?
無償にそのドアが気になって仕方無いアルジェントはもう1度部屋の外の気配を確認して、更にそのドアの向こう側の
気配も確認してからゆっくりとドアノブに手を掛ける。
そのドアの向こうにあったのは思いもよらない物だった。
(……何でこんな場所に階段があるんだ?)
人1人が通れるのがやっとと言う狭いスペース。アルジェントでもギリギリのスペースしか無い階段が2階のこの執務室から
1階へと向かって伸びている。
転落防止の為に壁には何個かのランプが吊るされており、足元が見えるのはありがたい事である。
この階段に繋がっているドアがあると言う事を、今まで騎士団員達や城のメイド達は何も思っていなかったのだろうかと
アルジェント自身がそこで1番疑問に思ってしまう。
(そういや俺、ラニサヴと会話するのは何時も執務室の外だったからな)
まさかこんな形でこんな不自然なドアと階段を見つけてしまうなんて……と思うアルジェントの脳裏に、
唐突にフラッシュバックして来たシーンが。
「何処にそんな入り口があるのです? 私には何も見えませんが」
「へっ?」
まさかの回答にアルジェントは自分の目がおかしいのか、それともこの騎士団員の目がおかしいのか心の中で葛藤する。
「いやほらあそこだよあそこ、あるだろーが」
「……いえ、見当たりませんね」
「いやいやおかしいって。ほらあそこにあるだろ。こう……金属の、錆びててボロくて、でもすげー重そうな大きなドアが岩壁に埋まってんだろ?」
「私には本当に岩壁しか見えないのですが……」
もしかして。
いや、「それ」と同じ事が今ここでも起こっているのかも知れないと考えるのが自然だった。
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