A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第44話


「俺、答えが分かった様な気がします」

「それなら良かった。ところで……そなたはラニサヴの過去を知っているか?」

「えっ?」

唐突にそう聞かれたものの、それだったら大公さんが話してくれたじゃないですかと数日前の話し合いの内容を

思い出しながら答える。

「その家族って、あのラニサヴにとっては本当に大事だったみたいですからね」

「ああ。孤児院出身だから大勢の家族が居たよ。その野盗に襲われた町に住んでいた「家族」も

孤児院で一緒に育った彼の家族だからな」

「え?」

何それそんなの初耳なんだけど、と大公の前でアルジェントは表情が凍った。

今の自分が調査をしている相手にまさかそんな過去があったなんて。


そのアルジェントの顔つきを見て、大公はああ……とあの部屋で2人で密談をしていた時に話しそびれてしまった事を、

今も同じく2人きりなのでここで話せるだけ話す事にする。

「そう言えばあの時話すのを忘れていたな。あの騎士団長のコンプレックスは、彼が孤児の出身だからと言う事が

そもそもの原因かも知れないと私は思っている」

「孤児だから……んー、それだけじゃ良く分からないです」

地球にも孤児院は当たり前に存在しているが、アルジェント自身は孤児院と関わった事が無いので

どうリアクションを取れば良いのか分からなかった。

「要は自分が孤児で、周りに居る人間が羨ましいのかも知れん。あの騎士団長は自分の努力だけでのし上がって来た男だから、

私はそれをもっと誇りに思っても良いとは思うのだが……流石に私でも、人の心の中までは読めんよ」

「本人にしか分からない気持ちがあるって事ですか……」

自分も大公も人の心が読める訳では無い人間。

これもまた、世界が変わってもやはり人間と言う生き物までは変わらないのだろう。


「それでは、例の任務の続きはよろしく頼むぞ」

「分かりました。あ……そうだ。ラニサヴ騎士団長の執務室とかも調べられそうなら調べても大丈夫ですかねえ?」

「それは怪しまれない程度でお願いするよ。騎士団長の執務室と彼が寝る場所は別だから調べやすいかも知れないな」

大公と別れて部屋に戻り、再び自分の軍服姿に着替えたアルジェントは今まで聞いていた話を自分なりに整理してみる。

(大公の話がそもそもの発端なんだよな。ラニサヴがきな臭い動きをしているから、この世界でもこの国でもこの屋敷の中でも

部外者の立場の俺が1番調査をするのにピッタリだって)

完全なる部外者だからこそ身軽なフットワークが取れるんじゃないか? と言うのが大公の見解らしい。

昨日はあのラニサヴが外に出て行くのを発見したアルジェント。

しかも夜も更けた時間帯だったので怪しいと感じた彼は、尾行のターゲットとなったラニサヴに気付かれない様に

尾行したのだが結局最後には路地の奥で見失ってしまった。


大公が言うには、密偵となっている複数の騎士団員から「ラニサヴが路地裏で消えてしまう」と言う事を聞いていたらしく、

それと関係あるかも知れないのが「転送陣」の存在だった。

とは言えども転送陣なんてまるで聞いた事も無いアルジェント。

人間をワープさせる事が出来るこの世界独自のテクノロジーらしく、アルジェントも大公もそれが大いに関係あるのでは

無いかと睨んでいる。

(もしあいつが転送陣のある場所まで尾行を誘導して、その奥で姿を消したとすれば……)

そのワープの先が分かれば、ラニサヴがその先で何かをしようとしている事が同時に分かる。

わざわざ夜遅くの人目につかない様な時間帯に騎士団長が城の外に出るだけでも怪しいのに、治安が悪い筈の

路地裏に自分から入って行ってその奥で姿を消す。

これを怪しいと思わない人間が居るとすれば余りにも感覚が鈍過ぎる人間か、心がピュア過ぎる人間位のものだろうか。


アルジェントは当然怪しいと思っている側の人物なので、ラニサヴが何処に向かったかを特定しなければいけないのだが……。

(……全く見当がつかねーぞ)

何処までそのワープの範囲が広いのかも分からないし、この公都を少し見て回った位ではラニサヴが行きそうな

場所の情報が少な過ぎるから今の段階では特定不可能だ。

(どうすりゃ良いんだ……どうすりゃ……)

ラニサヴをまた尾行してもあの路地裏で消えてしまったら意味が無いし、用心深い性格だから迂闊な行動も期待出来ない相手。

何の解決策も出ないまま時間だけが過ぎて行けば、ラニサヴが怪しい行動をしているのを止める事が出来ないまま

結果的に何か悪い事が起こる可能性だってある。

このままコソコソ行動していても事態が進みそうに無いなら、やっぱりこっちからアクションを起こすべきだとアルジェントは決心した。

(とりあえず俺はこの城の中しか移動出来ないから、何か怪しい場所が無いかどうか探してみよう)

城の敷地から外に出るのは禁じられているが、この城の中でなら何か見つかるかも知れない。

と言うか身近な部分で調べられるのはそれ位しか無い。

ラニサヴが行動しそうな場所と言えば彼の執務室位しか無いのだが、大公に許可を貰っているのでもう開き直るしか無いと

この時アルジェントは悟った。


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