A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第42話


次の日。

大公に報告をしに行こうと考えていたアルジェントだが、幾ら異世界からやって来て軟禁対象になっているとは

言えども余り大公に会いに行っていたらそれこそラニサヴから不審に思われても不思議では無い。

ラニサヴが不審な行動をしていると言う事を騎士団員達の何人かが知っているとなれば、逆に自分の行動を

監視している騎士団員達だって居るかも知れない、と言うのをアルジェントは考えてしまった。

普段であればここまで考えないアルジェントだが、大公から聞いていた「反対の可能性」の話が今ここで役に立った。

だからこそ、それこそ人目につかない場所でまた密談を……とも考えたアルジェントだったが……。

(待てよ……あの用心深いラニサヴの事だから、この前の夜に俺が大公と密談していたのがどっかから

ばれてる可能性もあるよな)


一介の騎士団員が部屋に来て話をするのとは訳が違う。

この国のトップが異世界人と2人きりで話をしていたと言うのは、もしかしなくてもこの城の人間に

ばれている可能性が高い。

あれだけ長い会話をしていたのだし、あの部屋には2人きりしか居なかったとは言え何処かで騎士団員が

見張ってたかも知れない。それはもう結果論でしか無いのだが、良く良く考えてみればあの話し合いはかなり

危険だったと今更ながらにアルジェントは思ってしまった。

(でもなぁ、今更どうも出来ねぇだろうし……これからの事を考えてかねーと)

妙な所で彼はポジティブではあるものの、実際にこれからどうするのかと言うプランは頭の中で固まっていない。

(んー……どうにかしてこの事を大公さんに伝えたいんだけど、あからさまに俺が会いに行くのはどう考えても不自然だしなぁ)

昨日の夜みたいにチャンスが偶然巡って来ないかなーと思いつつ城の中を探索したりしてみるものの、

結局大公の居る執務室方面には騎士団員達から「大公は今忙しいので」と近寄らせて貰えなかった。


やはり大公も公務等が色々あるので、異世界人と言えどもそれを考えなければこの世界ではただの居候の

身分でしか無いアルジェントが気軽に近付ける存在では無いのだ。

(しょうがねえな。今日は……もう1度町に出てみようかな)

もしかしたらラニサヴがワープした手掛かりを何か見つけることが出来るかもしれない、と考えたアルジェントは

そのラニサヴの部屋へと向かって外出許可を貰う事にした……のだが。

「俺も今日は忙しい。明日以降にしてくれ」

その回答でアルジェントは今日1日、城に完全な軟禁状態になってしまった。

(あー、身体動かしたいんだけどなー……)

シラットのトレーニングもここずっと自室で軽いウォームアップ程度にしかしていないので、そろそろダイナミックな動きをしたいと

思うアルジェントは何処か身体を動かせる場所は無いだろうかと自室の部屋の近くに居る騎士団員に聞いてみる。


するとその騎士団員は「裏庭を使えば良い」と言ってくれた。

城と言うよりも貴族の邸宅である為にかなり広い庭があるにはあるものの、騎士団員達が訓練をする場所は

この公都の別の場所に広い訓練場を造ってあるのだとか。

しかしアルジェントの場合はこの城に軟禁状態の為にそこを使わせる訳にはいかない。

だから、城の敷地から出ないと言う条件がある以上は裏庭でならそうしたトレーニングをしても良いとの通達だった。

ラニサヴにも後で伝えておくとその騎士団員に言われたアルジェントは、尾行失敗で沈んだ気持ちを少しでも回復させられれば

良いなと言う考えでその裏庭へと向かう。

考えてみれば裏庭はちょこっとこの城の中から見ただけで、実際にそこで何かをした事は無かった。

シラットでも屋外でトレーニングする事はあるにはあったが、自主トレーニングの時位しかそう言う事は無かった。

道場では室内トレーニングが当たり前だったので、屋外でシラットと言うのはある意味新鮮かも知れない。


しかし軍服姿のままでは明らかに動きづらいので、騎士団員に頼んで動きやすい服装のシャツとズボンを

用意して貰ってから裏庭へとやって来た。

その裏庭で、アルジェントは基本的なポーズを確認してからウォームアップに入る。

地面が草地で柔らかくなっている為、他の武術では考えられないフォームでジャンプしてから着地をしたりする様な

動きもあるシラット使いのアルジェントには非常にやりやすい環境である。

もっとも、屋外トレーニングの一環として道場で少しだけ土の地面の上等でトレーニングをさせられた事もあるので

そう言う固い地面で出来ない事も無いが、普段のトレーニングで必要以上に身体に負担を掛けるトレーニングで

その身体を壊してしまっては本末転倒も良い所である。

強くなる為には痛みが伴うトレーニングが当たり前だと武術の世界では決まっている。

それはアルジェントが習っているシラットに限らず空手やテコンドー、ボクシングやムエタイ、柔道や合気道等でも

同じ事だとアルジェントはシラットのマスターから教えられた。


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