A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第41話


……と思ったアルジェントだったが、そのチャンスは向こうからやって来てくれた様だった。

張り込みを決めたその日の夜、部屋を出て外に向かおうとしたアルジェントの視界にその張り込みの

ターゲットが映ったからである。

窓の外に、闇に紛れて明らかにコソコソとした動きで周りの様子を窺いながらラニサヴが

静まり返った町の中に消えて行くのが見えたからであった。

この客間が1階の端にあった事も幸いしたのか、アルジェントがまだ起きている事に気づかないままで

ラニサヴが歩いて行くのを城の入り口に設置されているランプが薄暗くではあるが知らせていてくれた。

(俺も行くか……)

意を決して、アルジェントは客間の窓から外に出て小走りでラニサヴの後を追いかける。

見失ったらそこでミッション失敗、何時またチャンスが巡って来るか分からないのでこのチャンスを

しっかりとモノにするべく気を引き締めた。


背中が見えるか見えないかの距離を保ちつつ、ラニサヴを見失わない様にアルジェントは尾行する。

(刑事の知り合いとかが俺に居れば尾行のテクニックとかも聞けたのかなー)

あいにくそう言った知り合いがアルジェントには居ないので、自分の持てるだけの知識だけが頼りである。

足音を限り無くゼロに近い状態まで消す位の足さばきは出来ない訳でも無いのだが、いかんせん人気が無くなって

静まり返った町をこのブーツで歩いていると、嫌でもコツコツとブーツの音が石畳の地面に響き渡る。

相手もブーツを履いているからそれでかき消されてると信じたいが、リズムの違う足音が後ろから少しでも

聞こえている状況なら幾ら俺でも気が付くよなー、とアルジェントは思ってしまう。

何だかこの尾行は上手く行かなさそうな気がしていたが、ここまで来てしまった以上はもう引き返せないのが辛い所なので

本当にラニサヴの姿が見えるか見えないかの位置をキープするしか無い。

幸い今の所はまだ気付かれていない様だ。


そして尾行を続けて行くと、メインストリートを抜けてラニサヴがスッと裏路地に入るのが分かった。

(近づくなって俺に言っておきながら……怪しいですって自分で言ってる様なもんじゃねえかよ)

それを見てアルジェントも裏路地に向かうが、いきなり飛び込む事はせずにまず路地の曲がり角の壁に張り付いてそこから様子を窺う。

(上に居るって事もあるからな……)

戦術は駄目だが、地球の前線で活動していた時に別の部隊が奇襲にあったと言う事を覚えていた彼は、

自然にそう言う奇襲や待ち伏せに対して用心する癖がついている。

経験は財産だとは良く言ったものだが、異世界までやって来てその経験が活かされるのは果たして喜んで良いのだろうかと

名ばかり少佐は複雑な気持ちになった。

路地の先、上も含めて気配を探ってみても問題無さそうなのでアルジェントは壁伝いにスススッと素早く張り付きながら移動する。

(こう言う路地裏は隠れる場所もなかなか無ければ、尾行が気付かれやすい場所なのは流石に俺でも分かるからな)

だからこそ用心に用心を重ねた慎重な行動がキモだ。


路地の奥に進んで行くと、やがて行き止まりまで来てしまった。

「……あれっ?」

あの時、大公から聴いていた話をその時アルジェントは思い出した。

『密偵の騎士団員達が言うには、騎士団長路地裏で忽然と姿を消してしまうらしい』

そのセリフを頭の中でリピートしたアルジェントは、何処かに何か出入り口が無いかどうかを探してみる事にする。

だが、ドアも無ければ地面に埋め込まれた地下階段みたいな物も無かった。

あの洞窟の時みたいに自分にしか見えないドアがあったりするのか? とも思ったがその可能性も今回は無いみたいである。

(何てこった……こりゃ本当に消えちまったみたいだねぇ!?)

あの騎士団員が言っていた、と言う大公の話は本当だったらしい。

何処かのマジックショーでもあるまいに、こんなに簡単に人間が姿を消してしまうなんて事は自分の常識では考えられないアルジェント。


だが、そこで彼は首を横に振った。

(いいや待て待て、この世界は俺の住んでいる地球じゃねえんだ。ありもしない常識がまかり通ってたって不思議じゃねえな。

そう、それこそ魔術とか……)

あくまで仮定の話にしか過ぎないが、もしあの騎士団長が魔術を使えるとするのなら。

アルジェントはこれ以上は無理だと諦めてとりあえず城へと戻る事にしたのだった。

結局尾行は途中で撒かれる結果になってしまったが、あの「忽然と消えた……」と言う話は本当だったと

分かっただけでも大きな収穫である。次は騎士団長が自分の尾行をどうやって巻いたのか、そして何処に消えたのかと言う事を

調べなければならないが、これは骨が折れそうなミッションである。

この世界の事や魔術の事をまだ全然知らないので、その勉強がまずは必要だからだ。

ひとまず寝て起きてから大公に報告をするべきだとアルジェントは決めてから、自分が抜け出した城の自室の窓から中に戻ったのだった。


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