A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第40話
決定的な証拠が無い以上、騎士団長が何をしているのかは大公からですら無理に問い詰める事は出来ない。
だから尾行して調査をして欲しいと言うのがアルジェントに対してのミッションだ。
「それこそ俺にふさわしい任務って訳ですか……」
「失敗は許されんが、私も出来る限りのバックアップはさせて貰う。頼むぞ」
立ち上がりつつポンポンとアルジェントの肩を叩き、長い話を終えて大公はゆったりとした足取りでアルジェントの部屋を出て行った。
1人残されたアルジェントは、無人となった部屋のソファにもたれ掛かって天を仰ぎつつぼやく。
「あー、めんどくせー事になっちまったぜ……」
これで地球へと帰るのが遅くなる事は分かった。
まさかの墓穴を掘った事で、ラニサヴとその周りに居るであろう集団を相手にして調査をしなければならない。
シラットで鍛えた戦闘能力の腕には覚えが無い訳では無いが、その覚えがある腕で乗り切れる相手かどうかすら
分からないのだから油断は出来ない。
とは言え、引き受けてしまった以上は任務を遂行しなければならないと言う……軍人としての義務感とかそう言うものが
身についてしまっている様なアルジェントは早速行動に移す為のプランを頭の中で練り始める。
(相手は騎士団長だからな。俺よりもずっと前線での経験が豊富な筈だ)
実際の所、あのノルディー地方でラニサヴとファーストコンタクトをした時のラニサヴの戦い方は今でもアルジェントの記憶に新しかった。
(動きも素早かったし、確実にあれは戦い慣れている動きだった。そんなあいつが手を組んでいるって言う連中がどれだけの
実力を持っているかは知らねぇけど、少なくともヤワな連中は集めてないだろうな)
それに騎士団長ともなれば魔力云々じゃ無くても周りの気配には敏感だろうから、尾行するのも一苦労だと思ってしまう。
(あいつは魔力とかそう言うの関係無さそうだし……くそっ、でも追いかけるしか無いってなると……)
戦略に関してはもう自分でも分かっている通り駄目な方なので、ここは自分が考えつく方法でやる事に決めた。
早速次の日からミッションスタート。
まずはラニサヴに着いて来て貰って図書館に本を返しに行く。尾行をする前に相手の普段の状態を知っておくのは大切な事だからだ。
そしてその後に色々とこの公都を案内して貰って、何処かでボロを出さないか確かめて見ようとアルジェントは考えた。
「おーすげー、あれは何だ?」
「あれは建国100周年記念の銅像だ」
「へーそうなんだ。あっ、あの店は何なんだ?」
「あそこはアクセサリーショップだ。何かめぼしい物があるかも知れないぞ?」
「アクセサリーか……俺はあんまり興味ねーな」
「そうなのか。ああそれと、裏通りは物乞いが居たり柄の良くない連中がたむろしているから近付かない様にな」
「オッケーオッケー」
一瞬だがそれっぽい事を言ったラニサヴ。
しかしそれだけでは注意喚起と言う事で、彼が怪しい行動をしている確固たる証拠にはならないと心の中でアルジェントは判断する。
もっとしっかりとした状況証拠や物的証拠が必要なのだ。
(でも、俺の前では絶対にそう言う事はしなさそうだ。何だか雰囲気からしても用心深い感じがすげーからな)
人前で自分からボロを出す様な事はしないだろう。
そうなると彼がボロを出すのは、「基本的にあの男には隙が無いと考えて欲しい」と大公が言っていた通りなかなか難しい様である。
(やっぱり騎士団長ってだけの事はあるか)
迂闊に口を滑らせるタイプじゃ無いのは分かったので、後は行動で示して貰うしか手は無さそうだ。
だけどどうすれば良いのだろうか。
城に戻ってからも、食事の時間までアルジェントはずっと本を読みながらその事を合間合間に考えていた。
(どーすりゃ良いんだよ……)
戦略の勉強なんて必要最低限以外全然して来なかったツケが、今こうして回って来てしまっている。
その答えは出ないままラニサヴの行動を一緒に公都を回ってみる事で数日が過ぎたのだが、やっぱり彼は用心深いのであろうか
一切怪しい行動をしようとしない。
このままでは無駄に時間だけが過ぎて行く。
事態も進まなければ埒も明かないと判断して、アルジェントは自分から行動を起こす事にした。
(仕事が終わった後とかにあいつは動くかも知れねえな)
自分と一緒に行動してる時、それから職務時間中にボロを出さないとなればそれ以外の時間帯……それこそ夜も更けた時間帯に
行動する可能性が高いんじゃないかと頭をフル回転させて考える。
と言うかそれ位しか彼の脳みそでは思いつかなかった。
問題は何時、何処からどうやってそのラニサヴが姿を消した場所に向かうのか。
それが分からない限りは尾行のしようが無いので、ならばとアルジェントは張り込みを行う事にしたのだった。
(俺は刑事じゃねーけど、夜遅くに外の何処かで見張ってりゃあいつが外に出て行く所を追いかけられんじゃねえのかな?)
町に出るならばこの屋敷から出なければいけないので、きっとそのチャンスが来る筈だと信じて張り込みスタートだ。
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