A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第35話
「えっと、それは俺個人があの騎士団長に対してどう言う感情を抱いているかとか……そう言う事ですか?」
また質問に質問で返してしまったアルジェントに対し、大公はこめかみを指で揉んだ。
「ああ……私の聞き方が悪かったな。ではこの方が分かりやすいか。そなたが一緒に旅をして来たと言うそのラニサヴに、
そなたが何か感じた事は無かったか?」
「感じた事……ですか?」
「何か変わった事とか、これは変じゃないか? と思った事とか何でも良い」
そう言われても、普段の勤務している彼の姿をアルジェントは全く見た事が無いのでどう答えて良いのか
やっぱり考え込んでしまう。
「変わった事って言われても、うーん……俺はあの人と出会って数日ですしまだ良く分かんねーんですけど……」
「何でも良い。断片的な事でも結構だ」
そこまで言われると如何にかしてこの大公の質問に答えたいと、何とかアルジェントはラニサヴの気になった言動を
思い出すべく脳みそをフル回転させる。
そしてそのフル回転が、彼に1つのエピソードを思い起こさせた。
「気になった事……あ、そういや1つありましたよ」
「どんな事だ?」
少なからずアルジェントにショックを与えた出来事を彼は話し始める。
「俺とあの騎士団長が見つけた魔石、ありましたよね?」
「ああ、やけに量が多かったあの袋の話だろう。何でもそなたが騎士団の面々には見えなかった扉を発見して、その奥で
大量の魔石を回収したとの話だったな」
「そうです。その時なんですけど……あの騎士団長がやけに魔石に対してこだわってた気がするんですよ。自分の命よりも
魔石の方が大事だって感じで、危うくあそこに居たガーディアンみたいな奴に騎士団長が押し潰されそうになったんです」
「ほぉ、それは興味深いな」
思わず身を乗り出して続きを促す大公に、アルジェントは最初は全ての事を話していなかった。
あの魔石の隠し扉……かどうかは分からないが、それを開けたのはアルジェントであるとラニサヴから説明があったのだが
そのドアの内部で起きた出来事については「魔石を回収した」との話以外は話していなかったのだ。
「その時のラニサヴの様子はどうだった? 必死だったとか、目が血走っていたとか」
「そこまで俺細かく見てないから良く分からないんですけど、とにかく必死だったのは分かりました」
「そう、か……」
そのアルジェントの回答に考え込む大公だが、アルジェントの方は大公がこの部屋に来る前からずっと
考え込んでいた事があるのでそれを質問する。
「でも、何で俺にいきなりそんな事を聞いたんです? 大公さんの方が騎士団長の性格とか生活とかについては
良く知ってると思うんですけど」
いきなりこの世界にやって来た異世界人と言う怪しい者以外の何者でも無い自分に対して、そう言う事を聞いて来る大公の事を
正直に言って変な人だなーとアルジェントは思わずにはいられなかった。
そんなイメージをひそかに異世界人のアルジェントに持たれてしまったエレデラム公国の大公は、何故に騎士団長の事を
その異世界人に聞いたのかを説明し始める。
そしてそれは、アルジェントにとってこれから幕を開ける血みどろの旅路の始まりの合図でもあったのだ。
「最近、騎士団長が妙な動きをしているとの話があってな」
「え? ……それってどんな?」
元々シリアスだった話が更にシリアスになるのを感じて、自然とアルジェントの身体は大公の方に乗り出す形になる。
大公もまたアルジェントの方に顔を寄せ、自分がこの頃良く感じている事を彼に伝える。
「それが……先程魔石の話をそなたがしただろう。その事と関係がある様でな。確かに私が魔石を集めて来てくれと言ったのは
間違い無いのだが、そこまで魔石に執着しなくても出来れば集めて来て欲しいと言った位の話なんだ」
「えー? でもそれって無事に君主からの使命を果たしたって事ですよね? なら忠実な臣下じゃないですか?」
自分に与えられたミッションを忠実にこなすと言う点ではかなり使える人材だと思うんだがなー、と自分も軍人として、
そして将校の立場として素直にそう思うアルジェントだがどうやら話にはまだ続きがある様だ。
「それは私もそう思うのだが、その命を省みない位に魔石に執着していたと言う状態が私には気になる。
前々から気になっていた事なんだが、どうもあの騎士団長は強烈なコンプレックスを抱えているみたいでな」
「コンプレックスですか……?」
そのコンプレックスと魔石の話がどう繋がるのか、今の段階ではアルジェントには不明な話である。
「ってか、その魔石を集める為にあの騎士団長は俺と出会った町の方までやって来たんでしょ? 後は視察がどうのこうのって
言ってたし。で、その視察はあのラニサヴが自分で大公さんに頼んだって聞きましたけど」
だが、そう問い掛けられた方の大公は怪訝そうな顔をした。
「……え? 私は魔石を集めて来いとは言ったが視察をしろとまでは言った覚えは無いぞ?」
「はい?」
何だか話がややこしい方向に向いて来たので、これは一旦話を整理する必要がありそうだとこの時2人は同時に悟った。
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