A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第31話


いざ情報収集へ……と思いきや、このバルナルドでは騎士団長なだけあって騎士団員達を集めるのは

赤子の手を捻る様に簡単なラニサヴのおかげで、情報収集をする暇も無くアルジェントは公都バルナルドの

大公が住んでいる場所であるオーレミー城へ連行される事になった。

エレデラム公国ではアルジェントの様な人間が出現したのは初めてだと言う事で、しっかりと身体検査を

させて貰わなければ出歩かせる事は出来ないらしい。

そもそも出歩かせて貰えるかどうかも不明な現状である。

(そう言えば俺の身体を調べるとか言ってたっけ……)

まだ車酔いならぬワイバーン酔いが残ったままのこの状況では満足に身体検査に応じられる訳も無さそうなので、

身体をもう少し休ませてから検査を受けると言う約束をラニサヴにさせてからアルジェントはオーレミー城へ向かう事を自分も約束した。


「あー、まだ少し酔いが残ってるかも」

「それならばここで後15分休め。15分経ったら係の奴を呼びに来させるから大人しくしているんだ」

想像以上に長引く酔いだったらしく、城に運ばれたアルジェントはまだ酔いが醒め切っていなかった。

それでもその酔っ払い名ばかり少佐は、このオーレミー城の大きさに驚きを隠せなかった。

(何か、この大きさって俺のイメージしてた城とは違うんだなー……)

アルジェントが今連れて来られたそのオーレミー城と言うのは、フランスのモンサンミッシェルやアイルランドのキルケニー城、

チェコのプラハ城、イングランドのウィンザー城の様に大きな敷地や庭園を持っている建造物では無かった。

むしろその逆で、城と言うよりもちょっと大きめの屋敷と言う方がしっくりくるその佇まいが逆にアルジェントを

びっくりさせる原因になっていたのである。

今のドイツにあるカルベン市のクロッペンハイム城やレオンハルディ城と言った、騎士団や貴族の城館と言う

イメージそのままのこじんまりとした建物だったのだ。


(本当にこんな所に国のトップが居るのかよ?)

公都と言うだけあって町自体はかなり大きいのだが、その町の一角に本当にごく自然に溶け込んでしまっている位の城で

あるからこそこうした疑問がアルジェントに湧いて来る原因を作っていた。

それでも騎士団長であるラニサヴがわざわざ兵士を多人数集めてまで自分をここまで連れて来ただけあるし、ここは研究施設として

使われている建物で本当の城はもっと別にあるんじゃないか? と色々疑問が湧き上がって来るアルジェントの耳に

コンコンとノックの音が聞こえて来た。検査に行く為に彼を係が呼びに来たのだ。

(それじゃ行くか)

城の事を考えていたら酔いも大分収まったので、アルジェントは気を取り直して自分の身体検査に向かう事にした。

結論から言えば、アルジェントの身体検査は驚く程スムーズに終わってしまった。

いや、厳密に言えばこれからまだ検査はあるのだがその検査の準備に時間が掛かると言われたのでしばらくはゆっくり出来そうであった。

……騎士団長の監視付きではあるが。

「外出許可が出るまでここで大人しくしてろってか……」


どうやら本当にここは大公が住んでいる城だったらしく、その一角にある小さな客間に通されたアルジェントは食事を

用意されて軟禁状態になっていた。

見張り役として抜擢されたラニサヴが色々と大公を始めとした国の中枢の人間に報告をしに行っている間に、アルジェントは食事をしておけと

言われたので大人しく食事にありつかせて貰う事にした。

「食えんのかな、これ」

そう呟きながらフォークで何かの肉を口に入れてみたが、別に毒は入っていないらしいし味付けも悪くないのでもそもそと食事を勧めるアルジェント。

検査は身体検査、血液検査、それからレントゲンの様な機械で内部の状況を調べると言う事だったのだが3つ目の検査でつまずいた。

その機械は魔力を使った魔術で動いているのだが、何とアルジェントの身体の内部を撮影出来ないと言う結末になってしまったのである。

こんな事が起こったのは機械の故障以外では考えられないので、現在機械を分解して原因を調査中であるとの事らしい。

(俺は機械の事は良く分からねーから任せよーっと)

今どきのSNSやタブレット等の使い方は分かるものの、プログラミングや機械の構造がどうのこうのと言われるとお手上げ状態である。

後方支援部隊で得た知識で分かる範囲であれば話はまた違って来るのだが。

なので騎士団でしか分からない事は騎士団に任せる事にして、目の前の料理を平らげたアルジェントはソファーで少し眠る事にした。

(目が覚めたら元の世界だったりしてな)

そうであれば良いけれど、今までの衝撃的な体験の数々を目で見て、耳で聞いて、そして肌で感じて、最終的に酔っ払いに

なってしまった経験からしてその可能性は低いんじゃないかと漠然とアルジェントは感じつつ夢の世界へと旅立つ。

この夢の世界から現実の世界に戻って来たら、自分は一体それからどうなるのだろうか?

そう考えつつ検査もあって疲れたアルジェントの意識は、そのまますぐに闇へと沈んで行った。


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