A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第32話


目が覚めると、そこはヴィサドール帝国軍で自分に割り与えられている見慣れた軍の宿舎の天井……では無く、

自分の顔を覗き込んでいる赤毛の男の顔だった。

「うおっ!?」

「おい起きろ、貴様の処遇が決まったから呼びに来た。さっさと起きて俺と一緒に来て貰う」

どの位寝てしまっていたのかは分からないアルジェントだったが、少なくとも疲れは幾ばくか取れた様なのでムクリと身体を起こした。

「大公がお待ちだ。行くぞ」

やっぱりここに大公が住んでいるらしい。

だけどセキュリティ的な面で物凄く不安を感じているアルジェントは、自分の前を歩いて案内するラニサヴに

その事を聞かなければ安心出来なかった。

「ここってこの国の城だけど、それにしちゃあ幾ら何でも狭すぎると思うんだよ俺は。見た感じで言えば本当に金持ちの

屋敷みたいな感じだから、こんな場所じゃあ命とか狙われてもおかしくねえと思うけどなぁ」


ファンタジーな世界観にはまるで疎いアルジェントでも、自分の中にある漠然としたイメージで言えばそれなりの大きな城に住んで、

それから色々と厳重な警備がされてなかなか国民の前に姿を見せない存在が一国の主なんじゃ無いのかと思わざるを得ない。

実際アルジェントだって、自分の生まれ育ったヴィサドール帝国の皇帝ですら何かの式典か何かで遠目にしか見た事が無い存在なのだから。

そのアルジェントの疑問に、ラニサヴは納得した様な返事をしてから当たり前と言った口調で答えた。

「ああ、それは良く聞かれる。俺も最初は不思議だったんだが、この国の大公はその名の通り貴族出身でな。だが少し変わったお方でもある。

余り贅沢を好まれない性分で、周囲の反対を押し切って今のこの邸宅をそのまま城と言う事にしてしまったそうだ。その変わりに色々な所に

魔術の防壁が張られていて、身分を証明する物が無ければ絶対に入る事も出来ない。それに俺を始めとした公国騎士団が常駐しているし、

何重にも渡る持ち物検査に身体検査を別室で受けてからやっとこの邸宅に入る事が出来る。

貴様の場合は特別だが、持ち物は色々と預からせて貰った。それの説明も今からして貰うからな」

「え? ……あ」

そう言われてみれば、何時の間にか軍服のポケットに入れていた筈のスマートフォンが無い事にアルジェントは気が付いた。

「もしかして、俺のポケットに入ってた四角い奴も抜いた?」

「勿論だ。それも含めて説明して貰おう。さぁ、ここだ」

足を止めた2人の前にはせめてもの威厳を示す為であろうか、他の部屋のドアより何倍も豪華にドレスアップされている両開きの

赤いドアが鎮座していたのだった。


「はぁ〜〜〜〜〜、緊張したぜ……」

大公は傲慢な性格のラニサヴとはまるで違う、かなり穏やかな人物であった。

軍服のポケットから抜き取られていたのはそれこそスマートフォンしか持っていなかったので、持ち物云々の話じゃ無いじゃねーかと

色々と説明する事をイメージしていたアルジェントは肩透かしを食らった形になった。

しかし機械の事にはアルジェントは余り強く無いので、スマートフォンの説明もしどろもどろになりつつ自分の分かる範囲での説明をしてみた結果、

何とか怪しい物では無いと言う事が分かって貰えた様で一安心である。

何度か軍の上層部……准将や中将クラスの人間に出会った事はアルジェントも無い訳では無いのだが、

その時は何かを話し込んだりはせずにただ自分の目の前を通っていったので敬礼をしてその姿を見送っただけの、単なる廊下での

すれ違いで終わったレベルのエピソードしか無かった。

だから世界は違えど一国のトップにこうして謁見をして更に色々と説明をすると言うのは、ポジティブ思考で物怖じしない性格の

アルジェントでも流石に緊張の色と疲れが顔に出る体験だったのだ。


ともかくそんな緊張感が満載の空間からようやく解放され、安堵の息を吐き出す帝国軍の名ばかり少佐。

後は一体どうやってこの世界から自分の世界である地球に帰る情報を得るかと言うのが次の目的であったが、その事をアルジェントが

ラニサヴに質問してみると有益な情報がもたらされた。

「その事についてだが、大公直々にこのバルナルドの都にある国立図書館の閲覧許可が出た。本来であれば貴様の様な者が

入れる場所では無いのだが、その図書館にある禁書庫の閲覧許可も下さったのだ。感謝しろよ」

「禁書庫……」

名前からして、一般の人間が閲覧する事は禁じられていそうな本が沢山ありそうな場所だと言うイメージをアルジェントは持った。

だがその禁書庫に行く事に対してラニサヴから1つの条件が出される。

「そこに行く時は俺も一緒について行く。これは大公から出された俺への命令でもあるからな」

「ああ、そうか。……なら今から行って良いか?」

「別に構わん」

考えてみればそれもそうかと思い、早速アルジェントは大公と謁見した部屋を出たその足でラニサヴと一緒に国立図書館の

禁書庫の本を見せて貰う為に歩き始めた。


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