A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第30話


遅めの食事を終えた2人は店を出て、そのまま町にあるワイバーンの集まる場所へと向かった。

当然アルジェントにとってはワイバーンを見るのは初めてである。

灰色の身体をしており、器用に木のバケツに顔を突っ込んで餌をもさもさと食べているその姿は

何処か愛くるしいとさえ思ってしまうアルジェント。

そう思っているアルジェントの隣では、ワイバーンの貸し出し係にラニサヴが色々と聞いたり頼んだりしている。

軍ではヘリコプター位しか乗った事が無いし、空軍では無いので戦闘機の事は良く知らない。

旅行でジャンボジェットに乗る事はあっても、それはしっかりと快適な空間を実現する為の鉄の塊なので

風や雨等に苦しめられるのはパイロットが1番先である。

搭乗している客はダイレクトに風や雨を受ける事も無く、空港から空港に向かって行けるので

大きなトラブルが無ければ快適な空の旅を約束してくれる。


でも、目の前で未だに餌をもさもさ食べているこの生き物にこれから乗って行くとなれば話は大きく変わって来る。

明らかに誰が見ても分かる通り、空に舞い上がれば風の抵抗を受けてしまうし雨が降って来れば視界も

悪くなる上にびしょ濡れになるのは目に見えているからだ。

(まぁ……空を飛んで色々とショートカット出来るのならそれでも十分だよな)

乗せて貰う身分であーだこーだと文句をつけるのは間違っている事位は流石にアルジェントでも分かる。

だから風や雨は我慢しようと思っていると、話し合いが終わったらしいラニサヴが話しかけて来た。

「それじゃ行くぞ」

「話は終わったのか?」

「ああ。貸し出しは問題無いそうだ。それじゃ馬の時と同じく俺が支えるから前の方に乗れ」

快適な空の旅とは行かない予感がヒシヒシと伝わって来るものの、それでも空を飛んで移動出来る手段が

この世界にあるだけでもかなり精神的な余裕の大きさに差が出て来ると言える。

だから少し位の困難なら我慢しようと心に決め、アルジェントはこの世界特有の生き物と一緒に大空に向かって飛び出した。


「……」

「起きられるか?」

「……ちょっとまだ無理だわ……」

困難どころか、こんなんじゃ快適な空の旅だなんて口が裂けても言えないレベルであった。

ラニサヴのワイバーンさばきは、素人のアルジェントから見てもかなり荒いものだったのだ。

右に左に大きくワイバーンをスイングさせ、更にいきなり急降下したかと思えば一気に高度を上げて行く。

ラニサヴが背後に居た為にその表情を見る事は出来なかったものの、高所恐怖症でも無いアルジェントが

恐怖を感じてしまう位の乱暴なコントロールを身体全体で体験させてくれた。

それがワイバーン初体験であるアルジェントに対してのパフォーマンスなのか、はたまた元々のこのラニサヴのコントロールの

仕方なのかは分からないが、そのコントロールでグワングワンと視界が目まぐるしく反転していたアルジェントの考えはこうだった。

(こ、こいつはハンドル握ると性格変わるタイプなんじゃねえのか!?)

実際にハンドルを握らせていないからそれが正解かどうかは分からないが、少なくとも当事者であるアルジェントが

そう思ってしまう程の乱暴さである事は間違い無かった。


もう2度と体験したく無い程の強烈な空の旅を終え、アルジェントは文字通り疲労困憊で身体全体に襲い掛かって来ている

気だるさと気持ち悪さに必死に耐えていたのであった。

ワイバーンの停留所の側にある噴水広場のベンチに座って、激しい乗り物酔いから何とか逃れようとアルジェントは深呼吸。

ついでに身体が水分も必要としていたので、手袋を外したその手で噴水広場の噴水から吹き出て溜まった水で

顔を洗ったり水を飲んだりする。

感染症がどーのこーのとかは今のアルジェントにはとても考えられる余裕は無かった。

幾らシラットで身体を鍛えていたからと言っても、乗り物酔いに身体が耐え切れないのは個人差があるので

それとこれとはまた別問題だからだ。

そもそも体質的にも特に今まで生きて来た中で乗り物酔いをした事は無かった筈なのだが、今回の乗り物酔いは

明らかにラニサヴのワイバーンのコントロールのせいである。


それでも、アルジェントは噴水の水を飲んで少し落ち着いた所で自分が今居るこの町の状況をキョロキョロと目で見て確認する。

(そっか、ついに俺はこの国の都まで来たんだな)

コントロールは最悪だが、何だかんだでワイバーンでラニサヴがあの町からひとっ飛びしてくれたおかげでかなり早くアルジェントは

このエレデラム公国の都であるバルナルドに辿り着く事が出来たのだった。

色々あったけど、それでもまだこの世界に来て全然日が経っていない今の状況。

そんな中でもう都に来る事が出来たのはアルジェントにとって大きな進歩になる事は間違い無さそうだった。

ここでやらなければいけない事はもちろん地球に帰る為の情報収集。

その情報がこの都で一体どれ位集まるのか……いや、集められるのか。アルジェントは自分のこれから先の身の振り方を

酔いを醒ましながら考え始めた。


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