A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第29話


「洞窟の中の話なんだがな」

「うん?」

「俺を引っ張るだけじゃ無く俺を持ち上げてそのまま出口まで走破出来るとは、それなりに身体が出来ていなければ

その体格では無理だと思う。それから身体の使い方を分かっていなければ、無理に持ち上げた所で

俺を落としたりして一緒に巻き添えを食らってしまうと思うが……確か貴様は軍人だったな。何か武術を

やる必要がある部門に配属されているのか?」

そう聞かれたアルジェントは、別に隠す事でも無いかと軽い気持ちで答えた。

「いいや、俺は後方支援の部隊で前線の活動の支援をしている。だけど軍人である以上何時何があっても

おかしくないし、後方支援部隊が襲撃されるかも知れないからトレーニングはしているんだ」

「成る程な、それは良い心がけだと思うぞ」

(あれっ、やっぱり何か態度が軟化してる様な……)

あれだけ自分に対してつっけんどんな姿勢をしていたのに、今は少し……まだそのつっけんどんな姿勢は

残っているものの、やっぱり自分に対しての態度が変化しているのでは無いのかとアルジェントは思ってしまう。

もしくは知り合ってまだ日が浅いとは言え、あの守護者が居た洞窟からの脱出の流れで警戒心が薄れたのかも知れない。

人間の心の中を読む事はエスパーでは無いのでアルジェントには無理な話だが、自分の直感に答えを求めてみると

何だかそんな気がしていた。


今度は逆にラニサヴに対してアルジェントが質問をする。

「そういやあんたの戦い方について興味があるんだけどな」

「俺のか?」

「ああ。今はその椅子に立て掛けてある2つの剣で戦ってるけど、それ以外に何か使える武器ってあるのか?」

そう聞かれて、チラリとサーベルに視線を1度投げ掛けてからアルジェントの方に向き直るラニサヴ。

「特に使う武器は限定していない。騎士団では自分の得意な武器以外にも色々と特訓している。

弓も使えるし槍も使えるし、それから斧も使うし魔術だって簡単なものを使える様にならなければ

見習いにすらなれない。自分の得意な武器ばかりを使っていたのでは、いざ戦場に出た時に得意な武器が

身の回りに無い時に生き残れる可能性が格段に低くなるからな」

「確かにそりゃそうだな。じゃあ武器が無い時はどうするんだ? 体術のトレーニングもするのか?」

シラットのトレーニングで徒手格闘を得意としているアルジェントにとっては、そこが実は最も気になるポイントでもある。


それに対してのラニサヴの回答は何とも微妙なものであった。

「確かに騎士団でも体術の訓練はやるけど、あくまで補助的なものにしか過ぎない。

町中での揉め事を止める時とか戦場で相手から武器を奪う時位にしか使わないし、魔物相手に素手で戦うなんて

自殺行為も良い所だからな」

「そう、か……」

それでも体術のトレーニングがこの世界にあると分かっただけでも、アルジェントにとっては少しだけ親近感から安心感が生まれて来た。

シラットの世界でも武器術は存在している。

それこそカランビットナイフを始めとして、波状の刃を持つダガーナイフの「クリス」だったり「パラン」と呼ばれている

英語の「マチェット」(マチェーテ)も使う事があるし、シラットの世界における槍の「トンバク」 、両手に小ぶりの片手斧を

2つ持って戦う戦闘術だってあるのだから。

そもそもシラットが盛んなインドネシアでは、その地域によって500以上の流派があるとまで言われている。

アルジェントだって勿論全てを知っている訳では無いものの、ヨーロッパにも流派の違うシラットが色々と入って来ているので

幾つかの流派に見学しに行った事もある。

マレーシアやブルネイでも盛んに行われているし、アルジェントが習っているプンチャック・シラットは1000年以上とも

言われる程の歴史を持っている。


だが、今のラニサヴの話を聞いているとポジティブ思考が売りのアルジェントでも流石に不安な感情を抑える事は出来そうに無かった。

(この世界で俺のシラットが通用するのか?)

地球とは違う世界。地球の常識が通用しない世界。

公国騎士団長として前線で戦って来たラニサヴの言っている事、そして自分があの洞窟の中でラニサヴを助け出した時に

その目と耳と身体全体で経験したあの守護者とのバトルの経験から、相手は確かに人間だけじゃ無い事をその身を持って

アルジェントは理解する事になった。

「この世界で生き抜いて行くって言うのはやっぱ大変なんだな。あの洞窟の中に居たあいつみたいに、何時何処で

何がどうやって俺達に襲い掛かって来るか分からねーんだし」

そんな思いが思わず口に出てしまったアルジェントだったが、それならば……とラニサヴにこんな事を願い出てみた。

「なぁ、公都についたら頼みがあるんだけど」

「頼み?」

「ああ。この世界の生物……特に魔物について俺はもっと知っておく必要があると思う。やっぱり知ってるのと

知らないとじゃあ大きな違いだと思うからな」

そのアルジェントの申し出にラニサヴは軽く頷いた。

「別に構わん。それでは食事を済ませて公都に向かうとしよう」


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