A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第28話


「ワイバーン……」

ファンタジーの事情に疎いアルジェントは、いきなりワイバーンと言われてもそのシルエットをすぐにイメージする事は出来なかった。

「ワイバーンってえーっと、今の話からするとどんなのだっけ? 空飛ぶ生き物の話か?」

それを聞いてラニサヴから疑問の声が上がる。

「何だ、そっちの世界にはワイバーンは居ないのか?」

「そんなの見た事も無いな。ワイバーンはこっちの世界じゃ作りもんの中の生き物でしかねーからよ。だから実際に

俺は……いや、こっちの世界の人間でワイバーンを実際に見た事がある様な人間は居ない筈だぜ」

だからワイバーンに乗るのも当然初めてだとアルジェントが答えれば、ラニサヴは素直にその返事を汲み取った。

「分かった。それならばこちらも安全な飛行を約束しよう」

(あれ? 何か態度が昨日より軽い気がする。俺があの時無茶苦茶言ったからかな)

そうだったらそうだったで言った甲斐があったのかなーと思うアルジェントは、またしばらく馬に揺られて次の町に

向かって進む事にした。


(今頃、軍の奴等はどうしてんのかなー)

すでに夜を2回明かしているだけあって、アルジェントは流石にもう自分が居ない事に気が付いているだろうと考える。

名ばかりの少佐とは言え、元々の階級も士官学校をきちんと卒業した将校なのでそれなりに必要とされるポジションではある。

しかも今回の合同訓練に選ばれた人間と言うのは「必要だから」呼ばれたのであり、必要では無い人間をわざわざ

合同訓練に連れて行くのはそれこそ国民の税金の無駄遣いなので、軍の関係者だけではなく国民からも反発を食らってしまう。

だけどこのままもし自分がこの世界に居続ける事になってしまうならば、地球では捜索隊が結成されたりしてまた税金が

投入される形になるのは目に見える。

その上今回は4か国合同の訓練と言うだけあって、ヴィサドール帝国軍から突然行方不明者が出たのであれば、

それはヴィサドール帝国軍の人員の管理体制に問題があると追及されかねないともアルジェントは思っていた。

軍には長い事アルジェントも在籍しているので、頭を使う事は苦手でもそれ位の事は分かる。

(やー、参ったな。国際問題って所までは大げさだろうけど、突然誰かが消えました……なんて突発的な出来事を

他の軍が知ったらヴィサドールの合同演習は来年から参加禁止ってなっても変じゃねーよなぁ)


合同訓練は他国との協力関係を築き上げた上で、参加国の間で共同で作戦を遂行する為に必要な能力の向上が目的である。

それがまさか突然参加していた兵士……しかも一般兵では無くて将校の人間が持ち場を放棄して行方が分からなくなったなら

協力どころの騒ぎでは無い。

(俺の行方を捜して一致団結して協力し合う……ジョークにしても笑えねーよそんなもん)

なので公都に行ったら少しでも地球に帰る為のヒントを集めたい所だが、問題はアルジェントが何時この公国から

解放されるのだろうかと言う事だ。

(俺の事をやっぱり調べるだろうから、その拘束時間でどれ位かかるかだよなー。俺としても早く地球に帰りたいけど、

この公国としては俺の身体を色々と調べたいって前にラニサヴから言われた気がするし、となれば結構長くなる可能性があるな)

今はとにかく早めにその次の町に辿り着いてくれと願いながら、またしばらく馬に揺られる時間が続くのであった。

朝に出発した馬は、その日の昼過ぎに小さな町に辿り着いた。

ラニサヴ曰く、町と言っても村に毛が生えたレベルの本当に小さな町らしい。

だがその分自然も多いので、こう言う場所でワイバーンを飼育する方がのびのびと育てられて良いのだと言う。


そんな小さな町に辿り着いた異世界の軍人とこの国の騎士団長は、まず借りていた馬をその町で返却しておく。

基本的に何処で借りても何処で返しても良いのだが、乗り捨てるのはNGだとアルジェントはこの時ラニサヴから説明されて知った。

次に向かうのは昼過ぎの時間なので少し遅めの昼食だ。

「何が食べたい?」

「え……あー、やっぱり肉かな」

この町には小さな詰め所しか無い上に食堂も存在していないので、詰め所に配属されている兵士は町にある酒場や

飲食店で食べたり出店でパン等を買ったりしていると言う。

それに従ってアルジェントとラニサヴも町の寂れた飲食店に入った。

そこで向かい合って丸くて小汚いテーブルに座る2人。

こうして2人が向かい合って座るのは取り調べ時以来の話だろうか。

せっかくなので、これをきっかけに少しでもお互いの事を知る事が出来れば良いなと思ったアルジェントは、ラニサヴに当たり障りの

無い程度に質問をしてみる……と思っていたのだが、意外にも話を切り出して来たのはラニサヴからだった。

「少し貴様の事について聞きたい事があるんだがな」

「えっ、あー別に良いけど……何が聞きたいんだ? 答えられる範囲だったら答えるけどさ」

どうもアルジェントに対して気になる事があるらしい。


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