A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第24話
「何処にそんな入り口があるのです? 私には何も見えませんが」
「へっ?」
まさかの回答にアルジェントは自分の目がおかしいのか、それともこの騎士団員の目がおかしいのか心の中で葛藤する。
「いやほらあそこだよあそこ、あるだろーが」
「……いえ、見当たりませんね」
「いやいやおかしいって。ほらあそこにあるだろ。こう……金属の、錆びててボロくて、でもすげー重そうな大きなドアが
岩壁に埋まってんだろ?」
「私には本当に岩壁しか見えないのですが……」
本心から困った様な顔つきを見せる騎士団員。
その表情を見て、アルジェントは自分の目がおかしいのか? とだんだん疑いたくなって来た。
それなら実際に一緒に確かめて貰った方がこの食い違いを解決する事が出来るだろう、とアルジェントは思い立って
騎士団員を誘う。
「じゃあ一緒に来てくれよ。一緒に見て貰ったら絶対分かるって」
「分かりました」
こうなったら意地でもどっちが正しいのかを証明してやらなければアルジェントは気が済まなかった。
自分にはハッキリと見えているそのドアが騎士団員には見えないなんて、そんな馬鹿な話があってたまるものか。
その思いから足取りも若干荒くなりつつ、いよいよアルジェントは騎士団員を伴ってそのドアの前にやって来た。
「ほら、ここにこうしてこれだけの大きさのがあるだろうが。ここがこれだけ錆び付いてるし、こっちはここが欠けてるしな。
こうして俺にはハッキリと見えてるんだぜ!?」
もはや訴えかける様に必死な表情のアルジェントだったが、騎士団員は次の瞬間溜め息を吐いた。
「はぁ……もう気は済みましたか?」
「何でだよ……やっぱ、見えねーのかよ?」
「見えませんね。私にはただの岩壁にしか見えません。もしそれでも気になる様でしたら団長達が
戻って来られてからにしませんか?」
「……ああ、だったらその方が良さそうだな。俺にだけ見える様なドアなんておかしいもんなぁ?」
もはやヤケクソ状態でアルジェントも退くに退けない状況である。
どうにかしてこのドアの存在を認めて欲しい気持ちのまま、それから更に1時間が経過した頃……。
「あっ、帰って来たぜ!!」
アルジェントが指差した先には、洞窟の中からガヤガヤと声をさせながら歩いて戻って来たラニサヴと
その部下の騎士団員達であった。
「待たせたな」
「全くだぜ。そんなに時間がかかったのかよ?」
「ああ、思ったよりも広かったからな。だが目当ての物はしっかりと見つけて来た」
そう言ってラニサヴがゴソゴソと麻袋の中から取り出した物は、何かの欠片の様な黒光りする石だった。
「これが魔石って奴か?」
「ああそうだ。しかし洞窟の広さに反して採れた魔石はこれだけだ。ここにはもう用は無いから、
野営で今日はここで一夜を過ごして朝になったら出発するぞ」
「ええっ、これでも少ない方なのかよ!?」
ラニサヴが手に持っている麻袋には、今しがた指でつまんで取り出した魔石の欠片と同じ物がギッシリと詰まっていたからだ。
「情報も少なかったし洞窟はもう全て調べ尽くしている。仕方が無いからここの採集活動はこれで終了だ」
だけどアルジェントはそのラニサヴの判断に疑問を投げかける。
「ちょちょちょ、ちょっと待て。だったらあそこは調べたのか?」
「あそこ?」
「ほらあそこの扉だよ。いかにも古臭くて錆びててちょっと欠けててヒビも亀裂も入っててってのがよ」
「……貴様は何を言っているのだ?」
「え、あれっ……やっぱあんたにも見えねーのかよ?」
そのアルジェントとラニサヴの会話を聞いていたさっきの騎士団員が会話に入って来た。
「団長、この方は私にも先程から同じ事を何度も主張しているのですが……あそこに何かの扉があると」
「扉……いいや、何も無いだろう。公都に着いたら宮廷医に診察して貰うか?」
このセリフからも分かる様に、どうやら自分以外のここにいるメンバーには本当にあのドアが見えていないのだろうと
アルジェントは察した。
「あー……もー!! だったら行動で示してやるよ!!」
何かが心の中で切れてしまったアルジェントは、そのままスタスタとドアの前まで歩いて行ってそのドアの取っ手に手をかける。
そのままグイっと押してみるがビクともしない。
だったら逆の事をすれば良いじゃんと引っ張ってみるが、やっぱりドアはビクともしない。
「くっそー、駄目かよ!」
じゃあもうこれしか無いかと、取っ手に手をかけて思いっ切り横に引いてみる。
するとギィィ……と大きな錆び付いた音を立ててドアが開き始めた。
それと同時にアルジェント以外のメンバーのリアクションも大きく変化する。
「なっ……こ、これは!?」
「扉だと!?」
アルジェントも騎士団のメンバーも良く分からないが、どうやらドアの存在がこれでハッキリした様である。
「はぁ……はぁ……結構重いなこのドア。でもこれで俺の言った事が正しかった事が証明されたろ。
明らかにこれ人工物だし、きっとこの奥には何かあると思うぜ」
薄暗くて風も吹き抜けているドアの奥を見つめ、アルジェントは誇らしげな顔でそう言った。
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