A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第25話
「何故こんなドアが……いや、それよりもこのドアが俺達の目には見えなかった理由が分からんぞ……」
ブツブツと呟くラニサヴは、どうやら腑に落ちない点がある様で納得出来ない表情をしている。
その時、アルジェントを見張っていた騎士団員とは別の騎士団員がこんな事を言い出した。
「ラニサヴ団長、この扉の内側には強力な結界が張られています」
「結界?」
「はい。魔術による封印と扉自体が不可視になる文様が編み込まれている結界ですので、
恐らくその相乗効果によって俺達には扉が見えなかったのでは無いかと思われます」
「……と言う事は、貴様は結界の影響を受けないと言う事なのか?」
「は? いやだからファンタジーのジャンルがさっぱり分からない俺にそう言う質問をされても、
俺はそっち方面の知識が無いから答え様がねーんだよ」
本心から出たそのセリフだったが、さしてラニサヴは気にした様子も無い様である。
「ふん、まぁ良い。貴様はいずれじっくりと調べる必要がありそうだな。だがその前にこの扉の先に
一体何があるのかを調べる。何があるか分からんから全員用心して進むんだ!」
部下の騎士団員達に声を掛けて、勿論アルジェントにも一緒に来て貰うと言う事で本来の約束を
破る形になったのだが、アルジェントもこの扉の先には何があるのかが気になる所だった。
(本当に何が起こるか分からねーんだよな。俺にもしもの事があったらこの騎士団長は責任を
取らなきゃいけなくなるから警戒するのは当然か。だったら俺も警戒して進もう)
かつて前線に出ていた時、見知らぬ場所での戦闘で何処に敵が潜んでいるか分からない状況が良くあったし、
それ以外でも敵地に近い場所で野営をしなければならなくなった時にはそれこそアウェイな環境故に、
警戒を怠らない様に部隊が非常にピリピリした空気になっていた事をアルジェントはドアの奥に進みながら思い出していた。
「なぁ、さっきそっちが調べていた洞窟の中には魔物とか居たのか?」
洞窟の中を調べて来たラニサヴ達からある程度の情報を仕入れておけば、それだけでも少しは違うだろうと
アルジェントは聞いてみる。
ラニサヴは神妙な顔つきで首を縦に振った。
「少しな。いずれも小型の魔物だったからどうと言う事も無かったが。しかしこちらは未踏の場所だ。何があるか分からんぞ」
「やっぱそうなるよなぁ……」
とにかく先に進んでみなければ分からない。
薄暗いその通路の先が、この進み始めた一行をまるで死の世界へと誘い込むアリ地獄の様にもアルジェントは感じ取れた。
(騎士団の奴等は武器持ってるから良いけどよぉ、俺は素手だもんな―……)
こんな時、武器が使えない自分が役に立つ場面は来るのだろうか?
そう思ってみると、アルジェントはここで意外な事に気が付いた。
(そういや、俺この世界に来てから1回もシラット使ってねーな?)
別にシラットで戦いに来た訳では無いし、わざわざ戦う事になってしまう様な不自然なテンションを作る気も無かったのだが、
シラットを使う機会が果たしてこの先あるのかどうかと言う疑問が頭の片隅に生まれた。
(騎士団にも俺は無抵抗で捕らえられたし、特にその後で戦う事も無かったし……でもなぁ、うーん……)
地球では前線勤務を希望していたが、この世界での戦いは望んでいない。
だけど身体を動かす事が元々好きなアルジェントは、心の中に何だかモヤモヤとした気持ちを抱えている。
その気持ちの正体が一体何なのか、今の自分にはさっぱり分からないままアルジェントは公国騎士団の面々と
一緒に謎の扉の奥へと歩いて行った。
その奥へ奥へと歩いて行くと、最初は岩壁だったのが次第に白っぽい灰色の石の壁で出来ている区画に突入。
壁にはランプも所々に吊るされており、たいまつも必要無くなったので火を消してから先に進むとその先はちょっとした迷路になっていた。
「迷路だよな、これ?」
「ああ。だがこちらはこれだけの人数が居るだろう」
と言う訳で騎士団員達が総出で正解のルートを見つけ出したので、特に問題無く先に進む事が出来た。
やはりこう言う時には人の協力があってこそだろうな、とアルジェントは思いながら騎士団員達と一緒に更に先に進む。
先の方にはその迷路よりも少し広くなっている通路があり、通路から伸びている複数の脇道の先はそれぞれ小部屋に繋がっている。
これ等の小部屋もそれぞれの騎士団員が警戒してくまなくチェックして行き、特に問題が無い事を確認した。
「小部屋だと?」
「はっ。小さな木のテーブルやホコリまみれで字が掠れた書物等がありましたので人の住んでいた形跡はあります。
ですが状態から見るともうすでに何百年は経過しているかと思いますが」
「そうか。ならば生きている人間が居るかどうかについては期待しない方針で進むぞ」
この不思議な扉の先に延びていた通路は、どうやらこの通路の先で何かが行われていた形跡を示すものらしい。
先程の小さな迷路はそれこそ侵入者対策なのだろうか?
そうでも無ければわざわざあんな場所に意味も無く迷路なんて造る方がどうかしてる、とラニサヴは自分の考えを
居並ぶ騎士団員達とアルジェントに伝えた。
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