A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第38話
(……ん?)
それを見たのは偶然だった。
食堂での話も長引いた事で……と何だかマンネリ感がたっぷりの今の異世界での今後の
生活を考えながらリオスはベッドに入った。
そして前の宿屋の時と同じくシングルベッドが2つ並んでいる部屋を取る事に成功したので、2人で並んで
眠っていたのだが、どうやらいよいよマンネリな展開を打破するイベントがやって来た様であった。
ギシ……と木の板がきしむ音が聞こえ、それから扉をそっと開けて出て行く気配をうとうとしていたリオスは感じ取る。
リオス自身は余り寝つきが良くない方なのではあるが、むしろこの時ばかりは自分のこの寝つきの悪さに今だけの
感謝をしながらベッドから起き上がった。
リオスが見た物。それはベッドから起き上がってリオスの様子を警戒しながら部屋からそっと出て行くホルガーの後ろ姿だった。
警戒している、と言うのは自分の方を見ているのが視線を感じた事で分かったし、明らかに足音を立てない様にしながら
部屋を出て行く。勿論、このホルガーの動きだけを見てみれば眠っているリオスを起こさない様に、物音を立てない動きで
部屋から出ただけかも知れない。
だが、それにしては不審な点があるとリオスは考える。
(なぜ、あいつは手袋をはめて出て行くんだ。トイレに行くだけなのかもしれないが、それだったら別に素手のまま行ったって
良いだろうしな。わざわざ手袋をはめて出て行くと言う事は、数分位でこの部屋に戻って来る訳では無さそうだ)
気になるな……と自分の勘を信じて、ホルガーに気づかれない様にリオスは尾行を開始する。
(まさか、またもや尾行をする事になるとは)
最初に自分が居たあの町で、あの女の尾行をした時以来か……とリオスは思い返してみる。
あの時は尾行に慣れていなかったのもあってなかなか上手い事は行かなかったが、結果的には尾行は途中までは
上手く行っていたと思って良かっただろう。
そしてその前には、今回と同じく真夜中の最初の町において怪しい人影を追いかけた事もあった。
となれば今回はその2つの追跡をミックスしたミッションだと言える。
(夜はただでさえ音が響き易いからな。足音には気をつけたい所だ)
ただでさえ自分のこの銀髪は目立つが、そこは黒いコートを着込む事で存在感が少しは消えてくれるかな、と
着込んだコートの襟を正してリオスもドアを開けてホルガーを追いかけ始める。
こんな夜中に、ホルガーが今まで抜け出して何処かへ行く事などあっただろうか?
いや……無い。
少なくとも自分と行動をこうして共にする様になってからは無い筈だとリオスは思い返しながら尾行を続ける。
(とは言えども俺とホルガーが出会ったのはつい数日前だし、他人の生活習慣にはズケズケと無闇やたらに踏み込むものでも無い)
そもそも自分と出会う前のホルガーの生活習慣については知る由も無いから、ホルガーのこの行動は周期的に行っている
ものなのでは無いか、と考える。 それでもこうして自分が尾行をしようと思ったのは、何故自分が寝ている事をあそこまで警戒して
宿屋を抜け出す必要があったのだろうか? と言う事だった。
(別に宿屋を抜け出して風に当たるだけ、と言うならまだしも明らかにすぐに戻って来ない雰囲気がさっきのホルガーにはあったからな……)
軍人として戦場に出て来た事で、危機管理能力や雰囲気の違いを感じ取る能力に関しては一般人よりも優れていると自負する
リオスは、今回もその能力を信じてひたひたと足音を立てない様にしてホルガーを見失わない距離で付かず離れずの距離を保つ。
するとホルガーの足の動きがぴたりと止まった。
リオスは素早く近くの民家の壁の角に張り付いて、曲がり角になっているそこからホルガーの動きを観察。
(警戒している……)
もしや気配や足音が出てしまっていたのだろうか? ときょろきょろと辺りを見渡すホルガーにリオスは自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じ取る。
だが、それは杞憂に終わった様であった。
そのままホルガーは再び足を進ませ始めたので、リオスも尾行を再開。
(随分警戒心が強いな)
やはりトイレに行く為では無さそうだと確信しながら、とにかく見失わない様に最大の注意を払ってホルガーを追い回す。
そうして、もう1度足を止めたホルガーを今度はそばに置いてある大きな備え付けのゴミ箱の影から悪臭に耐えつつ先程と同じ様に見つめるリオス。
そのリオスの視線の先で、スッと方向転換したホルガーは路地裏へと入って行った。
(やはり……怪しいな)
路地裏に入ると言う事は何か意図がある筈だ。ホルガーが気に入っている秘密の店があるのか、それともまた別の目的があるのか。
ここまで来たら絶対に何をしようとしているのかと言う事だけは突き止めておきたい。
その思いでリオスも路地裏に入る為に身体を浮かせた次の瞬間、後ろから何者かの気配が現れる。
「……!?」
バッと上半身ごと後ろに振り返ってみれば、そこには数人の男女が警戒心を最大限まで高めながら立っていた。
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