A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第15話
「あー……もうやだ……」
自分に割り当てられた詰め所の簡素な部屋で、これまた簡素なベッドに寝っ転がったアルジェントは、
白い手袋をはめ直した両手の手のひらでグイグイと顔を擦って呻いた。
防具の実験も結論から言ってしまえば、アルジェントが身体全体に対してダメージを
負う結果になってしまったのだ。
一体どう言う事なのかと記憶をさかのぼってみるアルジェントは、自分の身体にやって来た数々のショックを
思い出して絶望感と敗北感と無力感に打ちひしがれる結果になったのだ。
武器に対する実験で自分の腕にダメージを負っていたアルジェントだったが、休憩した事もあって
気を取り直して防具の実験に取り組み始める。
肩当て、胸当て、すね当て、腕当て等の各部位の防具を試す事になり、革製と金属製と言う様に違う材質で
作られている防具もあったのでそれもチェックさせて貰う事にしたのだ。
まず最初に1番大きな胸当てから触ってみる事にした。
(大丈夫かよ……?)
武器のトラウマもあって、ツンツンと指先で触ってみてから恐る恐ると言った手つきで胸当てに触れてみる。
「……おっ? お、おおおおおっ!?」
ただ胸当てを持ち上げただけなのに、アルジェントは一種の感動を覚えてしまった。
そう、防具には触る事が出来たのである。
その後に肩当て、すね当て、腕当てと残りの防具にも2つの材質それぞれでチャレンジしてみたが、
結果は全て触る事が出来たのだ。
「よ、よっしゃ……」
感動したアルジェントは、それじゃ早速この防具を着けてみて自分にどれ位フィットするか試してみるか! と
ウキウキ気分を隠せないままで胸当てを自分の身体の前面に押し当てた。
バチィィィィッ!!
「うっぐぉあああああっ!? 痛ってえええええええええええ!!」
アルジェントは思わず胸当てから手を放し、ショックから逃れる為反射的に自分から後ろに飛んで地面にしりもちをつく。
その場に居た騎士団員全員が腕で顔を覆ってしまう位の物凄い音と光、そしてそれにプラスしてアルジェントは
武器の時に腕に感じた痛みに比べて、体感的に2倍位の痺れる様な痛みが身体全体に襲い掛かった。
「……え……あ、あれっ……?」
何故だ? 一体何故?
さっき確かに防具には触っても大丈夫だった筈だ。
2つの材質、違う部位の全てで試してみて、それは自分が1番良く分かった筈なのに……とアルジェントは
唖然とした表情と痛みをこらえる表情が入り混じった顔で、自分が落っことしてしまった胸当てを見つめた。
さっき初めてこの胸当てに触った時よりも、明らかに慎重な動作でもう1度胸当てに触れてみるアルジェントだったが……。
「……あれっ?」
やっぱり触ってみても何も起こらない。でも確かに自分が感じた様に物凄いショックが襲い掛かって来た訳だし、
騎士団員達もそれをはっきりとその目で見ている。
何でだ? と疑問に思いながらも痛みをこらえつつ立ち上がったアルジェントに対して、その様子をさっきから見ていた
ラニサヴがこんな意見を出して来た。
「もしかしてだが、防具類の場合は「触る」のは平気でも「身に着ける」のはその現象が起こるんじゃ無いのか?」
「えっ?」
騎士団長の言っている事が一瞬理解出来なかったアルジェントだが、そう言われてみれば確かに……と段々それが
1番納得出来る理由だと自分の脳が理解し始める。
「とにかくそれ以外の防具も確かめてみるのが手っ取り早いだろう。痛みは確かにきついかも知れないが、
休憩しつつでも構わんぞ」
「ああ、分かったよ……」
その後にそれぞれの防具を全ての部位と2つの材質それぞれで「身に着けて」みた結果、やっぱり身に着けた時に
限ってこの現象が起こるのが分かったのである。
その頃にはもう既に、胸当ての胸の部分から始まって身体全体にダメージを負ったアルジェントは疲労困憊であった。
ラニサヴの方でも武器と防具の実験結果については理解出来たので、アルジェントのこの後の処遇について決まり次第
連絡するから部屋で休んでいてくれ、との通達を受けてこうして与えられた部屋のベッドに倒れこんで休んでいた。
(くそっ……これじゃあ俺、この世界で生き抜いて行けるのかよ?)
元の世界である地球に帰る方法すら分からない今の状況で、まさかの武器も防具も使えないと言う事実が
発覚した事でアルジェントは肉体的にもそうなのだが、それ以上に精神的なショックが大きかった。
しかし、そこでふとアルジェントは考え方を変えてみる。
(待てよ……別に俺は戦う為にこの世界に来たんじゃねえよな。そもそも俺は来たくてこの世界に来た訳でもねーしな)
だったら別に戦わなくても、元の地球に帰る為の術を見つける事が出来る様に最大限の努力をすれば良いだけの話である。
まだこの世界がどんな世界なのか分からないし、この先の自分の旅路がどんな展開になるかも分からない。
だけど、なるべく戦わなくても地球に帰る方法はある筈だ。
そう考えている内に、アルジェントの意識は何時の間にかブラックアウトして行った。
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