A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第11話


冷たい床に放り投げられる様にして……いや、その通り放り込まれてしまったアルジェントは、

その部屋に立ち込めている臭いに顔をしかめた。

(うわ、くっせぇ……何だよここ……)

かび臭い様な独特の臭いに対して顔に不快感を露わにしつつも、アルジェントは手かせと足かせを付けられた状態で

拘束された自分の身体を舐め回す様に見つめる。

薄暗い地下の牢屋に放り込まれたと脳が理解して行き、アルジェントのその脳に1つの疑問が浮かび上がる。

(あの野郎……俺をこんな場所に閉じ込めやがって、何するつもりなんだよ?)

あの赤髪の男が武器と防具のショップでいきなり態度を変えて、明らかに彼の部下であろう帯剣した男女達に

命令して自分をこんな場所に連れて来た理由を考えてみるアルジェント。


そもそも、あの赤髪の男は一体何者なのだろうか。

(町中で一声かければすぐに武装した集団を呼び寄せる事が出来るから、あいつは恐らく……)

武装したその男女の集団に指示を出してあっと言う間に自分を取り囲んで拘束した挙句、こんな場所に

放り込めるだけの権限を持っているとなれば普通の人間では無い。

(普通の人間じゃ無い、と言っても俺とあの野郎じゃ意味が違う……んだろうな)

指示を出してその通りに他人を動かす事が出来るのであれば、アルジェントも名ばかりとは言っても少佐の

立場にあるので何となく自分とシンクロする部分を感じていた。

少尉からスタートする将校の世界では、部下を上手く動かしていかなければいけないからである。

元の彼の階級である中尉であろうとも、名ばかり少佐だったとしてもどっちでも基本的なその部分は何も変わりが無い。


それ以前にもっと考えなければいけない事があると思い出したアルジェントは、思考を一旦切り替えてその事についても考え始める。

(ってかよー、この世界が仮に地球じゃ無いとするだろ? だったら俺はあれか? その……メルヘンの国にでも来ちまったって

言うのか? そんなの……それこそティーンエイジャーの世代の話じゃねーのか?)

何でよりにもよって、今年で35歳になる自分がこんな世界にやって来てしまったのか疑問に思わざるを得ない。

でも、こうして来てしまったんだからその現実を受け止めなければいけないと言うのもまた事実であるのだから余計にタチが悪い。

(そう考えてみるとよー、この世界が地球じゃ無いなら魔術とかあってもおかしくは無いし、あんな地球じゃありえねー様な

生き物が居たって不思議でも無いけどな)

その部分から考える事をアプローチして行くと何だか納得出来るアルジェントだったが、でもやっぱりまだ納得したく無いと

自分の心がざわめいている。


この現実を受け入れるまでにはまだまだ時間がかかりそうな気がするぜ、と思いつつも軍服のポケットに入れていたスマートフォンを

手首をグイっとひねりつつ頑張って取り出す。

(ああ、この動画があるって事はやっぱり現実なんだろうなぁ)

メルヘンチックな世界に来てしまった事を完全に受け入れられない自分に対して、嫌でもその事実を現実のものとして

スマートフォンに録画されている動画……あの林の中で、赤髪の男と変な生き物が戦っていたあの動画が突き付けて来る。

やっぱり今の状況は現実なんだなー……と落胆半分、絶望半分の気持ちになってしまったアルジェントの耳に

カツーン……カツーン……と誰かが歩いて来る音が複数人分聞こえて来た。

(誰か来る……?)

スマートフォンを軍服のポケットへと戻して、鉄格子の外側から聞こえて来るその足音に自分の意識を集中させるアルジェント。


そうして待っている彼の目の前に姿を見せたのは、今の今まで色々と考えていた自分の頭の中に強く印象付けられている

あの赤髪の男であった。

「出ろ。これから尋問を行う」

腕を組んで顎をしゃくり上げ、誰が見ても偉そうな態度と口調でアルジェントに指示を出す赤髪の男。

その傍らでは彼と一緒に歩いて来た、彼の部下であろう武装した男と女が1人ずつ警戒心を見せながらアルジェントの足かせを外す。

足だけでも自由になった事に若干安堵したアルジェントではあったが、尋問と言う単語が頭の中で反響するのに時間は掛からなかった。

(尋問って……色々聞かれるよな。前線でも捕まえた捕虜に対して色々尋問していたみてーだけど、俺はそっちの

担当じゃなかったから詳しい事は分からねえし……)

尋問「する」立場なら、それこそ前線で一緒に活動していた帝国軍の人間がその様な事をしていたと聞いた事はあったものの、

尋問「される」立場になったのはアルジェントの軍人生活の中では初めての事である。

今は違う世界に居るから、厳密に言えば軍人じゃ無いのかも知れないけど……とどうでも良い事を考えつつ、若干手荒に

アルジェントは尋問を行う為の部屋へと歩かされる破目になった。

こうなったら俺の聞きたい事を聞きまくってやるぜ! と意気込むアルジェントだったが、この後に今まで受け入れようとしていたものよりも

遥かに残酷な現実が彼に突き付けられる事になる。


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