A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第12話


牢屋からそのまま歩かされ続け、アルジェントはまんま取り調べ室の様な小部屋へと案内される。

テーブルを挟んで向かい合わせに赤髪の男と座り、テーブルの横では赤髪の男の部下であろう

武装した人間がきっちりと監視の目を光らせている。

それだけでは無い。アルジェントの両手にはまだ手かせがはめられた状態のままなのに変わりは無いが、

椅子の後ろに両手を回されて後ろ手に拘束されると言う姿勢に変えられてしまった為に、牢屋の中に

居た時よりも窮屈な体勢になっているのだ。

(こんなんじゃさっきの方がマシだぜ)

心の中で悪態をつきつつ、自分の目の前に座っている赤髪の男がそばに居る兵士から書類を受け取ったのを

見るアルジェント。

これからまた色々と聞かれるんだろうな……と思っていたら、やっぱりその通りだったのだから何時もの軽口も笑いも

何も出て来なかった。名前や年齢から始まり、何処から来たのかと言う事や家族構成も聞かれたし、それから

特技や趣味まで全てをさらけ出す様な尋問が2時間に渡って行われた。


そして出た結論としては……。

「ふん、どうやら本当に我が国に害を為す存在では無い様だが……このまま国外に追放するかどうかの最終判断は

大公がなされる事なのでな。流石に俺の独断で決定までは出来ん。ひとまず、貴様には俺と一緒に都まで

来て貰わねばならん。何が何でもだぞ。分かったな?」

だが、アルジェントにはどうしても気になる事があった。

今の今までその事を聞いていなかったのが逆に不思議な展開でもある。

男の口から今までその話題が一切出ていなかったのも不思議だが、おそらく自分の魔力がどうのこうのって

言う話があったから言い出すのを忘れていたのだろう、とアルジェントは強引に自分を納得させるしか無かった。

(それを言い出してしまえば俺だって……)

自分の方だって今の今まで色々と目まぐるしい展開が続いていたにせよ、あの牢屋に放り込まれた時を始めとして

その話題を口に出せる時は幾らでもあった筈だと思ってしまう。


でも、その事を今更悔いたってどうしようも無い。

ならば今聞くだけである。

「それは良いんだけどよぉ、俺な……ずーっと気になってた事があるんだけど聞いても良いか?」

「何だ?」

「どう考えてもあんた、普通の人間じゃ無いよな? あーその、立場的な意味の話でだけど……町中で一声かければ

すぐにこいつ等みたいな兵士を呼び寄せられるし、今こうやって俺に尋問をしているって事はその……一般人じゃねーよな?」

ある程度の予想はアルジェントにはついているにせよ、今まで感じていた疑問を全てひっくるめて自分の向かいに座っている

この赤髪の男にぶつけ、そして彼自身の口から聞き出さない事には納得出来ない様な気がしたのである。

その疑問に対して、男は呆気無くアルジェントの求めている回答をした。

「ああ、そう言えば俺の自己紹介がまだだったな。俺はラニサヴ・リーベルト。エレデラム公国騎士団の団長を務めている」

「へっ?」


確かに求めている回答ではあった。

だが、アルジェントの予想を超える回答である事にも間違い無いのである。

「え、あ、あれ? 騎士団の団長って……えーっと、ちなみにこの地方は都からどれだけ離れているんだ?」

「都のバルナルドからならワイバーンを使えば半日で着く。馬なら休憩を入れつつ1週間と言う所か」

(うわ、またファンタジーっぽい単語が出て来たぜ……)

ワイバーンと言えば何かの伝説の生き物だった様な気が……と、ファンタジーに疎いアルジェントでも辛うじて

知っているか知っていないかと言うレベルの単語を耳にして、思わずため息が出てしまった。

「何か不満か?」

「あーいや、別に何も。だけど気になったのは、何でわざわざ騎士団長ともあろう人間が都から離れてこんな

場所で戦ってるんだよ? それも1人で」

大規模な災害での慰問だったりでも無ければ、わざわざこんな場所で単独行動をする筈が無いんじゃないのか? と考える。


それに対して、ラニサヴとと名乗った騎士団長は質問に質問で返して来た。

「逆に聞くが、貴様はなぜそう思うんだ? 俺がここに居るのがそんなに変か?」

「ん〜……まぁ、変とまでは思わないけどよぉ。ちょっと不思議に思っただけだよ。騎士団長って言ったら普通は国の

トップ……大公様か。その大公様のそばに仕えて、護衛とかしてるもんじゃねーの?」

ぱっと思いつくのはそれ位だったし、やっぱりファンタジーなジャンルにはまるで疎いので自分が知っている限りの予想を

アルジェントはラニサヴにぶつけてみた。

そのクエスチョンに対して、非常にシンプルなアンサーをラニサヴはアルジェントに返すのだった。

「当分戦も無いだろうし、我が国は幸運の国だからな。そんな幸運な国の視察を今回はしに来たんだ。俺自ら大公に頼み込んでな」

「幸運の……国?」

一体、何がどうしてこの国はそんな風に呼ばれているのだろうか?

アルジェントの疑問がまた新しく出て来るのはすぐの事だった。


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