A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第37話
つい最近自分が言った覚えのあるそんな言い回しを聞いて、リオスが今度は考え込む番になった。
「もし、その仮説が正しいとするのであれば……俺と同じ様に過去に異世界からやって来た、もしくは
これからやって来る人間が居てもおかしくは無いか。それか、人間以外の生物が異世界からやって来たと
言う事も考えられる場合もあるだろうな」
地球みたいな異世界があるのかどうかなんて分からないけど、と最後にそう言ったリオスにホルガーは若干の話題変更をする。
「そう言や、あんたの地球って言う世界の文明は相当進んでいるらしいな。天まで届きそうな位に高い建物があったり、
馬も無しで走れる荷車があったり。真面目に1回そっちの世界に行ってみたいぜ」
楽しそうな表情と声色でそう切り出したホルガーの方を見て、リオスは逆にこの世界の事を今まで聞いて来た以上に聞いてみる。
「こっちの世界の文明は、やはり魔法の存在が大きいと思うのだがな。魔法は君を含めたこの世界の人々の生活に
欠かせない事だったりするのか?」
「そうだよ。俺は魔法は使えないけど、俺も含めたこの世界の人間は魔法に大いに助けて貰って生活が出来ているのさ。
料理を作ったりお湯を沸かしたりするのは火の魔術で、洗濯物を乾かしたりするのは風の魔術。畑を耕すのは地の魔術だし、
水の魔術で雨を人工的に降らせたりする事も出来る。だから昔から砂漠になっちまってる一部の地域を除けば、干ばつの心配も無いって訳さ」
「そうか。では、君の様に魔法……魔術って言えば良いのか。魔術を使う事の出来ない人間は日々の生活に支障が出る事は無いのか?」
ああ、とホルガーは魔術が使えない人間の代表者として苦労する点を述べていく。
「確かに魔術が使えたら良いなって思う時はあるさ。けど、その魔術を使えない人間達にはちゃんとしたそれ用の魔道具が
あったりするから心配は要らねえ」
「魔道具……?」
何だか聞き慣れない単語が出て来たが、名前からすると魔術のテクノロジーを使った道具なのだろう……とリオスは推測した。
「シンプルに言えば、あのほら……ギルドであんたの魔力量を測っていただろ。あの魔力量を測定する道具も魔道具の1つだ。後は……ほら」
ホルガーは自分の右手の黒手袋を外して、その下の人差し指にはめている小さな黄金色のリングをリオスに見せた。
「俺はこれをつけてるから助かってるよ」
「それも魔道具とか言う物なのか?」
「そうさ。これが俺にとっての生命線って言っても良い。このリングがあるおかげで、例えば体力がアップしたり反射神経がアップしたり。
このリングは体内の魔力に反応して、身につけている奴の色々な能力をアップしてくれるんだ」
値段も結構したけどな、と付け加えたホルガーのその指輪に、リオスは少なからず興味を持つ。
「実際、その指輪が無かったらどうなるんだ?」
「これが無かったら? そりゃもう体力だって落ちちまうし、反射神経だって鈍くなっちまう。でも、形あるものは何時か壊れちまうだろうから
この指輪が万が一壊れてしまっても良い様に、トレーニングはしてるよ。それこそ筋力トレーニングから反射神経まで。この指輪の効果は
身体能力の向上がメインだ」
そこまで聞いたリオスは「ん?」と心に何か引っかかる物を覚えた。
「と言う事は、君が今つけているその指輪は身体能力の向上を手助けする物だけど……他に種類があると言う解釈で構わないか?」
「そうだな。これは指輪を作るショップで個人個人の使い道によってそれぞれ要望出来るから覚えておいて損は無いかもな。身体能力の
向上も出来るし、特定の属性の魔力をアップさせる事が出来る物もある。それから怪我をした時に早くそのキズから身体を回復させる事が
出来る物もあれば、病気……そのものの回復は出来ないけど身体の自然治癒力をアップさせて病気を早く治せる様にサポートしてくれる物まで。
勿論自分が求める用途を正しく伝えて作らなきゃいけないし、値段も要望が多ければ多いだけアップするからな」
「ほぉ、便利な物だな」
もしかすると、そうした身体の中の能力を向上させるテクノロジーに関しては地球よりも断然進んでいるのかもしれない。一概に異世界だから、
地球だから、こっちの世界みたいにパソコンやスマートフォンと言った高度なテクノロジーが無いからと言ってそうそうバカに出来る世界でも
無さそうだ、と今更ながらリオスはこの異世界エンヴィルーク・アンフェレイアのテクノロジーに感動した。
「地球にはそう言った魔力とかがまるで無い世界だからな。やはり魔法ありきの世界では、俺の常識が通用しないものだと改めて思い知った。教えてくれて感謝する」
そのセリフに、ホルガーは何処か慌てた様に手袋をはめ直した右手をブンブンと横に振った。
「いやいや俺は別に……ただこの世界の当たり前の事を言っただけでそんな感謝されるような事はしていないさ。でも、そう言ってくれると少し嬉しいな」
ポリポリと左手の人差し指で自分の頬を掻きながら、照れくさそうにホルガーは笑みをこぼした。
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