A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第8話
「はぁ……訳が分からない事ばかりをさっきから言っているが、本当に貴様は
一体何者なのだ? 非常に困惑しているのだがな」
その気持ちを示すかの様にため息をついた赤髪の男に対して、アルジェントも再び素直に自分の気持ちを吐き出す。
「俺だって訳が分からない事だらけだぜ。ほら……さっきのあれな。あの変な生き物。
あんた戦ってただろ? あんなの俺、見た事ねーもん」
町の入り口に立っている門のすぐそばで、アルジェントの言い分に対して赤髪の男は凄く真顔になってその話を聞いている。
全くの無表情と言うべきか、「それが何だと言うのだ」と言いたげなオーラがヒシヒシとアルジェントに対して男から伝わって来る。
(あれ……何か、俺やばい?)
さっきの気まずい空気がもう1度やって来たんじゃ無いのか、とアルジェントの軍服のジャケットとワイシャツの襟が
緊張の汗で濡れるのが分かる。
少なくともアルジェントにとってはそんな感じがしたのだが、相変わらずの男の無表情さは引き続きアルジェントと
男の間に気まずい空気を流すのには十分なものであった。
「えっとほら、だからさっきあんたが戦ってたじゃん? その腰にぶら下げているサーベルみたいな剣と
背中に背負ってるその弓でよー」
「見てたのか?」
「一部始終だけどな。だから凄い強いって言うのは分かるんだけど……じゃ無くて、それとこれとは別問題だな。
だからな、あの……結局、ここは一体何処なんだって言う話だよ。少なくとも俺、この辺りの人間じゃ無いって事だけは
自分で何となく分かるしなぁ」
しどろもどろで自分でも何を言っているのか理解し切れていないアルジェントに対して、相変わらずの真顔で無表情の
状態が続いている男が口を開いてその答えを返す。
「エレデラム公国のノルディー地方だろう」
「えー、エレデラム……?」
やばい。やっぱりヤバイ。
少なくとも、今まで生きて来た中でそんな国の名前なんてアルジェントは聞いた事が無い。
しかもさっきの変な生き物や、この男の無表情で真剣そうな口調からアルジェントの心に疑問がどんどん浮かんで
纏まって膨れ上がって行く。
出会ったばかりだと言うのに、人の事を見て魔力がどうのこうのと赤髪のこの男は言って来たが、その時の表情を
思い出してみてもかなり真剣な表情だった事をアルジェントは思い出して更に冷や汗が流れ出すのが分かった。
もうこうなったらしょうがないとアルジェントは腹をくくって、思い切って赤髪の男に質問をしてみた。
「えーっと、地球って知ってるか?」
「また訳の分からん事を……きちんとした言葉で喋って貰わなければ俺が苦労するのだが」
やれやれと言った表情で男は頭に手を当てて、心底うんざりした口調でそう言い放つ。
一方のアルジェントは、このやり取りから自分がさっきから感じていた1つの疑問が次第に確信へと変わって行くのが分かった。
(まさか……だよなぁ? ははっ、そ、そんな事あるわきゃねーっての。このテクノロジーが日々進化している時代によ。
でも……でもだぜ? こいつの恰好とかそれこそさっきのあの火を吐く様な変な動物とかこの町並みとか色々と疑問に思う事はあるんだよ。
すると……これだけの製作費をかけてわざわざ俺を騙す為に作られたテレビ番組……うおおおおお分かんねええええええ!? そんな
番組作ってる余裕なんかあるのかよ? しかもあの動物なんて鳴き声もリアルだったしそもそも周りにテレビカメラ持ってるクルーとか
見当たらなかったしえーとそれからえーと……)
「……い、おい! 聞いているのか?」
「はっ、はい!?」
色々と考え込んでしまって頭がパニック状態のアルジェントを、男の鋭い声が現実に引き戻した所で彼の思考は一旦中断される。
「あ、すまーん。聞いてなかった。何の話だ?」
「貴様はこれからどうしたいのだ、と聞いたのだが?」
厳しそうな口調は変わらないまま、赤髪の男はアルジェントが上の空だった時に問いかけた言葉をもう1度繰り返した。
「俺がこれからどうしたいか……そうだなぁ、とりあえず俺、今はこの町を見て回りたいかな。それからついでに腹ごしらえも」
夕食はあの倉庫に向かう前に済ませてあったのだが、こんな突然の出来事にどうやら身体がびっくりしてしまったらしく
腹も空いて来てしまったのである。
それを聞いた男は「ふむ」と頷いて少し考え込み、顔を上げてアルジェントに手招きをする。
「分かった。それなら色々とこの町を案内させて貰おう。ついて来い」
「おー、それは助かるぜ。それじゃあよろしくぅ!」
性格は自分とは余り合わなさそうなイメージがあるが、もしかしたらこの男は意外と良い人間なのかも知れないと考えるアルジェント。
こうなってしまった以上はこの町を色々と回ってみて、元の軍事施設に戻れそうな手掛かりを探す事から始めてみようと思っていた。
そのアルジェントを先導して町の中に入って行く男が、まだ頭の中で色々と思考を巡らせている事なんて知る由も無いままに……。
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