A Solitary Battle Another World Fight Stories 7th stage第3話


今日も合同訓練疲れたね〜と口ずさみながら、自分の割り当てられている部屋へと向かうアルジェントが

「それ」に気がついたのは偶然だった。

「……ん?」

何やらガタガタと音がする。

自分の歩いている今の廊下には人気がまるで無い状態なので、アルジェントもそれに気がつく事が出来た。

「それ」がガタガタとしているのは、どうやら廊下の突き当たりにある物品倉庫の中かららしい。

(……誰か居るのか?)

ここはただの合同訓練の為に用意された施設の中なので、帝国軍の施設では無い以上勝手に色々と

部屋を見て回るのはモラル的に良くないとアルジェントも思っている。

しかし、もし中に居るのが部外者だったら?

自分以外は誰も居ないとも言える位に静まり返ったこの廊下の突き当たりの倉庫の中に、もしテロリストの

類が潜入していたとしたら?

それか、4カ国以外の国からやって来た何処かのスパイだとしたら?


「俺には関係無い」でそのままスルーしてしまう事も可能だったアルジェントだが、どうにもその倉庫の中の「それ」が

気になって仕方が無い。

なのでまずアルジェントはその突き当たりのドアにピッタリと張り付いて、自分の耳がキャッチしてくれる音と中の気配から

ある程度の情報を探ってみる。

しかし、そこで戦時昇進の名ばかり少佐は違和感を覚えた。

(……あれっ、人の気配がしねえな……)

そもそも人の気配どころか生き物の気配すらしない。

でも、耳に聞こえて来るガタガタと言う音はまだ続いている。

となれば何かの機械が振動しているのだろうか?

誰かが例えばスマートフォンを忘れて行って、それで自分の電話宛てに呼び出しをかけているのだろうか?

アルジェントが思い付く可能性は、ドアに張り付いて様子を窺う限りではそれ位しか思い浮かばない。

残りの分からない情報は実際に目で見て確かめるしか無い。


鍵が開いている事も確認して、アルジェントは倉庫の中へと足を踏み入れる。

武器は訓練時間外に持ち歩いてはいけないとの制約があるので、必然的に素手の状態だが構っていられない。

それに部屋の内部を調べるだけなら特に問題は無いだろう、とアルジェント本人も思っていた。

(中を見るだけだからな。そうそう、別に中を争うって訳じゃねえから……見るだけだよ、見るだけ……)

頭の中で自分の行為を正当化しつつ、明かりのついていない部屋へと踏み込むアルジェント。

とにかくそのままでは何も見えないので、ドアの横に部屋のスイッチがあるのでは無いかと思い手探りで

壁をスリスリと探ってみる。

(……お?)

予想通りにドアの横にスイッチを見つけ、白い手袋越しにそのスイッチをパチンと音をさせて操作し部屋の明かりをつけた。

電気が点いた部屋の中は、グルリと見渡す限りでは特に何も異変は見受けられない。

少なくとも、この倉庫に今始めて足を踏み入れたアルジェントに取っては、の話であるが。

しかし、ガタガタと何かが振動する様な音は確かにこの部屋の中から聞こえて来ている。


意を決して、用心しながらアルジェントは部屋の内部へと進んで行く。

(一体この音は何処から聞こえて来てるんだ?)

耳を澄まして神経を集中させてみれば、もう少し奥にある赤いパイロンの方から聞こえて来ている。

目印の一種として置かれる特大サイズのそのパイロンの中から、何かがブルブルガタガタと震える音がしているのを

アルジェントは確信した。何でこんな物の中から……と疑問に思いつつも、確かめてみるしか今の自分には方法が

無いので覚悟を決めてそのパイロンを持ち上げてみる。

その瞬間、今までの人生の中で全くの未知の経験が名ばかり少佐に襲い掛かった!!

「うおっ、おっ!?」

パイロンのあった場所から、目が眩む様な眩い光がアルジェントの視界を不自由にさせる。


「くうっ!」

咄嗟に右腕で顔を覆いつつバックステップでその場から離れよう……としたものの、身体が変な力によってその光の元に

引き寄せられている事に気が付いた。

「えっえっ、な、何これ何これ!?」

黒いブーツを履いている足で引っ張られない様に踏ん張りつつ、顔を覆っていない方の左腕で足を踏ん張る為に

何か掴めないかとバタバタさせるが、空しくその腕は宙を切るだけに終わってしまった。

「う、うあああああーーーーっ!?」

その絶叫で誰かが気が付いてくれればと思いながら、アルジェントの身体はゆっくりと光に吸い込まれて行く。

しかし、部屋の中はおろか部屋の周りにも全く人気が無い無人の状態だった事が不運となって、アルジェントの身に

降りかかった異常事態には誰も気が付く事が無かったのである。

そのままアルジェントは光の眩しさに耐え切れずに、だんだんと意識がブラックアウトして行くのを感じ取る。

これから自分はどうなってしまうのか、まさかこのまま天国へ導かれてしまうのか? と考えながら。

そしてそれはこれからのアルジェントに待ち受けている理不尽と、その理不尽から逃れる為に彼が全力で

抵抗して行くストーリーのスタートを意味する現象だった。


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