A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第36話
「と言う事は、あんたは結構なお偉いさんだったのかよ……。でも、何で普段現場に出ないで
執務室で書類整理とかしてる様な人が、こうしてこの異世界に来てしまったんだよ?」
心底不思議そうにホルガーが尋ねるが、リオスは首を横に振ってお茶を一口コップからあおってから言葉を返した。
「それは俺が1番聞きたい所だが……実はだな、訓練の視察として俺は部隊の様子を見に行ったんだ。
その日は丁度軍の施設の中では無く、近場の森の中で実戦を想定した野外訓練をしに行った。
しかも俺達だけでは無く、他の国と3カ国で合同訓練をしていたんだ」
「ほほう、となるとあんたの国だけが訓練をしていたんじゃ無くて、大勢の他国の人間も居る中で忽然とあんたが
消えてしまってこの世界に来たって事になりそうだなぁ?」
となれば今頃大騒ぎになってるんじゃねーか? とホルガーが何だか楽しそうに続きを促すのを見て、若干リオスは
不機嫌そうに眉をひそめた。
「……続けるぞ。俺も普段は軍の施設内で戦闘に関するトレーニングを時間がある時にはしているけど、野外で……そして
実戦訓練は久しくやっていなかったから少しだけ装備を借りて参加させて貰った。で、その訓練も区切りがついたから今のこの服装に
着替えて休憩場所へ向かった。それでその休憩場所の近くの茂みで何かがガサガサと隠れる様な音がしたから俺が様子を見に行ったら
強い光が現れて、俺の身体がその強い光に包まれて……気がついてみたら俺がこの世界に迷い込んでしまった」
本当に、これが今までこの世界に来る前に起こった出来事の全てだったんだとリオスの説明は終了した。
すると、その話を聞いたホルガーが考え込む様子を見せる。腕を組んで若干下を向き、足を組んでうーん……と唸る素振りだった。
「……何か気になる点でも?」
「ああ、いやな? それだったら何であんただけがこの世界に来てしまったかって事になるよな。だって他にも色々な国の、そしてあんたの
国からも訓練に来ている大勢の人間が居たんだったら、他にも巻き込まれた人間が居るって事にならねーか? 他に巻き込まれた
地球人って言うのは居ないのか?」
1つの仮説を立てるホルガーだが、リオスはあの路地裏にいきなりトリップしてしまった時から同じ地球の人間だと言う人物に出会った事は無かった。
「それは分からない。その可能性もあるのかも知れないけど、今は俺も自分自身の事で精一杯だから如何すれば良いか頭の中が
まだ混乱している。だから今の所はとりあえず、帝都を目指して進み続けるしか無いだろう」
「そう、か……」
「他にも地球人が居るんだったら心強いとは思うが」
いや、どちらかと言えば安心感の方が強いかもな、とリオスは続ける。
「この年齢でこんな不思議な体験が出来るなんて思いもよらなかった。ただ、楽しもうと言う気にはなれない。
俺はまだ元の世界でやら無ければいけない事だってあるだろうし」
それが何かはまだ分からないけど、と締め括ったリオスにホルガーは組んでいた腕を解いた。
そして次の瞬間、リオスが思わず目を見開いて驚いてしまう位の爆弾発言を投下する。
「……驚くかも知れないけど、なるべく冷静に聞けるなら聞いて欲しい事があるんだ。あんたは今までの言動を見ていると冷静に
物事を分析出来そうなタイプだからその心配は無いと思うけど」
「何だ? 言ってみろ」
妙な言い回しをして来たホルガーに、リオスは訝しげな視線を向けながら話の続きを促す。
「その前に言っておくけど、これはあくまでも噂ってだけだから話半分で捉えてくれた方が良いかも知れない。俺が他の町のギルドから
やって来た便利屋仲間が言っていた事なんだけど……こんな話を3ヶ月位前に聞いた事がある。何処の国だったかは忘れたけど、異世界から
来た人間が居るって……。それも2カ国で」
「何だって!?」
普段余り驚きの表情を見せないリオスが、その話については感情むき出しのアクションで反応した。
「まさか俺以外にも、地球からこの世界にやって来た人間が居ると言うのか?」
「いやいやそれは分からないよ。だから言っただろ、あくまでも噂程度だって。それに本当に異世界人だったとしても、それが本当に
あんたと同じ地球って言う世界から来たって確証も無い訳だしさー」
リオスが身を乗り出して、椅子から半立ち状態になっている様子に戸惑いの表情を隠す事もせずホルガーは両手を身体の前に
突き出して「落ち着け」と言うジェスチャーをした。
そのジェスチャーで、リオスも落ち着きを取り戻して椅子に座り直す。
「と、とりあえず一旦座れよ。冷静なあんたらしくも無い。何で俺がこんな話をしたのかって言うと、異世界から来た人間が居るって
言う噂がこうやって届いている訳だから……あんたみたいに実際にこうして異世界から人間がまたやってきてもおかしくは
無いんじゃないかって事だよ。そして、その合同訓練であんた以外に巻き込まれてこの世界に来た人間も居るかも
知れないから、まだ希望を捨てるのは早いんじゃねーのかな……」
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